青木崇高、40代に突入して見据える未来について。

2022年1月4日 13:00


熱い思いを抱く青木崇高
熱い思いを抱く青木崇高

俳優の青木崇高が、40代に突入してなお精力的な活動を続けている。映画の出演作品は50本に迫り、テレビドラマの出演本数も40本以上に。主演としても、バイプレイヤーとしても作品世界を生きることが出来るかけがえのない人材だが、それだけではない熱い魂がどの現場でも愛されている。そんな青木の活動範囲が、俳優業だけにとらわれなくなってきている。いま何を思い、これからどう生きていこうとしているのか話を聞いた。(取材・文・写真/大塚史貴)

青木の名前が最初に全国を駆け巡ったのは、NHK連続テレビ小説「ちりとてちん」で貫地谷しほり演じる主人公・喜代美の兄弟子で、後に夫となる徒然亭草々役だろう。NHK大河ドラマでも重用され、大友啓史が演出した「龍馬伝」の後藤象二郎役を皮切りに、「平清盛」の弁慶役、「西郷どん」の島津久光役と重要な役どころを担い、今年放送の「鎌倉殿の13人」では木曽義仲に扮する。映画もコンスタントに出演を続け、昨年も「るろうに剣心 最終章 The Final」「HOKUSAI」「99.9 刑事専門弁護士 THE MOVIE」の3本が封切られている。

そんな青木には旅好きという一面があり、好奇心旺盛な性格も相まって、自らが監督・主演した短編ドキュメンタリーを製作していることをご存じだろうか。昨年11月に栃木県那須塩原市で開催された「なすしおばら映画祭」で、青木が手がけた「あおきむねたかの『ウズベキスタン』までちょっと会いに。」(19)と新作「青木崇高のアメリカ西部までちょっと会いに」が上映され、好評を博した。

劇場公開を目的として製作された作品ではないそうで、「編集をしてみたら面白くて、最近は配信の流れが進んでいますけど、僕は自分の手の届く範囲内で上映をやっていきたいんですよね」と語る。旅好きだからこそ、新型コロナウイルスの感染拡大によって容易に移動が出来なくなった世の中を目の当たりにし、青木の心は揺れ動いた。

■旅好きだからこそ限られた時間で土地を楽しむ術

盟友・川岡大次郎と
盟友・川岡大次郎と

「コロナ禍で最新作の“アメリカ西部”の映像を編集していたとき、『こんな旅をまた体験できる日が来るんだろうか』とか、『なんて貴重な瞬間だったんだ』とか思ったんですよね。旅に行くことを、いともたやすく奪われてしまったショックも大きかった。でもまた改めて、旅を楽しめる日が戻ってきたら、色々なところに行きたいですね」

それだけに、国内で映画祭が復活しつつある現況を素直に喜んでいる。筆者とは、「なすしおばら映画祭」の会場で待ち合わせたが、時間は「夕方くらい」と決めただけ。取材を受ける直前まで地元の温泉を満喫していたそうで、限られた時間でその土地を楽しむ術を知っている。ましてや、俳優として同時代を共に戦ってきた川岡大次郎がプロデュースする映画祭とあれば、尚更だろう。

「映画祭は“祭”ですから、皆がこうして集まって楽しく情報交換をしたり、楽しみを共有する機会だと思うんですよね。年を重ねて40代前後になると、皆いろいろなことに興味を持って広がりが出て来ますよね。そこで何かが重なる、繋がるって素晴らしいことだと思うんです。大ちゃん(川岡)が那須塩原という土地を愛し、この街で暮らす人たちに喜んでもらいたいと思って取り組んでいることは本当に素敵なこと。ムロツヨシさんをはじめ、昔からの戦友がそこに集まってくるというのも、繋がりを感じますよね」

そんな青木も、故郷である大阪・八尾市の「八尾の魅力大使」を務めている。昨年10月には、「映画のまち・やお」を謳うべく、同市がフィルムコミッションを立ち上げるに際し開催された始動イベントに登壇している。ここに至るまでの苦労話を、明かしてくれた。

「魅力大使に任命されたのは、2012年なんです。なぜ観光大使じゃないかというと、観光地がないから。三池崇史監督、天童よしみさん、河内屋菊水丸さん、そして僕が任命されたのですが、どんなことをするのかと思っていたら、7年間くらいほとんど何もすることがなかったんです。当時は、八尾市が何をしたいのかが分からなかった」

■年齢を重ね変化した故郷・八尾への思い

ファンに囲まれて笑顔
ファンに囲まれて笑顔

そんな思いを抱きながら、俳優業は充実期に入る。12年からの7年間で映画は22本が公開、ドラマも22本が放送され、プライベートでは結婚して家族も増えた。今後のキャリアを改めて考え、人生で残された時間を逆算するようなひと時を持つようにもなったという。

「八尾は生まれ育った場所ですが、面白くないから東京へ出てきたわけです。ただ、撮影とかで地方へ行くと、八尾よりも小さい街でも面白いことをやっている場所ってたくさんあるんです。外から見てみると、どんな街にもエンタメはある。点と点の結び付け方、繋げ方が分からないだけなんですよね。役所や自治体の方々は、街の財産というか外から見ると価値があると感じるものを俯瞰で見られない状況に陥っていると思います」

多感だった高校時代には見えなかったが、外に出たからこそ青木にも興味深い土地として地元を感じることが出来るようになったといい、「八尾だって、よくよく分析してみたら面白い場所だったんです。ロケーションおいても大阪市の隣で、非常に優れている。ただ、『映画の街』を謳いたいみたいで盛り上がっているんです。なのに、映画を撮るということがどういうことなのか誰も知らない、誰も調べていないという状況だったので、一度ストップして、外部から人を呼んでレクチャーを受けてみませんか? と提案したんです」と話す。

白羽の矢が立ったのは、元ジャパンフィルムコミッション副理事長の日々谷健司さん。北九州フィルム・コミッションの事務局長を務め、「デスノート」「図書館戦争」「おっぱいバレー」「MOZU」など、数多くの映画やドラマの撮影地として招致に成功し、青木も撮影で同所を訪れるたびに親交を深めてきた。

「日々谷さんは、北九州の撮影を爆破OKの街にした立役者。僕も撮影で滞在中、何度も一緒に食事に行ったのですが、若いボランティアの子たちの相談を真剣に聞いたりしていて、映画をこの街に浸透させようとしている姿に感動したことがあります。ただ、日々谷さんも最初は全然うまくいかなかったらしいんです。10年以上の地ならし期間が必要だったと。その苦労話も含めて、八尾でお話をしていただけないかと相談したら快諾してくださったんです」

そこで浮き彫りになってきたのが、「多くの自治体が映画を制作しても失敗して自己満足で終わってしまっている。“撮る”という経験を蓄積できる映像を撮ろう」ということ。幸い、八尾は「ものづくりの街」として知られ、優れた技術を誇る約3000の中小企業が軒を連ねている。その部分を軸にして、八尾向けのPR映像制作に着手することになったという。

「その会合にフィルムコミッションを持つ大阪市の方も来て下さったのですが、大阪市では案件が多すぎて、さばき切れていないというんです。その部分を八尾で引き受けられないかと。そのためにも、八尾のロケーションや魅力的な部分をデータベース化して、大阪市と共有する必要がある。少しずつ経験値をためていくなかで、自分たちの街で映画やドラマを撮影したとなったら、みんな喜ぶんですよ。そういうことを繰り返していけば、街に誇りを持てるんじゃないかと思いました。そこまで到達するのに、3年くらいかかったかなあ。やっと動き出した感じです。これを5年、10年と続けていけば、いつか三池監督が八尾を舞台に映画を撮ることだって可能性として出て来るんじゃないかと思うんですよね」

■エンタメに関わる人間こそ、世間を知るべき

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青木を知る人ならば不思議に思わないだろうが、そうでない人からすれば「俳優なのに、どうしてそこまでしてくれるの?」という疑問符が付いて回るだろう。

「こういう取り組みに関わっていくと町工場の方と食事をしたり、話を聞いたり、縁を持たせていただくことが増えていく。エンタメ業界だけに留まっていたら出会えない方々が世の中にはたくさんいる。異業種の方々とのコミュニケーションは、エンタメにかかわる人間が忘れてはいけない、どうやったら楽しんでいただけるか、どうやったら喜びを伝えられるかという初心を思い出させてくれる。そこに僕は喜びを感じるんです。エンタメに関わる人間こそ、世間を知っていないと。いろんなことが人の喜びに繋がるのなら、僕自身はよく分からない存在でもいいんですよ」

俳優という肩書きで自らの可能性を狭めるのではなく、40代に突入した青木はどんどん自由になっていく。1月9日から放送が始まる三谷幸喜演出、小栗旬主演のNHK大河ドラマ「鎌倉殿の13人」では、源頼朝のライバルである木曽義仲に扮する。

「義仲を演じるにあたって、イベントもひとつひとつ真剣に向き合いたいんですよ。広報の方ともすごく打ち合わせをしていて、どんどん提案しています。提案するのはタダだし、却下されてもいいから。そういう事も含めて、どんどん前向きに関わっていき、色んな業種の方々と関わっていきたいですね。日本酒きき酒師資格と焼酎きき酒師資格も取得したんですよ。地方にはこだわりの醸造所や蒸留所がありますし、そこで働く方々とも触れ合っていきたい。なんでもかんでもやりたいわけじゃありませんが、根底にあるのは『この人に会いたい』『この人と時間を共有したい』ということなんじゃないですかね」

青木とは何年も前から地方の映画祭で語らってきたが、ずっと感じていたことを不意に聞いてみたくなった。「映画監督をしてみたいという欲はないんですか?」と。

「うーん……。やりたい……です。自分が演出にいろいろ求めたりするくせに、演出する立場になったらどう伝えたらいいんだろう……と思ったりしますけど、生涯に1本は撮りたいと思っています。撮るんだったら、おばあちゃんの話がいい。人がおばあちゃんという存在に対して抱く感情って、ちょと特別なものがあるんじゃないかなと。その気持ちを丁寧にすくい取っていけば、日本だけじゃなく海外の人にも届けられるものが出来るんじゃないかって思うんです。とは言いつつ、ストーリーとか全然考えていませんけどね」。

年初は「鎌倉殿の13人」を楽しみつつ、WOWOWの主演ドラマ「邪神の天秤 公安分析班」の放送も控えている。未発表の作品も含め、リアリティあふれる芝居で我々をどのような作品世界へ連れて行ってくれるのか楽しみで仕方がない。

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