【コラム/細野真宏の試写室日記】「ピーターラビット2」「夏への扉」。「鬼滅の刃」との共通点は?
2021年6月25日 09:30
映画はコケた、大ヒット、など、経済的な視点からも面白いコンテンツが少なくない。そこで「映画の経済的な意味を考えるコラム」を書く。それがこの日記の核です。また、クリエイター目線で「さすがだな~」と感心する映画も、毎日見ていれば1~2週間に1本くらいは見つかる。本音で薦めたい作品があれば随時紹介します。更新がないときは、別分野の仕事で忙しいときなのか、あるいは……?(笑)(文/細野真宏)
日本には、東宝、松竹、東映などの「日本の映画会社」に加えて、ハリウッドメジャーのディズニー、ワーナーなどの日本支社があります。
では、これら多くの映画会社において、今回の新型コロナウイルスの影響で、どこが一番、試写室の再開が遅れてしまったのでしょうか?
まず、新型コロナウイルスの第1波により2020年4月7日から5月6日までの1カ月間、東京都、神奈川県、埼玉県、千葉県、大阪府、兵庫県、福岡県の7都府県で緊急事態宣言が発出された際には、映画館自体が休業していたので、どこの試写室も運用停止となりました。
ただ、その後「日本の映画会社」の方は機動力を発揮し、意外と早く試写室が稼働し始め、日本の映画業界を活性化させてきました。
その一方で、ハリウッドメジャーの日本支社については、かなり遅れが出ていました。
それは、日本の感染状況はそれほど酷くなかったのに対して、アメリカを中心に新型コロナウイルスの蔓延が拡大の一途を辿っていたからです。
例えば「ピーターラビット2 バーナバスの誘惑」は、当初アメリカでは2020年4月に公開予定でしたが、それが8月となり、さらに2021年1月、4月、6月、5月、7月、6月と移動し“7度目の正直”で、ようやく6月18日から公開されました。
それによって日本での公開も延期を余儀なくされていたのです。
(とは言え、ワーナーの日本支社のように邦画にも力を入れている場合もあり、ワーナーの場合は意外と早くに試写室を稼働させていました)
このような構造の下、基本的にハリウッドメジャーの日本支社は、日本以外の要因で、かなりのダメージを受け続けていたのです。
そんな中、やっと(最後となる)ソニー・ピクチャーズの試写室が動き出したのは、世界の映画市場が回復してきたことを示す象徴的な明るいニュースなのかもしれません。
私が前回ソニーの試写室に行ったのは、「ストーリー・オブ・マイライフ わたしの若草物語」の試写で、まさにその2020年3月3日からアメリカ本社の要請で、試写室の運用が停止してしまったのです。
今回、「ピーターラビット2 バーナバスの誘惑」の公開に合わせて試写に行った際には、1年以上の空白があり、試写室の階数を忘れ、思わずエレベーターを押し間違えて他の階で降りたりもしたくらいの状況でした。
しかも、試写自体も、非常に限定した規模で、ソーシャルディスタンスが4、5席の間隔で、まだ本格的な復帰には少し時間がかかるのかもしれません。
ただ、そんな中でも、ソニーグループの2020年度の決算は、純利益1.1兆円という「史上最高益」を叩き出しているのです!
これは、ハリウッド映画の不調を補う形で、「音楽部門」や「ゲーム部門」が好調だったことが関係しています。
実は、このソニーの音楽部門の好調の背景に、2020年公開作品で世界興行収入1位になった「劇場版『鬼滅の刃』無限列車編」があるのです!
「鬼滅の刃」のアニメーションを主導しているのはアニプレックスです。そしてアニプレックスがソニーの子会社であることは知っている人も増えてきています。
実は厳密には、アニプレックスは、「ソニー・ミュージックエンタテインメントの100%子会社」なので、決算では「音楽部門」に反映されるわけです。
ちなみに、アニプレックスの試写室は、ソニー・ミュージックエンタテインメント本社の中にあり、こちらは日本のアニメーション映画があるので早めに稼働できていたのです。
そして、このアニプレックスは日本の実写映画も製作しています。今週末公開の「夏への扉 キミのいる未来へ」は、アニプレックス作品なのです。
つまり、映画「ピーターラビット2」(第1作を含む)、「夏への扉」と「鬼滅の刃」の共通点は「ソニー作品」ということです。
さて、延期に次ぐ延期で、ようやく日本でも今週末に大規模公開となる「ピーターラビット2 バーナバスの誘惑」ですが、こちらは2018年公開の前作「ピーターラビット」の続編です。
そもそも「ピーターラビット」というと、ビアトリクス・ポターによる親しみやすく優雅な水彩画調の絵本を思い浮かべます。
ところが、映画「ピーターラビット」は最先端のCGを駆使し「ピーターラビット」を初めて実写化した作品として、ピーターラビットらをかなりヤンチャなキャラクターとして描いているのです。
このギャップがウケて、日本でも興行収入11.2億円となるヒットを記録しました。
世界興行収入は386億円(1ドル=110円)を記録し、すぐに続編となる本作「ピーターラビット2 バーナバスの誘惑」の製作が決まったのでした。
「ピーターラビット2 バーナバスの誘惑」では、ピーターラビットらが慕う女性画家ビアと、パートナーとなったマグレガーの下に、ビアが描いた「ピーターラビット」の絵本をシリーズ化して大きく展開していきたいという大手出版社が現れます。
そして、ビアとマグレガーは、ピーターラビットらと共に大手出版社がある都会に行きます。
そこでピーターラビットは、サブタイトルでも登場している「バーナバス」という、ピーターラビットの亡き父親と親友だったというウサギに出会うのです。
その出会いが、本作の大きな化学反応の始まりなのですが、前作以上に物語はパワフルに展開されていきます。
本作を見て改めて思ったのは、「批評家として見るか、ファミリー層を中心とした娯楽映画として楽しんで見るのか」によって、評価が大きく変わる作品だ、ということです。
これは、厳しめな批評で有名なRotten Tomatoesでも、批評家の評価(満足度)は67%に対して、一般層は90%と大きく割れていることが象徴的だと思います。(2021年6月24日時点)
つまり、純粋に子供のような目線で楽しむのが正解のようです。
本作は字幕版と吹替版のどちらかで見るのかは、好みの問題もありそうですが、前作の「ピーターラビット」のヒットは、ピーターラビット役の吹替をした千葉雄大の存在が大きかったような気がしています。
これは、公開に合わせて6月25日(金)に日本テレビ系列の「金曜ロードショー」で第1弾「ピーターラビット」が放送されるので、確認してみるのがいいと思います。
ちなみに、字幕版も意外と豪華で、ピーターラビットには“三つ子の妹”のフロプシー(赤)、モプシー(黄)、カトンテール(緑青)がいます。
中でもフロプシー(赤)はマーゴット・ロビーが声優とナレーションを担当し、モプシー(黄)は(「TENET テネット」の“キャット”役の)エリザベス・デビッキが声優を担当しているのも注目点なのです。
また、同日の6月25日(金)には、こちらも新型コロナウイルスの影響で公開延期となっていた「夏への扉 キミのいる未来へ」も大規模公開されます。
「夏への扉 キミのいる未来へ」も“原作が昔からの名著”という意味では「ピーターラビット」と同様な作品と言えるでしょう。
1956年に発表されたSFの名著とされるロバート・A・ハインラインによる「夏への扉」が原作となっていて、それを近未来の日本バージョンに変えています。
原作の場合は、1970年から2000年に“人工冬眠”によって30年間の眠りにつく近未来SFなのですが、本作では1995年から2025年の30年間にしているのです。
この変更には、プラスの面と、マイナスの面の両方があるかと思います。
まず、プラスの面ですが、1995年と2025年というのは、今の時点(2021年)では、共に“想像しやすい”ということです。
一方、マイナスの面では、原作の場合は、(1956年の時点では)1970年は当然のこと、2000年は“遥か未知なる世界”で、空想に大きな余韻を生むのですが、この余韻が減る点でしょうか。
つまり、「26年前と4年後」という“分かりやすい世界”か、「14年後と44年後」という“想像の余地の大きな世界”か、の2択だったのだと思います。
仮にハリウッド映画の場合であれば予算も潤沢なので後者の実現は可能かもしれませんが、邦画では前者のリアリティーを感じられる世界の構築の方が現実的なのかもしれません。
その意味で、本作は見る前に注意が必要で、ハードルを上げ過ぎると、ピントが合わずに終わってしまうリスクがあるので、見る前に補正しておきましょう。
近未来の映像を「4年後の世界」と考えると、映像が自然に見えてくると思われます。
そうしてピントが合うと、本作の「30年間のタイムトラベルの物語」を純粋に「ミステリー作品」として楽しめるでしょう。
未来と過去を行き来できる世界で、果たして何が起こっているのかを「謎解き」していく楽しさがあるのです。
そう、本作の最大の肝は、SF要素のある「ミステリー作品」だということなのです。
そして、「夏への扉 キミのいる未来へ」で注目すべきは、配給会社が、東宝×アニプレックスという「劇場版『鬼滅の刃』無限列車編」のコンビになっている点です。
ちなみに、「劇場版『鬼滅の刃』無限列車編」と同様に、主題歌はLiSAが担当しています。
作品が変わった場合に、この最強に思える配給会社の組合せは、どのくらいまで相乗効果を上げられるのでしょうか。
この動きも含めて、今週末はソニーという会社に注目が集まりそうです。
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