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山崎紘菜、ハリウッドの現場で芽生えた自覚と気概

2021年3月25日 12:00

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取材に応じた山崎紘菜
取材に応じた山崎紘菜

女優でモデルの山崎紘菜がハリウッドデビューを果たした「モンスターハンター」が、3月26日から全国で封切られる。南アフリカ・ケープタウンでの撮影に参加したのは、2018年11月下旬から約1カ月。新型コロナウイルスの感染拡大の影響などもあって公開延期を余儀なくされ、実に2年以上が経過しての公開となるが、山崎の胸中を去来するものは……。(取材・文/編集部、写真/間庭裕基)

山崎が今作に出演すると発表されたのは、18年12月13日。ハリウッド大作の公開が軒並み延期された影響もあり、今作は21年の洋画興行の先陣を切る形で国内興行に名乗りを上げるわけだが、当時の山崎にとってこの世情は知る由もない。

「2年以上前の撮影でしたが、すごく楽しくて充実した日々だったことを鮮明に覚えています。完成した本編を改めて観て、画面の中にいる自分の姿や、エンドロールに名前が載っているのを確認すると、もちろん嬉しいのですが本当にこの作品の一部なんだなと、今になってじわじわと実感している感じです」

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シリーズ累計6500万本の売り上げを誇る人気ゲームソフトシリーズをハリウッドで実写映画化した今作は、同じカプコンの人気ゲームを原作に大ヒットを記録した「バイオハザード」シリーズの主演ミラ・ジョボビッチとポール・W・Sアンダーソン監督が再タッグを組んでいる。特殊部隊を率いるエリート軍人のアルテミス(ジョボビッチ)は砂漠を偵察中、超巨大な砂嵐に襲われ、気づくとそこは元いた場所とは違う異世界だった。近代兵器が一切通用しない巨大なモンスターに次々と隊員が襲われるなか、アルテミスはモンスターの狩猟を生業とするハンターと出会う……。

ゲームのなかでナビゲート役として登場する人気キャラクター“受付嬢”(ハンドラー)に扮した山崎にとって、ジョボビッチとの交流は大きな刺激になったことは言うまでもない。

「朝、メイク室にミラが入ってくると、キャストやスタッフひとりひとりに必ず声をかけてくれるんです。『おはよう、紘菜。元気? 調子はどう?』といった感じで。撮影の待機時間にみんなでちょっとしたゲームをしたり、娘さんの話を聞いたり、些細な会話から距離を縮めてくださいました。セットに入ると、ミラが既に走ったり鍛えたりしていて、そこから夜のナイトシュートに向けてメイクに入っていくんです。一番疲れているはずなのに、それでも誰よりも自分を追い込む姿には、すごく刺激を受けました」

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また、食事情も日本とは大きな違いがあったようで、「お弁当という文化が当然ながら向こうにはないので、ご飯は目の前で作ってくださるんです。注文を受けてから、卵の焼き方まで細かく聞いてくれる。ヴィ―ガンの方がいたりもするので、ひとつひとつ凄く丁寧に調理してくれました」と振り返る。そしてだからこそ、「日本のお弁当のクオリティって凄いんだなって改めて気づかされました。覚めても美味しいって、本当に素晴らしいこと。私はなんでも食べる雑食タイプなので、困ることは全くなかったですね」と日本の現場を支える弁当にも感謝の念をにじませる。

出演シーンの長さ云々ではなく、ハリウッドの一流のスタッフが集った現場を経験したということが、山崎の今後に大きな意味がある。それは、本人も充分すぎるほどに理解している様子だ。

「お芝居をすることに、言語や場所は関係ないと知りました。今作のアンダーソン監督は、カットがかかるたびに私たちのもとへ来てくれて、『ラブリー! ファンタスティック! グレイト!』って声をかけてくださって、テンションをあげてくれました。すごく愛情を感じる現場でした。ハンドラーを演じるうえで色々な挑戦はもちろんあったんですが、新たに何か芽生えたとしたら、やっぱり作品にもっと貢献したい、国内だけにとどまらず色んな場所の現場を経験したいという思いでしょうか」

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山崎は、11年に開催された第7回「東宝シンデレラ」オーディションで審査員特別賞を受賞し、芸能界デビューを果たす。この年はグランプリを獲得した上白石萌歌をはじめ、実姉の上白石萌音、テレビや映画に引っ張りだこの浜辺美波らがおり、豊作といわれている。あれから、10年が経過したことになる。

「気づいたら10年も経っていたって感じです。このお仕事をしていると、年単位ではなく作品が節目になっているかもしれません。10年続けられたけれど、それは本当に色んな人たちの支えがあったからこそ。これからも驕ることなく、『走り続けて気づいたら何十年も経っていました!』と言えるような女優さんでいたいなと思っています」

淀みなく、それでいて自分の言葉として真摯な面持ちで話す山崎が、「どうですか、ちょっとは成長できていますか?」と笑って語り掛けてきたため、筆者は苦笑いを禁じ得なかった。10代の頃から定期的に取材をしてきただけに、その成長ぶりには目をみはるものがある。決して器用なタイプではないはずだが、自分なりに地ならしをしながら着実に歩みを進めてきたことが見て取れる。

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「作品に入ると、常に自分にこの役が本当にやり遂げられるのだろうか? という不安はあるのですが、昔よりは自分を信じられるようになった気がしています。以前は経験もなかったから、不安で心細くて、一歩踏み出すこと、新たなチャレンジに怖気づいていた部分がありました。でも、今は『ダメだったら仕方ないや』と良い意味で割り切れるようになった。それは、自分を信じてあげられるようになったといいうことなのかな…と。昔から、自分はいいから誰かのためにという思いが強かったんですが、ある方から『自分に愛情をかけられない人は誰かに愛情をかけられないよ』と言われて腑に落ちました。自分をないがしろにしたらダメだって思って、自分を大切にできるようになった。それが新しいチャレンジとか、自分が目指すべき場所へ行こうとする原動力にもなる。良い意味で割り切れた気がするんです」。

山崎は13年に東京国際映画祭のフェスティバル・ナビゲーターを務めたが、その際に「いつかは出演作品で参加したい」と発言していたが、19年の第32回となる同映画祭で大林宣彦監督の遺作となった「Labyrinth of Cinema=海辺の映画館 キネマの玉手箱」の一員として、レッドカーペットを歩いた。大林組への感謝の気持ちは、筆舌に尽くしがたい。

「初めて台本に名前を載せていただいたのも大林監督の作品ですし、初めてセリフをいただいたのも大林監督の作品。私の女優としてのスタート、17歳からの私の全てを見守ってくださった。大林組は家族のような存在ですし、大林監督が撮った女優という事実に恥じないような女優にならなければいけないと常に思っています。辛いとき、苦しいとき……、監督がかけてくれた言葉を思い出すと、もう一歩頑張れる。だから、ハリウッドの現場でも『大丈夫、私は日本の凄い監督たちとご一緒してきたんだから、出来る!』と言い聞かせていましたし、いつも挑戦する勇気をもらっていました」

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コロナ禍にあって、21年も難しい1年になることは間違いないなかで、山崎は「私は歩みは止めたくないんです。『無駄に動かない方がいい』という意見をお持ちの方がいらっしゃるのも理解できます。ただ、私は私なりに心地よい場所を見つけるというか、少しでもいいからみんなが安らげる場所を探しに行きたい」ときっぱりと語り、満面の笑みを浮かべる。

その笑みには、豊作といわれ大志を抱いて華々しいスタートを切った「東宝シンデレラ」の“同期”たちへの偽らざる思いが秘められていた。

「それぞれの歩幅とスピードというものがありますから、実はあまり意識はしていないんです。ただ、豊作と言われた世代ではありますが、その中でも志半ばにして夢を諦めなくてはいけなくなった子たちがたくさんいます。いま活躍している子たちは一生懸命に道を切り開いていますが、私は10年間続けることができなかった人たちの思いというのを忘れたくないなと思っているんです」

自分をいたわることの大切さに気づいた山崎は、だがやはり他者を思いやる気持ちの優しさを損なっていなかった。この優しさは、今後の山崎にとって最大の武器となるはずだ。

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