【インタビュー】生田斗真が募らせる、誰かのために自分の人生を使っている感覚
2021年11月20日 10:00
俳優の生田斗真が8年間にわたり真っ向から対峙してきた「土竜の唄」が、第3弾となる「土竜の唄 FINAL」をもって完結の時を迎える。監督・三池崇史、脚本・宮藤官九郎のもと、文字通り体を張って主人公・菊川玲二を演じ切った生田に話を聞いた。(取材・文/大塚史貴)
「土竜の唄」の映画化が発表されたのは、2013年1月21日。その直後にクランクインしてから現在までの8年10カ月あまり、生田の脳裏から玲二が離れたことは一度もなかったのではないだろうか……といっても過言ではないほどに、当たり役となった。
「自分の俳優人生において、ターニングポイントになったのは間違いないです。良い方向にいったのか、悪い方向にいったのかは分かりませんけど(笑)。アーティスティックな俳優になれていた可能性もあるわけですから。おかげさまで、そっちの道は絶たれました(笑)。チラシひとつ見ても、お祭りじゃないですか。嫌なことが吹き飛ぶ映画です! ってすぐに分かる。今、そういうことが必要とされている気がするから、やっている方も楽しいですし、使命感を持ってやれたなと思います。そして、自分が培ってきたものをふんだんに引き出してもらった作品でもあります。身体的なアクションはもちろん、瞬発力が必要な面白いシーンも。何よりも、三池崇史という男が憧れる男と出会えたというのが、僕の中では一番の糧になりました。三池崇史と菊川玲二に出会えたことは、凄く大きいですね」
シリーズ完結について生田のウィットに富んだ話を楽しんでもらう前に、いったん過去2作を振り返ってみる。原作は、高橋のぼる氏が「週刊ビッグコミックスピリッツ」で連載した同名コミックスで、シリーズ累計発行部数は950万分を突破している。14年2月15日に封切られた第1作「土竜の唄 潜入捜査官 REIJI」は、正義感は強いが童貞で、警察学校では史上最低の成績を残した落ちこぼれ巡査・菊川玲二がある日突然、「モグラ」と呼ばれる潜入捜査官に命じられるところから始まる。麻薬の密売ルートを暴いて暴力団組織・数寄矢会の轟周宝会長を検挙するために組織へ潜入した玲二が数寄矢会に渦巻く権力闘争、日本最大の暴力団・蜂乃巣会との抗争に巻き込まれていく姿を描き、興行収入21億9000万円の大ヒットを記録した。
続く第2作「土竜の唄 香港狂騒曲」は16年12月23日に公開され、興収14.3億円を記録。数寄矢会に潜り込んだ玲二は思いがけず、日浦組の若頭に就任してしまう。最終ターゲットの轟周宝からはチャイニーズマフィア・仙骨竜の壊滅と娘・迦蓮の身の安全を守るように命じられる。一方、警視庁ではエリート警察官の兜真矢(永山瑛太)が組織犯罪対策部課長に就任し、警察官とヤクザの癒着撲滅を目指して玲二の逮捕に向けて動き出す。そして完結編となる今作では、過去最大級の取引となる6000億円の麻薬密輸を阻止するという玲二のモグラとして最後の任務を描く。そんな玲二の前に、轟周宝の長男で最悪の敵となる轟烈雄(鈴木亮平)が現れる。さらに、謎のフェロモン美女・沙門(滝沢カレン)にハメられてしまう……。
シリーズを通じて怒涛の展開が繰り広げられるわけだが、今作に至ってはクランクインよりも随分前の段階で、生田は手ごたえを感じていたようだ。
「(脚本の)宮藤さんとは色々な作品を共にしてきて、大河ドラマの『いだてん~東京オリムピック噺~』でもご一緒させていただきました。『いだてん』の打ち上げの時に、『土竜の脚本書き終わったよ』って教えてくれたんですが、すごい半笑いだったんです。それがもうこの作品を物語っているというか、皆が楽しみながら作っているんですよね。『もう、絶対に面白いんだろうな』って安心しましたし、『今回大変なことになっていますから』と言われたんですが、蓋を開けてみて『なるほどな』って。土竜らしいですし、ファイナルにふさわしいというか、何というか(笑)。バカだなあ…というシーンでも、大真面目にやるから面白いことってあるじゃないですか。そこをはき違えないように、手を緩めないようにしていました」
撮影でも、この「楽しみながら」という感覚が損なわれることはなく、「菊川玲二という男を再び演じられるという喜びの方が大きかったので、とにかく楽しみだったんですよ」と語る生田の表情は、どこまでも穏やかだ。
「玲二でいる時間って、本当に何をするにしても怖くないし、どんな事をしても痛くないし疲れもない。自分が無敵になったような気持ちになれるひと時なので、撮影は毎日が楽しかったですね。三池監督もすごく楽しみにしてくださっていましたし、まるで昨日も一昨日も撮影していたかのような空気を作ってくださっていたので、変に気負うこともなく撮影が出来ました」
そんな至福のひと時であったならば、クランクアップが近づくにつれ惜別の念を抱くことはなかったのだろうかと聞いてみると、「意外と僕の中ではまだ終わった感じがしていないんですよ」ときっぱりとした口調で明かす。「まだお客様のもとに届けられていないということもあると思うんですが、玲二という男が本当に実在して、今もどこかでモグラとして生きているような感じがしているので、まだ終わった感じがしないんですよね。そういう心境だからなのか、すごくハッピーな感じでアップを迎えられましたよ」。
幸せな現場であったと充実感をにじませる生田だが、気づけば「人間失格」に主演して銀幕デビューを果たしてから10年以上が経過している。近年は難役にも果敢に取り組んでいるが、俳優としてどのような正義を胸に秘めているのだろうか。
「たくさんの方に喜んでいただきたいというか、そのために自分の人生を使っているという感覚が強いんです。それは、自分の使命だと思ってやってきました。それが正義と言えるか分かりませんが、責任感と使命感をもって仕事をさせてもらっていますね」
それほどまでに強い思いを抱いているからこそ、コロナ禍であっても作品づくりが出来ることに感謝の念をより強めていることがうかがえる。
「『土竜の唄』も撮影が延期になったんです。撮れるかどうかすら分からなかったんですよ。だからこそ撮影ができるということが、こんなにも有難いことなのかと。そして、完成してお客さんの元へ届けられることの有難みを改めて感じています。それだけで胸がいっぱいになるんですよ。演劇では、稽古だけやって本番が中止になった作品がたくさんあると聞くなかで、最後までやり切るということは何て有難いことなんだろうって。だからこの映画をチョイスして観に来てくださった方々が、少しでも幸せになってくれたらいいなあって思うんです。さっきも話しましたが、誰かのために自分の人生を使っている感覚というのが、すごく強いんですよね」
本編では、おバカ全開で突っ走るだけでなく、3作にわたってタッグを組んできた堤真一が扮する兄弟分・日浦匡也(通称:クレイジーパピヨン)との友情物語もふんだんに盛り込まれている。ここまで妥協なき熱情を注ぎ込んだ生田が、この後どのようなステージへ進むのか目を離すことが出来そうにない。
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