【インタビュー】劇団ひとり、「浅草キッド」映画化への使命感 ビートたけしの反応はどうだった?
2021年12月9日 14:00
「『浅草キッド』は僕が作んなくちゃいけないんだって、勝手に使命感を感じていました」。そう語るのは、幼少期からビートたけしに憧れてきた男・劇団ひとり。脚本・監督を務め、ビートたけし誕生にまつわる物語を描いた「浅草キッド」が、12月9日からNetflixで独占配信された。「たけしさんへの思い、原作への思い、それから映画的なスキルと脚本を含めたら、自分以外に適任はいないだろうっていう勘違いから始まっています」。淡々としたトーンだが、劇団ひとり監督から出てくる言葉はどれも熱い。映画化までの道のり、撮影の裏側を聞いた。
本作は、ビートたけしが作詞作曲した楽曲と自叙伝「浅草キッド」を原作に、たけしの原点であり、師匠である深見千三郎と過ごした日々を描く。“幻の浅草芸人”と呼ばれたタケシの師匠・深見を大泉洋、大学を中退し、浅草のフランス座に飛び込んだタケシを柳楽優弥が演じた。
原作は10代の頃に手を取って、師弟関係や泥臭い芸人の世界にすごく憧れました。「浅草キッド」の世界観が好きで、自分の書いた小説(『陰日向に咲く』『青天の霹靂』)にも浅草の演芸場が出てきているように、僕の根底にはずっと「浅草キッド」が流れています。
「青天の霹靂」で映画を撮らせてもらった後に、次に何を撮りたいか話を考えたのですが、どうしても「浅草キッド」が気になっちゃいました。今までは「浅草キッド」感を小出しにしてきたものの、やっぱり「浅草キッド」そのものを撮りたいなと思うようになって。自分の気持ちに嘘はつけないので、脚本を書き始めていろんな方々に持って行って、決まりそうになっては消えを繰り返し、Netflixで実現しました。7年前に映画化を思い立ったので、ここまで本当に時間がかかりましたね。正直言うと、Netflixが最後の頼みの綱でした。
「浅草キッド」をより多くの人に魅力的に伝えることは、この映画をやるにあたって一つの使命だと思っています。たけしさんは僕にとって神様みたいな人で、そう思っている人はほかにもたくさんいます。深見さんはそのたけしさんの唯一の師匠ですから、この2人は絶対に汚してはいけないという思いがありました。
「映画化したいです」って伝えたら、まったく考えずに「いいよ」って言ってくださいました。もうちょっと迷ってもいいのに「いいよいいよ」って。ちょうど「火花」で「浅草キッド」の曲を使うときだったみたいで、「この前もOKしたしいいよ」と。でも、それからしばらく経ってお会いした時に「今『浅草キッド』の準備をしています」ってお話ししたら、「なにあれ映画にするの?」って忘れていましたね(笑)。
一番は深見師匠の人柄について話を伺いました。深見師匠は、映像がほとんど残っていないんです。唯一あるのが少しコントをやっている映像で、プライベートの人となりがあまりよくわからない。エピソードはあるけれど、人となりが掴み切れていなかったので細かくお聞きしました。たけしさんから聞いたのは、とにかく照れ屋で全部逆にする人だと。嬉しい時は怒るし、悲しい時はおどける。「あの人は全部逆にやるんだ、内面を見られるのが恥ずかしい」っておっしゃっていて、それは脚本を書くうえで助かりました。深見師匠は不器用で優しくて、本当に素敵な人だと思います。
まだ見ていないです。見ていただくのは楽しみですけれど、どういうテンションで見るんですかね。自分の原作で、自分の曲で、若い頃を柳楽優弥さんが演じられている。どういう気持ちで見るのか僕には想像がつかないです。恥ずかしいんじゃないかな。
極力たけしさんに似せようと思って、たけしさんの真似をする稽古を連日、長い時は8時間ずっとやってもらいました。過去の映像を見ながらいろんなパターンをやって、松村邦洋さんにも協力してもらって。どんどんクオリティーは上がっていったのですが、どんどん“物真似”になっていったんです。
真似してほしいとお願いしたので当たり前ですが、見たいのは物真似じゃないなと思ったので、クランクイン前に「物真似っていう意識は1回捨てましょう」とお伝えしました。具体的には声色を変えるのはやめましょう、魂の部分でたけしさんになりきるということです。完成作の柳楽さんは物真似にはなっていないし、かといってたけしさんじゃないわけでもない。すごくいいバランスでやってくださいました。
そもそも柳楽さんにお願いしたのは、たけしさん自身が僕から見ると天才がゆえに誰とも分かち合えない孤独な人っていうイメージがあって。柳楽さんは同じ雰囲気をまとっている方で、若い頃のたけしさんってこんなだったんだろうなって思ったからです。
深見師匠役はすごく悩みました。原作を読んだ方や、実際に師匠を知っている方からしたら、大泉さんのキャスティングは戸惑うかもしれないです。強面な方だったそうなので、頭の中で強面の俳優さんを想像していたのですが、しっくりきすぎだなという思いもありました。ある時「青天の霹靂」を見返したら、大泉さんの深見千三郎を見てみたいなって思ったんです。はまるかはまらないかというよりも、単純に見てみたいっていうワクワク感でお願いしましたが、すごくいい深見千三郎さんを演じてもらいました。
僕は頭のなかでずっと深見師匠を思い描いてきたので、相当美化していると思います。でも、それよりも大泉さんの演じた深見師匠の方が良かったです。かわいげもあって自分の美学もあって、素敵でしたね。
土屋くんについては、ツービートの漫才のシーンは絶対に成立させないといけないという思いからお願いしました。以前にドラマ「べしゃり暮らし」で漫才の演出をさせてもらったのですが、みんな芸達者でも“芸人の雰囲気”を出すのが大変だったんです。これは本物に頼った方がいいなと思ったので、漫才ができて浅草の匂いを知っている、そしてどことなく雰囲気や立ち位置もきよしさんに似ているなということで土屋君にお願いしましたが、本当に助かりました。
最初はスケジュールがとれなくて、柳楽さんと助監督がツービートの漫才の稽古をしていました。後日、土屋君が来て漫才の掛け合いをしたら、もう1回目から全然違うんです。テンポが出てきて、柳楽さんのことも引っ張ってくれて、急にツービートっぽくなったので、プロってすごいんだなって実感しました。最悪、芝居の部分はうまくなくてもいいなとも思っていたら、芝居もすごく自然にやってくれて、本当に頭が下がりました。相方の塙がとんでもない棒ですから、どうしようって思っていたのですが(笑)。これを読んでいる映画・ドラマ関係者がいたら、僕は土屋くんをおすすめします。
深見師匠は、句読点と同じくらい「バカヤロー」「コノヤロー」を使う人だと聞いていました。それだけ相手に心を開いている証拠だと思いますが、とにかく悪口ではない、愛情のある「バカヤロー」を意識してくださいと大泉さんにはお願いしました。
「芸人だよ、バカヤロー」というセリフも出てきます。たくさんのパターンを撮らせていただいて、2、30テイクは重ねていたみたいです。決めゼリフなのですが、決めゼリフっぽくは言ってほしくなかったので、大泉さんにはさも当たり前かのように言ってもらったカットをOKしました。柳楽さんには、シリアスな言い方や、深見師匠を真似してもらうパターンも試しましたが、最終的には照れ隠しのように笑っているカットをOKしました。
まず僕には師匠がいないです。10代の頃に「浅草キッド」を読んで、芸人の下積みは演芸場に出るんだと思っていたけれど、基本的にはライブハウスでした。浅草の仕事は一つもないですし、お客さんの前に出ていくときは三味線の音で出ていくと思っていたら、エアロスミスかなんか流していて(笑)。お客さんも僕のときは女子高生が多くて、当時は衝撃でしたね。
僕は深見師匠のような芸人としてのポリシーとか、あるはあるかもしれないですが、賢く生きなきゃと思って生活しているので、だからこそ深見師匠みたいな人に憧れるんだと思います。僕はむやみやたらに人と争わないし、長い物には巻かれるし、スポンサーの顔色も窺うし、SNSで炎上しないようにも気を付けています。時には自分の意見と違うときでも、世の中の顔色を伺って発言するような人間なので、こういう人たちに憧れるんです。
世の中はどんどん僕みたいな人間ばっかりになっていると思います。でも、深見師匠は自分で自分の足を引っ張るような生き方をしていますから。お金がないのに店に行ったら必ず店員さんに1万円渡すっていうんです。しかも、お礼を言われるのが嫌だからって、お店を出た後にたけしさんにお金渡して「チップ渡してこい」って言うんです。結婚していますし、お金もないから、今だったら許されないと思います。深見師匠みたいな生き方は僕にはできないけれど、そういう人を素敵だなと思ったり、憧れたりする気持ちだけはせめて忘れないようにいたいです。
映画作りには、勝手に使命感を感じていました。僕が作らなくちゃいけない、特に「浅草キッド」は僕以外がやっちゃいけないって。勝手な思い込みですが、こういう世界ってどれだけ勝手に思い込んでどれだけ己惚れるかだと思うので、僕は己惚れました。たけしさんへの思い、原作への思い、それから映画的なスキルと脚本を含めたら、自分以外適任はいないだろうっていう勘違いから始まっているので、今も使命感はあります。
映画の撮影は、いろんなプロフェッショナルの方々とお仕事ができるので、本当に楽しいです。役者さんもですが、スタッフさんたちもすごい方たちがたくさんいる。ちょっとした小道具の汚し方や、こうしたいって希望したことにすぐ反応してくれる。一流の人たちが本気を出してみんなで挑戦していくのは、やっぱり楽しいです。「浅草キッド」のように、何年も思い描いていたものが目の前で命が吹き込まれていく瞬間は、格別ですね。
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