平凡な日々を送る高校生の濱田清澄(中川大志)は、学年一の嫌われ者と呼ばれて孤立していた蔵本玻璃(石井杏奈)をいじめの手から救い出そうとする。玻璃は清澄に心を開くようになるが、彼女は誰にも言えない秘密を抱え、清澄にも恐るべき危険が迫っていた。
堤が演じたのは、玻璃の父。不穏な雰囲気を漂わせ、物語に強烈なインパクトを与えている。特に、矢田亜希子扮する清澄の母とのシーンは、ピリピリと痺れるような雰囲気でざわつかせ、物語の重要なキーパーソンを担っている。
堤:一緒に仕事はしていないだけで、普段は遊びに行ったりしています(笑)。
SABU監督:去年、バナナワニ園に旅行に行ったね(笑)。玻璃の父は、通り一遍にやっちゃうと面白くない。狂気的なありがちな芝居になってしまいそうなところを、僕は違う方向でいきたいと思っていたので、“国民的スター”のこの人にこの役をやってほしいと思いました(笑)。これは付き合いのある俺の作品だから出てくれたと思います。それくらい、引き受けるのも難しい役だったと思います。
堤:シーン数も少ないので、何を考えているのか説明ができない役です。長々気持ちを語れない役の場合は、普通に演じる方がいいと思いました。初めて仕事をする監督だったらステレオタイプの芝居を求められるかもしれないですが、
SABUなら違うなとも思っていました。
脚本を読んでいるとき、いじめられっ子を救う話だと思ったら、そこからどんどん彼女(玻璃)のことが不思議になっていって、父親が出てきてって話が動いていきます。彼女に何かあるんだろうなっていう匂わせ方にしないといけないと思っていました。
SABU監督:この人の芝居を見たとき、そういう風に演じるんだって嬉しくなっちゃって。シーンを少し増やしましたね。
SABU監督:2人ともしっかりしていて、セリフの言い回しについては“台本通り”がきっちりできる。変な小細工をせず、ちゃんと伝えて受け止めることができます。映画などで俳優さんが「体当たりの演技」と評価されているとき、ただ大きい声を出しているだけみたいなこともありますが、石井さんは声の張り方がしっかりしていて本当に刺さりました。
堤:中川君とはこの作品の少し前に一緒にお仕事したことがあって、本当に素直に育ってきた方なんだなと思いました。僕らのときは俳優というと癖のある人が多かったけれど、中川君は本当に真っすぐ。少し天然な雰囲気もあって、この主人公にぴったりです。石井さんは役をちゃんととらえていて、“かわいそうな子”を一生懸命演じようとしていなかったので、映画を見たとき本をしっかり読める方なんだなと思いました。
――お2人はプライベートではずっと親交があったとのことですが、一緒にお仕事をするのが久々になった理由は?
SABU監督:昔は俺の映画しか出ないでしょって言われる声も聞いていましたが、この人にはいろんなところでやってほしいと思っていました。
堤:
SABUの映画じゃない、別の作品に出たら急に映画のオファーが来るようになりました。そもそも僕は舞台を中心にやっていたので、当時は周りから「映画は
SABUさんしかやらないでしょ」ってよく言われていました。
SABUの現場は
大杉漣さん、
田口トモロヲさんたちと一緒だったので、作品関係なしに楽しいんです。そういう場所があってもいいけれど、劇団をやっているわけではないので、なるべくお互い違うところでやろうという思いがあった。今回またこうやって一緒にできてよかったです。
――お2人といえば、
SABU監督の長編デビュー作「
弾丸ランナー」を思い浮かべる映画ファンも多いです。
堤:あれは2週間で撮ったので、当時は若かったなと思います(笑)。
SABUはその頃から絵コンテをしっかり書いていましたね。映像の色味や種類も気にしていなかったけれど、当時から工夫して撮っていました。今も撮影のやり方は大きく変わっていないと思いますが、経験値もあるし、そういう意味ではプロの監督になったんだなと思います。それにしても、「
弾丸ランナー」は本当に急に撮ることになって……。
堤:
SABUはずっと自分も役者をやっていて、その頃はVシネによく出ていたんです。
SABUが今の奥さんにおもんないって愚痴ったら、「自分で書いてみたら」って言われて書いたのが「
弾丸ランナー」。家で鍋食べながら
SABUから「映画化できたら出てな」って言われて、5年も10年も先の話だと思ったから「出る出る、わかった」って返事をしたら、その3カ月後くらいに「撮ることになったで」って。嘘やろって思いました(笑)。監督としてこんなにすぐに決まるとは。
SABU:(『
弾丸ランナー』キャストの)
田口トモロヲさんは元々友達だったので声をかけて、ダイアモンド☆ユカイさんは「東京ファンタスティック映画祭」のときに隣の席でしゃべったら出るって言ってくれて(笑)。懐かしいですね。当時、テアトル新宿のレイトショーの動員記録を作って、ファンタスティック映画祭も満席。宣伝もあまりなかったので、観客の口コミで広がっていきました。海外でも新たにDVDが発売されました。
堤:そういえば、ずいぶん前に仕事でドイツに行ったとき、ドライバーをやってくれた方からホテルの部屋に電話がかかってきて、「これお前か」って言われて。テレビをつけたら
SABUの映画がやっていて、そこからドライバーの方の態度が全然違うんですよ(笑)。
――(笑)。海外でも
SABU監督の作品は注目されていますよね。最後に、お2人の関係を一言で言うと……?
堤:“友達”です(笑)。この作品は自分も出ていることもあるし、“友達”の映画は厳しく見てしまいます。でも、見てみたら高校生たちの会話とか、日常のシーンがすごく上手で。結末がこういう映画なので、学校のなかの人間関係がきっちり描かれているのがすごいなと思いました。普通ならドラマチックな展開へ早くいこうとしてしまいますが、それがないのが良かった。僕らの年代の高校生くらいの子どもを抱えている親も見た方がいいと思いました。
SABU監督:関係を表すのは難しいですね。でも、今回この人が映画に出演してくれて、本当に嬉しかったです。