劇場公開日 2021年4月9日

砕け散るところを見せてあげる : 特集

2021年3月29日更新

衝撃のハッピーエンド―― この展開は是か、非か
青春譚と油断すれば心が粉砕される、優しく痛烈な一作

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高校生・濱田清澄の朝は遅刻から始まった。玄関を出るや靴が脱げそうな勢いで全力疾走し、校舎へ続く長く急な坂もダッシュで駆け上る。寝起きでこれはキツすぎる。すでに全校朝礼が始まっている体育館へ滑り込んだときには、息は絶え絶えで目もチカチカしていたくらいだった。

今から自分のクラスの列に並べば遅刻がバレてしまうし、そもそも足腰が限界でうまく動けないので、とりあえず近くの1年生の列に紛れ込むことにした。両膝に手をついて息を整え、この機会に校長のくだらない長話を聞いてみるか、と顔を上げたとき、清澄は許しがたい光景を目にする。一人の女子生徒に向かって、周りのクラスメイトが紙くずや上履きやらを投げつけていた――。

4月9日から公開される「砕け散るところを見せてあげる」は、そんな日常のひと幕から物語が始まる。主演は「坂道のアポロン」の中川大志と、「ガールズ・ステップ」の石井杏奈。才能に満ちた若き2人が紡ぐ青春譚は、時間を追うごとに色を変え、やがて衝撃的な結末へと、もんどり打って突き進んでいく。

ただの青春譚と油断すると、危ない。この“優しく痛烈な一作”は、あなたの心を粉々に粉砕しようと迫ってくる。本記事では、その見どころを【物語・原作・監督】【キャスト】【編集部レビュー】の3つの観点から詳述する。


【予告編】愛には終わりがない。

【物語・原作・監督】この展開にあなたは何を感じるか
後輩女子をいじめから助けた それから全てが始まった

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[物語]1人の女の子を救うため、ヒーローは命をかける

まず読者の皆様にお伝えしたいのが、本作は長澤まさみ主演「MOTHER マザー」や小栗旬&星野源共演「罪の声」などに衝撃を受けた観客には、特にオススメしたい一作である、ということだ。

高校3年生・濱田清澄(中川大志)は、高校1年生で学年一の嫌われ者・蔵本玻璃(石井杏奈)がいじめを受けている現場を目撃し、彼女を助ける。玻璃は学校中から“ヤバいやつ”と認識されていたが、ともあれ清澄はなぜか、彼女へのいじめを見過ごすことができなかった。玻璃の上履きが下駄箱から無残に放り投げられたら、拾って元に戻した。削り取られた名札は、シールできれいに貼り直した。

次第に清澄は、玻璃はヤバいやつなんかじゃなく、痛いときは涙が出るし、父親に心配かけまいと気丈に振る舞う普通の女の子だと知る。清澄はこう誓う。この子の力になろう、と。

「どうしたらそんなふうに強くなれますか?」と玻璃は聞く。「ヒーローがヒーローでいるのに、理由なんてあるか?」と清澄は答える。2人の心の距離が縮まり、穏やかで満ち足りた関係性が育まれるのに、長い時間はかからなかった。しかし幸福は、ある人物の登場をきっかけに崩壊していく……。

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[原作]一筋縄でいくはずがない 「とらドラ!」竹宮ゆゆこの小説

「とらドラ!」「ゴールデンタイム」など、アニメ化もされた人気作を手がけてきた小説家・竹宮ゆゆこの同名小説が原作。錚々たる表現者が破格の絶賛コメントを寄せ、「小説の新たな可能性を示した傑作」と称えられる一作だ。

軽快な会話劇を軸に、男女の恋愛模様を瑞々しく描く作風で知られているが、本作は趣が少々異なる。物語はヒューマンドラマとラブストーリーとサスペンスの間を自由自在に飛び回り、常識を覆すかのような“ハッピーエンド”へと収束する。あなたはこの作品に、何を感じるか――。

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[監督]冒頭5分で傑作の予感 「蟹工船」SABU監督

メガホンをとったのは、「疾走」「蟹工船」などで知られるSABU監督。監督作第4弾「MONDAY」(2000)がベルリン国際映画祭で国際批評家連盟賞、「幸福の鐘」(2002)が同映画祭のNETPAC(最優秀アジア映画賞)を受賞するなど、世界的に高く評価される名匠。本作はワルシャワ国際映画祭のコンペティション部門にも出品されており、その品質は折り紙付きだ。

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映画開始直後の5分間で、観客は一気に物語の世界に引き込まれるだろう。「つまりUFOが打ち落とされたせいで死んだのは2人」という謎の会話が繰り広げられ、次いで謎の男(北村匠海)が「変身、ヒーロー見参」とポーズをとる。俺の父さんはヒーローだった。そんなモノローグが響くなか、激走する清澄(中川)の姿に、「砕け散るところを見せてあげる」とタイトルロゴが重なる。

見ればわかる。触れた瞬間に“傑作”の予感が胸いっぱいに広がるだろう。SABU監督のエッセンスが詰まりまくった映像世界を“肌”で感じに、映画館へ足を運んでほしい。


【キャスト】中川大志×石井杏奈が最高純度の熱演
堤真一、原田知世ら大物キャストも…布陣に死角なし

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この項目では、キャストと、彼らがどんなキャラクターに扮したのかを紹介しよう。


[人物相関図]
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○中川大志/主人公・濱田清澄

ドラマ「家政婦のミタ」で一躍注目を浴び、NHK連続テレビ小説「なつぞら」などでも際立った存在感を見せた中川。本作ではヒーロー・清澄(通称:ヒマセン、仲のいい母親と2人暮らし)に扮し、魂がこもった熱演を見せている。記事後半のレビューでは、彼に映画の神が舞い降りた瞬間について言及している。

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○石井杏奈/ヒロイン・蔵本玻璃

映画「ソロモンの偽証」「心が叫びたがってるんだ。」「ホムンクルス」など話題作に出演してきた石井。ヒロイン・玻璃(父と祖母との3人暮らし、お餅が好き)のおどおどした口調や、一転して笑顔が弾ける輝かしい瞬間などを多彩に演じ分けた。本作をきっかけに、主演2人への評価は大きくジャンプアップするだろう。

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○堤真一/玻璃の父

日本を代表する名優の一人である堤真一は、本作では玻璃の父役に。詳述は避けるが、この男の絶妙なタイミングでの登場により、物語は一段と深くなり、ぬかるんでいく。果たしてあなたはこの展開に耐えられるか。

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○原田知世/???

大林宣彦監督作「時をかける少女」(1983)で映画初主演を飾り、女優や歌手として活躍、近年はドラマ「あなたの番です」も記憶に新しい原田知世。そのキャラクターをちょっとでも説明するとネタバレになるため、紹介はせずにこの項目を締めくくる。人物相関では、清澄と「結婚する」の矢印で結ばれているが……?


【編集部レビュー】中川大志に、映画の神が降りてきた

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オンライン試写で鑑賞した編集者のレビュー

まず強いインパクトを受けたのは、物語のグラデーションだ。序盤から中盤はいじめと恋にまつわる青春譚。しかし終盤はまったくその“体勢”を変える。まるで白石和彌や園子温らの作品を見ているような感覚に陥るが、清澄と玻璃に降りかかる出来事から、決して目をそらしてはならない。

そして最終盤。「インターステラー」を彷彿させる“愛の力”に切り込むラストは圧巻の一言だ。オンライン試写で鑑賞したが、深々と胸を貫かれたため、エンドロールが終わった直後に「巻き戻してラストシーンをもう一度見る」を3回繰り返したほど感銘を受けた。

まるで紅葉のように刻一刻と色づきを変えていく物語を、詩的で耽美な映像と、絶妙のバランス感覚で描ききったSABU監督の手腕にも敬服させられる。個人的に好きだったのは、清澄がクラスメイトたちと地元のハンバーガーショップでたっぷり大騒ぎしたあと、それぞれの家路へつく場面。「じゃーな」と別れ一人になったとき、さっきまであんなに笑っていたから、静寂と冬の空気の冷たさがより強く肌を刺してくる。

かつての僕らが経験していた、少し切ない“青春の残り香”のようなものが丁寧に収められているように感じた。だから懐かしくて、とても満たされた気分になれる。主人公と同年代の人々に加え、“大人になった私たち”にも向けられた作品なのだと思う。

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本作は全体的に、異様とも思えるほどの熱波を帯びている。出どころは中川大志であろう。1秒にも満たないセリフにも思いを込める、そんな気合いを感じさせる。平凡な高校生という設定の清澄が、中川という役者の力を借り、どこまでも飛んでいけるような溌剌としたパワーを獲得したのだ。

中川の全身全霊っぷりを、映画の神は見逃さなかった。終盤、清澄が「UFOを撃ち落とす。俺たちはヒーローだ、もちろん」とつぶやく場面がある。キャラの心情を通じて観客の感情も最高潮に達するシーンだが、言葉を紡ぐ瞬間、中川の左目から涙が一粒、ポロリと落ちる。意図せずして流れたこの一滴の雫が、作品全体に淡い光を放つオーラを付与したと言える。

中川も、石井杏奈も、そして清原果耶や松井愛莉や井之脇海らも、若き才能の発露が本作の最大の見どころなのではないだろうか。砕け散るところを見せてもらった。

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