映画.comでできることを探す
作品を探す
映画館・スケジュールを探す
最新のニュースを見る
ランキングを見る
映画の知識を深める
映画レビューを見る
プレゼントに応募する
最新のアニメ情報をチェック
その他情報をチェック

フォローして最新情報を受け取ろう

検索

【佐々木俊尚コラム:ドキュメンタリーの時代】「太陽と踊らせて」

2021年7月24日 21:00

リンクをコピーしました。
イビサ島の伝説的DJジョン・サ・トリンサを描いたドキュメンタリー
イビサ島の伝説的DJジョン・サ・トリンサを描いたドキュメンタリー
(C) Pure in the Moon

「音楽の島」で有名なスペインのイビサ島。そのイビサの浜辺で、四半世紀にわたって音楽を流し続けている伝説のDJがいる。本作はそのDJ、ジョン・サ・トリンサを描いたドキュメンタリである。

画像2

夏のあいだ、浜辺にあるレストランの小さな小屋で、彼の選曲が聴きたくてあつまってきた人々に自分の好きな音楽をただ流し続ける。シーズンが終わると海小屋はたたまれ、求められるまま世界のさまざまな場所に出かけてはDJをし、旅をしながら暮らす。まるで天上の楽園のような生活に思える。表には出ないさまざまな苦労はあるだろうけれど、年を重ねた主人公ジョンの眩しすぎるほどの笑顔と美しいイビサの映像に、ただただ癒される。

イビサはナイトクラブが盛んで、世界中からパーティピープルが集まる。かけられる音楽もEDMとかのそういう印象が強いのだけれど、本作で流れる音楽はまったく違う。昔からバレアリック(イビサ島のあるバレアリス諸島から来てる)と呼ばれているような、海辺でチルしながらゆらゆらと踊ってるような、そんな曲ばかりだ。

しかも特定のジャンルに偏らず、彼は世界中のありとあらゆる音楽を選曲しているのが面白い。

画像3

SpotifyやApple Musicのようなストリーミングが普及し、すべての時代とすべての場所の音楽が聴けるようになり、すべての音楽がフラットにそこに存在する時代になった。もはや一般リスナーにとっては、音楽を体系的にジャンルごとに聴くものではなくなった。特定のミュージシャンの音楽だけに入れ込む人もいれば、その日その時の気分に合わせてプレイリストを選ぶ人もあり、あらゆるジャンルを横断的に攻めていく人もいる。自分自身の好みのコンテキストに沿って、どんなふうに音楽を聴こうが自由である。そういう自由な音楽スタイルが、月々1000円程度でだれにでも楽しめるようになったのだ。

本作の監督リリー・リナエが、ジョン・サ・トリンサのプレイリストをいくつか教えてくれた。彼女の素敵なコメントつきで、SoundCloudのリンクを紹介しよう。

●土曜日の朝の始まり。昨晩のロマンスに胸を膨らませるも二日酔いの中、部屋を片付けながら聞く
https://soundcloud.com/jon-sa-trinxa/sa-trinxa-live-25092017-29092017-part-2
●日曜日の午後。気持ちのよい日差しを浴びながら、クッキーを抱きしめて聞く
https://soundcloud.com/jon-sa-trinxa/jon-sa-trinxa-nammos-beach
●雨が降っていて、今日は外に出たくないとき。窓の外に咲く傘を眺めながら聞く
https://soundcloud.com/jon-sa-trinxa/jon-sa-trinxa-summer-mix-september-2015part-1
●シャキッと迎える月曜日。作りたてのスムージーで身体を満たしている時に聞く
https://soundcloud.com/jon-sa-trinxa/jon-sa-trincha-naked-ibiza-the-salinas-beach-mix
●天井を眺めながら夢現。月と一緒に横たわって聞く
https://soundcloud.com/jon-sa-trinxa/dreaming-with-nito-the

これらのプレイリストを流しながら窓の外の空を見ていると、地中海西部のおだやかな浜辺が、まさに今そこにあるように感じる。

台湾で生まれ歌舞伎町で育ち、アメリカで映像制作をしてきたリリー・リナエ
台湾で生まれ歌舞伎町で育ち、アメリカで映像制作をしてきたリリー・リナエ

それは昔の「異国への憧れ」「ビーチリゾートへの憧憬」ではなく、もっとリアルで身近な感覚だ。2020年からのコロナ禍で世界は遠くなったが、しかしインターネットによって映像や音楽やテキストが交換されて世界は近くなり、どこにいてもどこか遠くの「空気」を間近に感じることも可能になった。そういう21世紀的な新しい距離の感覚が、本作からは浮かび上がってくる。

わたしたちは健全で心地良いこの瞬間を、いまわたしたちが物理的に存在している日本でも感じ、それを遠い土地のものとしても感じ、あらゆる土地と時代が、この瞬間からすべてつながっているような感覚を持ちはじめているのかもしれない。

画像5

リリー・リナエは台湾で生まれ、台湾の両親のもとで新宿歌舞伎町で育った。自分のアイデンティティはいったい何で、自分はいったいどこに所属しているのかを、つねに葛藤しながら生きてきたという。その彼女がイビサ島で伝説のDJに出会う。音楽のさまざまな人との出会いも発見も苦い経験も、ありとあらゆるものをミックスしながら生きている彼の姿に、新しい世界の地平を見いだした。

スローガンを声高に叫ぶのではなく、音楽をとおして穏やかに多様性の世界のありようを知る。文化が社会を変えるというのは、こういう基点から始まっていくのだと思う。ジョン・サ・トリンサの眩しすぎる魅力的な笑顔は、まさにその新しい世界のありようを象徴しているようだ。

----------
■「太陽と踊らせて
2020年/日本
監督:リリー・リナエ
2021年7月24日から、新宿K's cinema、アップリンク吉祥寺ほか全国順次公開

ジョン・サ・トリンサ の関連作を観る


Amazonで関連商品を見る

関連ニュース

映画.com注目特集をチェック

関連コンテンツをチェック

シネマ映画.comで今すぐ見る

ゴールドフィンガー 巨大金融詐欺事件

ゴールドフィンガー 巨大金融詐欺事件 NEW

トニー・レオンとアンディ・ラウが「インファナル・アフェア」シリーズ以来、およそ20年ぶりに共演した作品で、1980年代の香港バブル経済時代を舞台に巨額の金融詐欺事件を描いた。 イギリスによる植民地支配の終焉が近づいた1980年代の香港。海外でビジネスに失敗し、身ひとつで香港にやってきた野心家のチン・ヤッインは、悪質な違法取引を通じて香港に足場を築く。チンは80年代株式市場ブームの波に乗り、無一文から資産100億ドルの嘉文世紀グループを立ち上げ、一躍時代の寵児となる。そんなチンの陰謀に狙いを定めた汚職対策独立委員会(ICAC)のエリート捜査官ラウ・カイユンは、15年間の時間をかけ、粘り強くチンの捜査を進めていた。 凄腕詐欺師チン・ヤッイン役をトニー・レオンが、執念の捜査官ラウ・カイユン役をアンディ・ラウがそれぞれ演じる。監督、脚本を「インファナル・アフェア」3部作の脚本を手がけたフェリックス・チョンが務めた。香港で興行ランキング5週連続1位となるなど大ヒットを記録し、香港のアカデミー賞と言われる第42回香港電影金像奨で12部門にノミネートされ、トニー・レオンの主演男優賞など6部門を受賞した。

HOW TO HAVE SEX

HOW TO HAVE SEX NEW

ギリシャ・クレタ島のリゾート地を舞台に、10代の少女たちの友情や恋愛やセックスが絡み合う夏休みをいきいきと描いた青春ドラマ。 タラ、スカイ、エムの親友3人組は卒業旅行の締めくくりとして、パーティが盛んなクレタ島のリゾート地マリアへやって来る。3人の中で自分だけがバージンのタラはこの地で初体験を果たすべく焦りを募らせるが、スカイとエムはお節介な混乱を招いてばかり。バーやナイトクラブが立ち並ぶ雑踏を、酒に酔ってひとりさまようタラ。やがて彼女はホテルの隣室の青年たちと出会い、思い出に残る夏の日々への期待を抱くが……。 主人公タラ役に、ドラマ「ヴァンパイア・アカデミー」のミア・マッケンナ=ブルース。「SCRAPPER スクラッパー」などの作品で撮影監督として活躍してきたモリー・マニング・ウォーカーが長編初監督・脚本を手がけ、2023年・第76回カンヌ国際映画祭「ある視点」部門グランプリをはじめ世界各地の映画祭で高く評価された。

セルビアンフィルム 4Kリマスター完全版

セルビアンフィルム 4Kリマスター完全版 NEW

内容のあまりの過激さに世界各国で上映の際に多くのシーンがカット、ないしは上映そのものが禁止されるなど物議をかもしたセルビア製ゴアスリラー。元ポルノ男優のミロシュは、怪しげな大作ポルノ映画への出演を依頼され、高額なギャラにひかれて話を引き受ける。ある豪邸につれていかれ、そこに現れたビクミルと名乗る謎の男から「大金持ちのクライアントの嗜好を満たす芸術的なポルノ映画が撮りたい」と諭されたミロシュは、具体的な内容の説明も聞かぬうちに契約書にサインしてしまうが……。日本では2012年にノーカット版で劇場公開。2022年には4Kデジタルリマスター化&無修正の「4Kリマスター完全版」で公開。※本作品はHD画質での配信となります。予め、ご了承くださいませ。

痴人の愛 リバース

痴人の愛 リバース NEW

奔放な美少女に翻弄される男の姿をつづった谷崎潤一郎の長編小説「痴人の愛」を、現代に舞台を置き換えて主人公ふたりの性別を逆転させるなど大胆なアレンジを加えて映画化。 教師のなおみは、捨て猫のように道端に座り込んでいた青年ゆずるを放っておくことができず、広い家に引っ越して一緒に暮らし始める。ゆずるとの間に体の関係はなく、なおみは彼の成長を見守るだけのはずだった。しかし、ゆずるの自由奔放な行動に振り回されるうちに、その蠱惑的な魅力の虜になっていき……。 2022年の映画「鍵」でも谷崎作品のヒロインを務めた桝田幸希が主人公なおみ、「ロストサマー」「ブルーイマジン」の林裕太がゆずるを演じ、「青春ジャック 止められるか、俺たちを2」の碧木愛莉、「きのう生まれたわけじゃない」の守屋文雄が共演。「家政夫のミタゾノ」などテレビドラマの演出を中心に手がけてきた宝来忠昭が監督・脚本を担当。

卍 リバース

卍 リバース NEW

文豪・谷崎潤一郎が同性愛や不倫に溺れる男女の破滅的な情愛を赤裸々につづった長編小説「卍」を、現代に舞台を置き換えて登場人物の性別を逆にするなど大胆なアレンジを加えて映画化。 画家になる夢を諦めきれず、サラリーマンを辞めて美術学校に通う園田。家庭では弁護士の妻・弥生が生計を支えていた。そんな中、園田は学校で見かけた美しい青年・光を目で追うようになり、デッサンのモデルとして自宅に招く。園田と光は自然に体を重ね、その後も逢瀬を繰り返していく。弥生からの誘いを断って光との情事に溺れる園田だったが、光には香織という婚約者がいることが発覚し……。 「クロガラス0」の中﨑絵梨奈が弥生役を体当たりで演じ、「ヘタな二人の恋の話」の鈴木志遠、「モダンかアナーキー」の門間航が共演。監督・脚本は「家政夫のミタゾノ」「孤独のグルメ」などテレビドラマの演出を中心に手がけてきた宝来忠昭。

愛のぬくもり

愛のぬくもり NEW

「苦役列車」「まなみ100%」の脚本や「れいこいるか」などの監督作で知られるいまおかしんじ監督が、突然体が入れ替わってしまった男女を主人公に、セックスもジェンダーも超えた恋の形をユーモラスにつづった奇想天外なラブストーリー。 39歳の小説家・辺見たかしと24歳の美容師・横澤サトミは、街で衝突して一緒に階段から転げ落ちたことをきっかけに、体が入れ替わってしまう。お互いになりきってそれぞれの生活を送り始める2人だったが、たかしの妻・由莉奈には別の男の影があり、レズビアンのサトミは同棲中の真紀から男の恋人ができたことを理由に別れを告げられる。たかしとサトミはお互いの人生を好転させるため、周囲の人々を巻き込みながら奮闘を続けるが……。 小説家たかしを小出恵介、たかしと体が入れ替わってしまう美容師サトミをグラビアアイドルの風吹ケイ、たかしの妻・由莉奈を新藤まなみ、たかしとサトミを見守るゲイのバー店主を田中幸太朗が演じた。

おすすめ情報

映画ニュースアクセスランキング

映画ニュースアクセスランキングをもっと見る

シネマ映画.comで今すぐ見る

他配信中作品を見る