切ない恋愛描く名作が韓国で映画化、オリジナルとの違いは? 韓国版「ジョゼと虎と魚たち」監督インタビューを入手
2021年10月9日 17:00
田辺聖子の短編小説を原作に、日本では2003年に妻夫木聡と池脇千鶴の共演で実写映画化、20年にアニメ映画化された「ジョゼと虎と魚たち」が、韓国でも映画化され10月29日に劇場公開、10月22日からはオンライン配信サービス「シネマ映画.com」で最速プレミア上映(2日間、300名限定)が行われる。足の不自由な女性と平凡な大学生の切ない恋を描くラブストーリーで、韓国版でジョゼ役をハン・ジミン、学生のヨンソク役をナム・ジュヒョクが演じる。既に昨年公開された韓国で話題を集めた本作、このほど、キム・ジョングァン監督が韓国版「Forbes」(20年12月)に語ったインタビューを映画.comが入手。翻訳記事をメイキング写真と共に紹介する。
犬童一心監督によるオリジナル版のファンだったというキム監督。「人間に関する深い洞察が素晴らしいと思いました」と言う。「また原作となった田辺聖子の短編小説も好きな作品です。それで、その線に沿って、自分自身の作品を作りたいと思ったんです」
しかし、お気に入りの映画を新たな形で解釈するのはけっして簡単なことではない。「でもまったく同じ道をたどっても、あの作品に対する敬意を表す方法としては好ましくない。あの映画が私に与えてくれたさまざまな感情を忘れずに、自分ならではのものを作りたいと思いました。私が重視したのは、同じ絵を描くためにストローク(筆触)を変えながらも、そうした感情を生かし続けることでした。このストーリーでは、ジョゼは誰かと出会ったことでようやく自分を愛し始めるようになり、ヨンソクは自分自身について多くのことを発見するようになります。私は、そんな二人の関係を通してヒューマニティを表現したいと思ったんです」
キム監督が描く二人の一風変わった関係の背景になっているのは、美を構成するものとは何か――と観客の意識を軽く刺激し続ける都会の風景だ。遺棄された物や廃墟となったビルは魅惑的な光を反射する。ジョゼが暮らす今にも崩れそうな家の中には本があふれていて、居心地の良い逃避場所に思えてくる。また、おとぎ話のように降る雪が、ここは、どんなことでもつかの間、可能にしてくれる魔法の家のように感じさせる。
「光と影に関しては、ジョゼのストーリーのコンセプトと撮影の観点から、影の方に重点を置くことにしました」と、キム監督。「この映画には、空き家や廃屋などがたくさん出てきますが、リアリズムを保ちながらも、それらの場所を美しく見せたいと思いました。そうした場所の柔らかな優しさを、人工的なフィルターや照明ではなく、撮影術によってとらえたいと考えたんです」
ジョゼとヨンソクは、ゆっくりと関係を築いてゆく中で多くのものを得る。子どものころに捨てられたジョゼは、集めた古本を通して世界を理解し、不思議な物語を紡ぎながらさまざまなことに対処してゆく。これまでずっと周囲の期待に応えるよう生きてきたヨンソクは、ジョゼに魅了される。ジョゼほど豊かな想像力を持った人間に、ヨンソクは会ったことがなかった。そしてジョゼの想像力を現実の世界につなぎ止められるのはヨンソクなのかもしれない。
キム監督は丸一年かけてこの脚本を書きあげた。「もともと素晴らしいストーリーでしたが、たどるべき道を選ぶのは簡単ではありませんでした。リメイク映画ですから、物語の前提は似ていますが、ストーリーも登場人物も作品のスタイルもまったく違います。オリジナル版に比べると、二人が恋に落ちていく過程により多くの時間をかけていて、オリジナル版とはまったく違います」
若い二人の関係に、ハンとナムが説得力を持たせている。「ある春の夜に(英題:One Spring Night)」で消極的な司書を演じ、「虐待の証明」で人生に疲れた前科者を演じたハンは、一瞥のうちにさまざまな感情を表現する。そんなハンが、空想の中で大半の時間を過ごしている女性を演じると、そうした微細な表情がさらに示唆に富む。そして人気ドラマ「スタートアップ:夢の扉」で天才技術者の好青年を演じたナムが、誠実だがミステリアスな青年としてヨンソクを演じている。ハンとナムは以前、TVドラマ「まぶしくて 私たちの輝く時間」でも共演した。
「一つの映画を真にユニークな作品にするのは俳優たちです。ナム・ジュヒョクはなにか新しいものを持ち込んでくれたし、ハン・ジミンには経験とまだ開拓されていないポテンシャルがありました。キャスティングをしたのは脚本が完成してからでしたが、その後俳優たちの個性を輝かせるように脚本に手を加えました。俳優たち自身の才能のおかげで脚本がより豊かなものになったと思います。彼らと一緒に、キャラクターたちを作りあげていくのが何よりも楽しかった」
キム監督は以前、歌手で女優のIUが主演するTVのアンソロジーシリーズ「ペルソナ 仮面の下の素顔」の中の作品「夜の散歩」を監督した。この哀愁漂う作品では、死んだ女性が、恋人の夢の中で彼と最後の会話を交わす。哀愁は、ジョゼを表現するのにも適した言葉かもしれない。最小限の人とのつながりの中で生きる女性を主人公にした映画では、人間関係に関する疑問が自ずとわいてくる。人々はお互いから何を望んでいるのか、人間は他人に何を期待してもよいのか、人間は何を必要としているのか、と。キム監督の関心は人間の在りようにある。
「私は人間の在りようを掘り下げる本や映画が好きなんです。もしかしたら、そういう作品の作者たちには、現実を深く理解している人が多いからかもしれません」と話す。「でも彼らはまた、人間に対する思いやりや愛も見せてくれます。そういうロマンティックな側面も美しいと思います」
「ペルソナ」でキムが担当したエピソードが、別れを告げることの大切さを強調した作品だとすれば、「ジョゼと虎と魚たち」は、他人を受け入れることの大切さを伝えているのかもしれない。他の人の世界への誘いを受けることが、自分の世界を変えることになる、と。
「ジョゼのように、私も想像力が旺盛です。映画作りに惹かれたのは、自分の想像力に命を吹き込んで、観客に見せることができるからです。今は、映画を通して、人間や人間関係に関する物語を伝えることを目指しています。撮影中に自分の想像力が思ってもみなかった形をとるたびに興味をかきたてられるし、それがうまく行ったときには大きな満足感を得ます」
「ジョゼと虎と魚たち(2020・韓国版)」は、10月29日より、kino cinema横浜みなとみらい、kino cinema立川高島屋S.C.館、kino cinema天神ほかで順次公開。「シネマ映画.com」(cinema.eiga.com/)での最速プレミア上映の前売りチケット(1200円)が発売中。
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