【独占インタビュー】松坂桃李と鈴木亮平が思いを巡らす「血沸き肉躍った」瞬間
2021年8月14日 11:00
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飢えた“狼”たちが、3年ぶりに日本映画界へ戻ってきた――。それも、前回を凌ぐ圧倒的な熱量を携えて。「孤狼の血 LEVEL2」には、東映の伝統ともいえる任侠映画路線の“魂”が引き継がれている。その中心で“座長”として目をギラギラと光らせるのが、日本映画界になくてはならない存在となった松坂桃李。そして最強最悪の敵役として立ちはだかるのが、どんな役でも自分のものにしてしまう実力派・鈴木亮平。スクリーンの中で真っ向から対峙したふたりが、胸のうちを明かした。(取材・文/大塚史貴、写真/根田拓也)
白石和彌監督がメガホンをとった「孤狼の血」は、2018年5月12日に全国で封切られると熱狂的な支持を集め、そのわずか2週間後には早くも続編の製作決定が発表された。新型コロナウイルスの感染拡大による影響が少なからずあったにせよ、多忙を極めるキャスト陣のスケジュールをまとめ上げ、約3年後となる21年8月に続編公開へと漕ぎ着けたのだから、順調すぎるくらいに順調だったといっても誰も反論することはないだろう。
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前作は広島の架空都市・呉原を舞台に、「警察小説×『仁義なき戦い』」と評された柚月裕子の同名小説を映画化したわけだが、役所広司、松坂、江口洋介、真木よう子、竹野内豊、石橋蓮司ら豪華なキャストの誰も彼もが、嬉々とした面持ちで役を生き、壮絶に散っていったキャストも少なくない。今作の主人公となる日岡秀一は、前作では所轄署に配属となった新人刑事でしかない。暴力団との癒着が噂されるベテラン刑事・大上章吾(役所)とともに失踪事件の捜査にあたるが、この事件が呉原で地場の暴力団・尾谷組と広島の巨大組織・五十子会系の加古村組の抗争を激化させていく。そして捜査の途中で殉職してしまう大上の“血”を日岡が受け継ぎ、抗争を終結させる。
筆者は17年春に前作の撮影現場を訪問しているが、その日は“いわくつき”と形容したくなる養豚場のシーンだった。松坂から「大事なシーンだけど、ネタバレ出来ないから何も書けない日に来ちゃいましたね」と言われ、笑い合ったことを記憶している。待ち時間が長かったこともあり、20代最後の1年をいかに挑戦の年とするか……という話題が、会話の中心だったと当時のノートにメモが残されている。
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「孤狼の血 LEVEL2」をただの続編にしないためにも、この3年間は松坂をはじめとする続投組にとっても必要な時間だったと解釈することができる。前作からスケールダウンするどころか、白石監督版「仁義なき戦い 広島死闘篇」という立ち位置の作品に仕上がったことを踏まえ、松坂にとってこの3年間はいかなるものだったのだろうか。
松坂「僕自身としても本当に色々な作品にチャレンジさせてもらった期間でした。前作を撮っているときは29歳くらいで、目前に控える30代、その更に先に控える40代に向けて色々な経験をしておかなければいけない。多くの監督とチャレンジングな作品に取り組むんだ! と自分の中で定めていた期間だったんです。おかげさまで、まさしくそういう3年間になりました」
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奇しくも、映画の世界でも3年の月日が流れている。前作が暴対法成立以前の昭和63年だったのに対し、平成の世となった今作に大上はもういない。松坂が今作の現場で、座長として意識したことについて話題を振ってみると……。
松坂「初日に、座長として引っ張るとかではないなって感じたんです。そもそも、このチームを僕が引っ張ると考えること自体が違うと思いましたし、それよりも全員で前作を超えていくものを作るんだ! という意識の方が強くなりました。僕と亮平さん、虹郎くんがほぼ広島に滞在していて、他の方々は仕事の関係もあって広島で撮影をしてすぐ帰って……というのを繰り返していたんですね。皆さんに対しては、溜まっているものを全部ここにぶつけてください! 全部受け止めるんで! という、発散して帰って欲しいなあという気持ちでいました。そういうエネルギッシュなものが、この作品のパワーに繋がると思ったので。完成したものを観たとき、先輩方が楽しそうに演じられているのが凄く嬉しくて。前作のパワーを知っているからこそ、『ここまでやっちゃっていいよね?』みたいなものがあったんじゃないかと思うんです」
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原作は3部作で完結しており、1作目のクライマックスで日岡は地方の派出所へ左遷させられている。だが、映画第1弾では異なるエンディングが用意されていたため、続編となる今作では前作の3年後を舞台にした、オリジナルストーリーが紡がれていく。大上亡き後の広島の治安を守り、裏社会にも顔が利く存在となった日岡の前に、刑務所から出所したばかりの上林成浩が現れる。上林は、前作で刺殺された五十子会会長・五十子正平(石橋)に心酔していたという設定。この“親”の死に疑問を抱き、真相を突き止めようとするなかで、黒幕が日岡だったことを知る……。
鈴木が狂気をはらんだ芝居で刹那的な生き方しか出来ない上林に魂を吹き込み、作品世界に戦慄をもたらすことに成功したが、オファーを受けた直後は意外な反応を示したようだ。
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鈴木「実は脚本を読むまでは、ちょっと難しいかもしれない……と思ったんですよ。前作があれだけの完成度で、それを引っ張っていた役所さんが今回はいないわけです。続編というものの難しさを感じることが多いぶん、自分に果たしてそれが出来るのか……と思ったんです。ただ、脚本を読ませてもらったらすごく面白かったですし、この上林という役を僕にあてがってくれた白石監督の気持ち、勇気に応えないといけない! という思いから、即決しました」
鈴木が息吹を注ぎ込んだ上林は、“親”の仇をとる復讐心と自らの破壊衝動のもと、抗争を避ける組織の上層部の面々を躊躇うことなく抹殺していく。上林には、「自分が悪いことをしている」という意識は微塵もない。そんな役どころを生きるうえで、現場では何を心の拠りどころとしていたのだろうか。
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鈴木「上林としては、周囲の人間こそが外道だと思っているんですよ。身を守るために裏切った人間、汚い人間を成敗こそしていますが、あくまでも悪いのは周りだと。特に、一番悪いのは“親”が死ぬきっかけを作ったこの人(松坂)。やっと見つけた、親と呼びたいと思える人間を殺した日岡を許せないと思っている。そういう面も含めて、僕は上林という人物に共感できたので、あまり拠りどころとかは必要なかったんです。そのまま、上林でいればいいだけでした」
日岡は大上から引き継いだ「刑事としての正義」を土台に行動している一方で、共感できるか否かは別として上林にも上林なりの正義が劇中で見え隠れする。俳優、表現者として生きるなかで、ふたりにとっての「正義」について聞いてみた。
鈴木「自分の関わった作品、表現した芝居が図らずも人を傷つけてしまうことってあると思うんです。そうではなくて、誰かの気持ちを癒したり、生きるパワーに繋がられたり、楽しいと思ってもらえたとか、ポジティブな影響を届けることができるというのが自分の仕事の正義が生まれる瞬間かなと思います」
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松坂「僕は仕事でいうと、作品と観客を繋ぐパイプ役だと思っているんです。作品に込められたメッセージ、根底にあるものを観てくれた方々に届けるための橋渡しみたいなものが、僕なりの正義なんです。取材を受けるとか、こういった宣伝活動も。作品の中で演じるプラスアルファ、『劇場に観に来てください!』ということも含め、橋渡しを全うすることかなと思いますね」
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ふたりの魅力を余すことなく盛り込んだ妥協なき“死闘”は、劇場の大きなスクリーンで瞬きを忘れる勢いで確認してもらいたいところだが、目の前で穏やかな表情を浮かべながら取材に応じるふたりの姿を見るにつけ、オン・オフのスイッチがどこにあるのかに興味が湧いてくる。撮影現場で、ふたりが最も「血沸き肉躍る」と感じた局面に関して聞いてみた。
鈴木「僕はですね、(自らが組長を務める)上林組の仲間と集まる時が血沸き肉躍ったなあ。この状況なのでお店には行けなかったのですが、PCR検査での陰性と日々の体調管理を徹底している白石組の我々だけが行ける『居酒屋 孤狼の血』という居酒屋をスタッフさんが用意してくれていたので、そこで食事をしていました。(広島出身の)毎熊克哉さん以外、僕を含めた全員がエセ広島弁でワイワイやって、盛り上がっていました。それも相まって絆が深まりましたね。上林組ってある種、極道の世界にもいられなくなった人間の吹き溜まりみたいなところがあるので、そういう雰囲気を作れたのが楽しかったし映画にも良い影響があったかもしれませんね」
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松坂「確かに亮平さんたち、盛り上がっていましたよね。僕は、前作でアシスタントをやっていたスタッフさんたちが、今回はメインに上がってきた。そういう人たちと仕事をするときが、血沸き肉躍る瞬間だったかもしれない。ステージが1つ上がって、ものすごい緊張感があったと思うんですよ。前回は先輩の背中を見ながら仕事をしていたけれど、今回は『やってみろ!』って。僕が役所さんのやっていらっしゃったポジションをやるのと近いのかもしれない。ヒリヒリするような感覚というか、『やばいぞ!』『怖いぞ!』『不安だぞ!』と思いながらも、なぜかちょっとニヤッとしてしまう瞬間ってあるじゃないですか。そういう空気感で現場にいられたのは、本当に幸せでしたね」
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原作とは異なる世界が描かれたことで、日岡の今後について気になっている人も多いだろう。まとめていた広島の治安が上林によって乱されたことで、どうあがいても今回の戦いは日岡にとっては負け戦という位置づけとなる。本編でそれを象徴するのが、広島仁正会の綿船陽三会長(吉田鋼太郎)が日岡につぶやくセリフにある。
「日本に狼はおらんのんよのう。狼は狂暴になり過ぎて、手に負えんようになってしもうたけえ、人間様が根絶やしにしてしもうたんじゃ。強うなり過ぎるんも考えもんじゃのう」
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苛立ちを募らせていく日岡の言いようのない焦燥感が、今作の見どころのひとつともいえるが、孤軍奮闘の“狼”の目は、最後まで死なない。松坂にとって、「孤狼の血」との出合いは何ものにも代えがたいものだと真摯な眼差しが語りかけてくる。
松坂「僕自身にとっては、この仕事を続ける活力のひとつになっているのかもしれません。これだけエネルギッシュで爽快感もあり、観終わった後に熱量を受け取って『すごい元気が出た!』と感じることのできる、中毒性のある作品をやらせてもらったのは初めてだったんです。この作品に今後も携わり続けることが出来るように、この活力をこれからも大切に過ごしていきたいですね」
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執筆者紹介
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大塚史貴 (おおつか・ふみたか)
映画.com副編集長。1976年生まれ、神奈川県出身。出版社やハリウッドのエンタメ業界紙の日本版「Variety Japan」を経て、2009年から映画.com編集部に所属。規模の大小を問わず、数多くの邦画作品の撮影現場を取材し、日本映画プロフェッショナル大賞選考委員を務める。
Twitter:@com56362672
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