【パリ発コラム】パンデミック後初開催、28年ぶりの女性監督パルムドール、日本映画初の脚本賞……今年のカンヌ映画祭を振り返る
2021年8月1日 15:00

7月に開催された2年ぶりのカンヌ国際映画祭が、コロナ感染の恐れに苛まされながらもなんとか無事に幕を閉じた。振り返れば、パンデミック後の初カンヌであることや、28年ぶりの女性監督受賞となったジュリア・デュクルノーのパルムドール作品「Titane」、日本映画として初めて脚本賞に輝いた濱口竜介監督の「ドライブ・マイ・カー」など、歴史的トピックが並んだ記憶に刻まれる年となった。
ここでは現場を体験した印象から、あらためて映画祭を振り返ってみたい。

「いったいどこまで作品が増え続けるのか」。これがまず、映画祭が始まる前の印象だった。6月頭のラインナップ発表以降、段階的に各部門で作品が追加され、最後に細田守監督の「竜とそばかすの姫」の追加発表があったのはなんと開幕2日前。内部ではもっと早くに決まっていたのかもしれないが、正直よくこれでカタログの印刷が間に合うものだというタイミングだった。
ここまで作品が増えたのは、ひとつには昨年からのロックダウンの影響で公開延期作が増えていたことが挙げられる。今年の特徴のひとつである「フランス映画の多さ」もこれに関連するが、要するに渋滞のはけ口としてそれらが一挙にカンヌに押し寄せたのだ。ディレクターのティエリー・フレモーが記者会見で、フランス映画のサポートを強調していたのも頷ける。その一方で、インターナショナルな話題作はカンヌが取り上げなければ他の映画祭に流れるわけで、ぎりぎりまで粘ってもカンヌでやりたいという、欲張りな意図もあっただろう。

今年「カンヌ・プルミエール」という部門が新設されたのは、その受け皿としての役割があったに違いない。プルミエールといっても新人がいるわけではなく、選ばれたのはマルコ・ベロッキオ、アルノー・デプレシャン、アンドレア・アーノルド、ホン・サンス、ギャスパー・ノエら、むしろカンヌの常連。またオリバー・ストーンがケネディ元大統領暗殺を徹底再検証した注目のドキュメンタリー「JFK Revisited: Through The Looking Glass」や、シャルロット・ゲンズブールが母ジェーン・バーキンにカメラを向けた初監督作「Jane by Charlotte」もあった。
時事的なトピックとしては、男女平等を目指した意識改革――たとえばスパイク・リー率いる9人の審査員メンバーのうち、初めて過半数の5人を女性にしたこと、環境映画部門を新設したこと、さらに映画祭終盤に、中国との対立を覚悟しつつ2019年の香港のプロテストの様子をキウィ・チョウ監督がカメラに収めたドキュメンタリー「Revolution of Our Times」をサプライズ上映したことが挙げられる。ドキュメンタリーについては、中国政府は沈黙しているものの、フランス駐在の中国大使から苦情が寄せられた。もっとも、ティエリー・フレモーは直接対決を交わすかのようにバラエティ誌に、「映画的な作品として美しいから選択しただけです。青春、苦闘、献身、これこそカンヌのスペシャリティです」と語っている。だが、今回コンペティションにロシアで軟禁中のキリル・セレブレニコフの新作、「Petrov’s Flu」が入っていたことからもわかるように、政治的であることもまたカンヌの特色と言える。

パンデミックの影響でジャーナリストや業界人の数は通常の3分の2ぐらいだったものの、7月のコートダジュールはフランス人のバカンス客であふれ、巷は活気に満ちていた。また蓋を開ければ、今回栄誉賞を授与されたジョディ・フォスターのほか、マット・デイモンやショーン・ペン、ウェス・アンダーソン組のビル・マーレイ、ベニチオ・デル・トロ、エイドリアン・ブロディ、ティルダ・スウィントン、ティモシー・シャラメなどスターが集まり、映画の復興を讃える光景が見られた。ストリーミングの興隆やパンデミックに見舞われながらも、「そして映画は続く」を実感させられた映画祭だった。(佐藤久理子)
関連ニュース






映画.com注目特集をチェック

“ベスト主演映画”TOP5を発表!
【出演123本の中から、1位はどの作品?】そして最新作は、生きる力をくれる“集大成的一作”
提供:キノフィルムズ

ワン・バトル・アフター・アナザー
【個人的・下半期で最も観たい映画を実際に観たら…】期待ぶち抜けの異常な面白さでとんでもなかった
提供:ワーナー・ブラザース映画

96%高評価の“前代未聞の心理戦”
【スパイによる究極のスパイ狩り】目を逸らせない超一級サスペンス
提供:パルコ

映画.com編集長が推したい一本
【ただの映画ではない…】むしろ“最前列”で観るべき奇跡体験!この伝説を人生に刻め!
提供:ポニーキャニオン

酸素残量はわずか10分、生存確率0%…
【“地球で最も危険な仕事”の驚がくの実話】SNSで話題、極限状況を描いた超高評価作
提供:キノフィルムズ

めちゃくちゃ笑って、すっげぇ楽しかった超刺激作
【これ良かった】激チャラ大学生が襲いかかってきて、なぜか勝手に死んでいきます(涙)
提供:ライツキューブ

なんだこのかっこいい映画は…!?
「マトリックス」「アバター」など数々の傑作は、このシリーズがなければ生まれなかった――
提供:ディズニー

宝島
【超異例の「宝島」現象】こんなにも早く、心の底から“観てほしい”と感じた映画は初めてかもしれない。
提供:ソニー・ピクチャーズエンタテインメント