【「殺人鬼から逃げる夜」監督インタビュー】殺人犯たちのリサーチで辿り着いた“虚しき答え”とは?
2021年9月22日 18:00
サイコな殺人鬼から逃げまくる。逃げても、逃げても、追いかけられ、予想だにしないサプライズが待ち受ける韓国映画「殺人鬼から逃げる夜」が、9月24日に公開を迎える。「全く新しい『逃走サイレントスリラー』誕生!」というあおり文句に相応しい“たった一夜の追走劇”の魅力を、監督&キャストのインタビューを通じて紐解いていく。
物語の主人公は、聴覚障がいを持つギョンミ(チン・ギジュ)。ある夜、会社からの帰宅途中に、血を流して倒れている女性を発見する。それは巷で起こっている連続殺人事件の犯人の仕業だった。事件現場を目撃してしまったギョンミは、殺人衝動を抑えられず人を殺してきた連続殺人犯ドシク(ウィ・ハジュン)の次のターゲットにされてしまう。
全力で逃げるギョンミだったが、聴覚が不自由な彼女には追いかけてくる犯人の足音も聞こえなければ、助けを呼ぶ言葉も届かない。「聞こえない」目撃者の武器は、視覚、脚力、機転のみ。まるでゲームを楽しむかのように、ドシクはギョンミを追い詰めていく。
鑑賞者のドーパミン&アドレナリンを急上昇させる秀作を作り上げたのは、1981年生まれのクォン・オスン。2011年に短編作品「36.5℃」を制作し、第15回富川国際ファンタスティック映画祭に出品。「殺人鬼から逃げる夜」が長編デビュー作となった。
今回のインタビューには、そんな注目の新鋭クォン・オスン監督が登場。どのように映画界に足を踏み入れたのか、そして「殺人鬼から逃げる夜」の源泉となった出来事、撮影現場での様子について語ってもらった。
子どもの頃、家にはビデオデッキがなかったんです。唯一映画を見ることができたのは、テレビで放映されていた週末の名画、特集映画でした。夜遅く、叔父の部屋に行き、両親に隠れて布団を被って、初めて見た映画が「エイリアン」「ターミネーター」「バットマン」などでした。当時、子どもだった私には計り知れないほどの衝撃でした。そのように接した衝撃的な映画が1本、2本と増え続けていくうちに、映画の魅力にハマり、映画監督になりたいという夢につながりました。
映画の魅力にどっぷりはまるきっかけを作ってくれたジェームズ・キャメロン監督、リドリー・スコット監督が好きです。基本的に想像力を駆使した映画が好きなんです。私もそんな映画を作りたいと思っているので、企画する際は、無意識のうちに多くの影響を受けていると思います。
映画監督になるまでの道のりは、色々な意味で非常に険しく、困難です。特に商業映画は出資された資本を土台に出発するため、さまざまな検証や検討を経て作られます。その過程は映画ごとに異なりますが、私の場合、その時間はとても長いものでした。大学を卒業後、映画の世界に飛び込み、監督になるまで10年もの時間がかかりました。その間、何度も現実的な問題に直面し、映画を続けるべきか、続けられるのかについて悩んだんです。
カフェで話している2人の聴覚障がい者をじっと見守っているうちに、大声で騒いでいる人たちに囲まれたんです。音はありませんが、大きな動きで手話を使って会話をしている2人が、とても寂しそうに見えました。その光景が、私たちの社会の中で疎外された弱者の“聞こえない叫び声”のようにも感じられ、映画にしようと考えるようになりました。
この物語を観客にどのように受け入れてもらうか――シナリオを書いている時、その方法について悩みました。朝に配達された新聞を広げてみると「昨夜、こんなに恐ろしい事件があったのか」と思うことがあります。私たちの知らない前夜の恐ろしい出来事が、新聞を通し要約されて伝えられる。そのように「殺人鬼から逃げる夜」も劇中の一夜の恐ろしい事件を伝えることを目標にしてシナリオを書き進めました。朝刊を読みながら私たちが舌打ちした“常識では考えられない前夜の事件”が、映画を通して生々しく伝わってほしいと思いました。
全てが困難でした。大半の撮影が夜だったので、皆さん、体力的に苦労していました。撮影の許可が下りず、急遽つくった現場で、急いでイメージを再構築しなければならなかったのも大変でしたね。ハードな撮影日程で、俳優たちも激しいアクションが続きましたし、本当に苦労の連続だったんです。
理由は明確です。チン・ギジュさんとウィ・ハジュンさんは2人とも抜群に演技が上手い。そして、非常に誠実で大きな情熱を持った俳優だったからです。
彼女は初めて挑戦する聴覚障がい者の役でスリラーの演技を見せなければならなかったため、相当なプレッシャーを抱えていたはずです。にもかかわらず、プリプロダクションの段階からギョンミになるための努力している姿を見て驚きました。ただ単に聴覚障がい者の真似をする演技ではなく、動きや表情のひとつひとつに誠意が感じられました。俳優が声を出せない状態で演技をし、観客に感情を伝えるのは、並大抵のことではありません。しかし、チン・ギジュさんは大きな目を使って、ギョンミが経験する全ての感情を生々しく観客に伝えてくれました。そんな姿を見守っていると、彼女がどれほど多くの努力を積み重ねたのかがわかり「本物の俳優だな」と確信が持てました。
初めて挑戦する殺人犯の演技だったので、かなり悩んでいました。私たちは、実際には殺人犯になってみることはできませんから。そこで話し合いを重ねてドシクのキャラクターを一緒に作っていきました。その過程で見たウィ・ハジュンさんの姿は、誠実さと努力そのものでした。ドシクは一瞬にして感情を変化させなければならないキャラクター。それが上手くできないと、とても不自然な演技になってしまいます。しかし、彼は慌ただしく進む現場でも巧みに感情を変化させ、瞬時に感情を顔に出すことができたので、感嘆することが多かったです。また、現場で役になりきるために、バスの後ろや人のいない所に行って、ひとりでぽつんと過ごしている姿を見て、ドシクになりきるための誠意を感じました。
特に何かからインスピレーションを得たわけではありませんでした。それよりも音の視覚化、危機の視覚化を具現したかったんです。さまざまな道具を想像し、資料調査をするなかで、実際に視覚障がい者、聴覚障がい者のための道具があることを知りました。それらをもとに映画的な想像力を加味し、各種のシグナルや動くものを表現しようと思いました。
基本的には、実際の事件を多数調べました。「おぞましい殺人を犯すからには、きっと特別な理由があるのだろう」と思っていましたが、実際にリサーチしてみたところ、ほとんどの連続殺人犯、サイコパスの行為には「理由がなかった」んです。そこにあったのは「なんとなく」というもの。あまりにも虚しい「なんとなく」という答えが多かったのです。だからこそ、ドシクが連続殺人を犯す特別な理由、彼の過去については触れませんでした。それがもっと恐ろしい現実のように思えたからです。
関連ニュース
映画.com注目特集をチェック
【推しの子】 The Final Act NEW
【忖度なし本音レビュー】原作ガチファン&原作未見が観たら…想像以上の“観るべき良作”だった――!
提供:東映
物語が超・面白い! NEW
大物マフィアが左遷され、独自に犯罪組織を設立…どうなる!? 年末年始にオススメ“大絶品”
提供:Paramount+
外道の歌 NEW
強姦、児童虐待殺人、一家洗脳殺人…地上波では絶対に流せない“狂刺激作”【鑑賞は自己責任で】
提供:DMM TV
全「ロード・オブ・ザ・リング」ファン必見の超重要作 NEW
【伝説的一作】ファン大歓喜、大興奮、大満足――あれもこれも登場し、感動すら覚える極上体験
提供:ワーナー・ブラザース映画
ライオン・キング ムファサ
【全世界史上最高ヒット“エンタメの王”】この“超実写”は何がすごい? 魂揺さぶる究極映画体験!
提供:ディズニー
ハンパない中毒性の刺激作
【人生の楽しみが一個、増えた】ほかでは絶対に味わえない“尖った映画”…期間限定で公開中
提供:ローソンエンタテインメント
【衝撃】映画を500円で観る“裏ワザ”
【知って得する】「2000円は高い」というあなただけに…“超安くなる裏ワザ”こっそり教えます
提供:KDDI
モアナと伝説の海2
【モアナが歴代No.1の人が観てきた】神曲揃いで超刺さった!!超オススメだからぜひ、ぜひ観て!!
提供:ディズニー
関連コンテンツをチェック
シネマ映画.comで今すぐ見る
内容のあまりの過激さに世界各国で上映の際に多くのシーンがカット、ないしは上映そのものが禁止されるなど物議をかもしたセルビア製ゴアスリラー。元ポルノ男優のミロシュは、怪しげな大作ポルノ映画への出演を依頼され、高額なギャラにひかれて話を引き受ける。ある豪邸につれていかれ、そこに現れたビクミルと名乗る謎の男から「大金持ちのクライアントの嗜好を満たす芸術的なポルノ映画が撮りたい」と諭されたミロシュは、具体的な内容の説明も聞かぬうちに契約書にサインしてしまうが……。日本では2012年にノーカット版で劇場公開。2022年には4Kデジタルリマスター化&無修正の「4Kリマスター完全版」で公開。※本作品はHD画質での配信となります。予め、ご了承くださいませ。
ギリシャ・クレタ島のリゾート地を舞台に、10代の少女たちの友情や恋愛やセックスが絡み合う夏休みをいきいきと描いた青春ドラマ。 タラ、スカイ、エムの親友3人組は卒業旅行の締めくくりとして、パーティが盛んなクレタ島のリゾート地マリアへやって来る。3人の中で自分だけがバージンのタラはこの地で初体験を果たすべく焦りを募らせるが、スカイとエムはお節介な混乱を招いてばかり。バーやナイトクラブが立ち並ぶ雑踏を、酒に酔ってひとりさまようタラ。やがて彼女はホテルの隣室の青年たちと出会い、思い出に残る夏の日々への期待を抱くが……。 主人公タラ役に、ドラマ「ヴァンパイア・アカデミー」のミア・マッケンナ=ブルース。「SCRAPPER スクラッパー」などの作品で撮影監督として活躍してきたモリー・マニング・ウォーカーが長編初監督・脚本を手がけ、2023年・第76回カンヌ国際映画祭「ある視点」部門グランプリをはじめ世界各地の映画祭で高く評価された。
父親と2人で過ごした夏休みを、20年後、その時の父親と同じ年齢になった娘の視点からつづり、当時は知らなかった父親の新たな一面を見いだしていく姿を描いたヒューマンドラマ。 11歳の夏休み、思春期のソフィは、離れて暮らす31歳の父親カラムとともにトルコのひなびたリゾート地にやってきた。まぶしい太陽の下、カラムが入手したビデオカメラを互いに向け合い、2人は親密な時間を過ごす。20年後、当時のカラムと同じ年齢になったソフィは、その時に撮影した懐かしい映像を振り返り、大好きだった父との記憶をよみがえらてゆく。 テレビドラマ「ノーマル・ピープル」でブレイクしたポール・メスカルが愛情深くも繊細な父親カラムを演じ、第95回アカデミー主演男優賞にノミネート。ソフィ役はオーディションで選ばれた新人フランキー・コリオ。監督・脚本はこれが長編デビューとなる、スコットランド出身の新星シャーロット・ウェルズ。
奔放な美少女に翻弄される男の姿をつづった谷崎潤一郎の長編小説「痴人の愛」を、現代に舞台を置き換えて主人公ふたりの性別を逆転させるなど大胆なアレンジを加えて映画化。 教師のなおみは、捨て猫のように道端に座り込んでいた青年ゆずるを放っておくことができず、広い家に引っ越して一緒に暮らし始める。ゆずるとの間に体の関係はなく、なおみは彼の成長を見守るだけのはずだった。しかし、ゆずるの自由奔放な行動に振り回されるうちに、その蠱惑的な魅力の虜になっていき……。 2022年の映画「鍵」でも谷崎作品のヒロインを務めた桝田幸希が主人公なおみ、「ロストサマー」「ブルーイマジン」の林裕太がゆずるを演じ、「青春ジャック 止められるか、俺たちを2」の碧木愛莉、「きのう生まれたわけじゃない」の守屋文雄が共演。「家政夫のミタゾノ」などテレビドラマの演出を中心に手がけてきた宝来忠昭が監督・脚本を担当。
文豪・谷崎潤一郎が同性愛や不倫に溺れる男女の破滅的な情愛を赤裸々につづった長編小説「卍」を、現代に舞台を置き換えて登場人物の性別を逆にするなど大胆なアレンジを加えて映画化。 画家になる夢を諦めきれず、サラリーマンを辞めて美術学校に通う園田。家庭では弁護士の妻・弥生が生計を支えていた。そんな中、園田は学校で見かけた美しい青年・光を目で追うようになり、デッサンのモデルとして自宅に招く。園田と光は自然に体を重ね、その後も逢瀬を繰り返していく。弥生からの誘いを断って光との情事に溺れる園田だったが、光には香織という婚約者がいることが発覚し……。 「クロガラス0」の中﨑絵梨奈が弥生役を体当たりで演じ、「ヘタな二人の恋の話」の鈴木志遠、「モダンかアナーキー」の門間航が共演。監督・脚本は「家政夫のミタゾノ」「孤独のグルメ」などテレビドラマの演出を中心に手がけてきた宝来忠昭。
「苦役列車」「まなみ100%」の脚本や「れいこいるか」などの監督作で知られるいまおかしんじ監督が、突然体が入れ替わってしまった男女を主人公に、セックスもジェンダーも超えた恋の形をユーモラスにつづった奇想天外なラブストーリー。 39歳の小説家・辺見たかしと24歳の美容師・横澤サトミは、街で衝突して一緒に階段から転げ落ちたことをきっかけに、体が入れ替わってしまう。お互いになりきってそれぞれの生活を送り始める2人だったが、たかしの妻・由莉奈には別の男の影があり、レズビアンのサトミは同棲中の真紀から男の恋人ができたことを理由に別れを告げられる。たかしとサトミはお互いの人生を好転させるため、周囲の人々を巻き込みながら奮闘を続けるが……。 小説家たかしを小出恵介、たかしと体が入れ替わってしまう美容師サトミをグラビアアイドルの風吹ケイ、たかしの妻・由莉奈を新藤まなみ、たかしとサトミを見守るゲイのバー店主を田中幸太朗が演じた。