「彼らの会話にしっかり耳を傾けて欲しい」 マルコムX役俳優が語る「あの夜、マイアミで」
2021年1月22日 09:00
「ビール・ストリートの恋人たち」で第91回アカデミー賞助演女優賞に輝き、大人気テレビシリーズ「ウォッチメン」では主演を務めたレジーナ・キング。彼女が初めて監督業に挑戦した映画「あの夜、マイアミで」が、Amazon Prime Videoでの配信をスタートさせた。同作でマルコムXを演じる期待の黒人俳優キングズリー・ベン=アディルが、このほど単独インタビューに応じてくれた。(取材・文/細木信宏 Nobuhiro Hosoki)
1964年2月25日、プロボクサーのカシアス・クレイ(後のモハメド・アリ)がソニー・リストンを破り、ヘビー級世界王者に君臨した。そんな彼を祝うために、黒人活動家のマルコムX、アメリカン・フットボール選手のジム・ブラウン、歌手のサム・クックらが、マイアミのハンプトン・ハウス・モーテルに集結。会話の内容が黒人公民権運動に及んだことで、彼らは「自分たちは差別に苦しむ同胞たちに何ができるのか、また、何をすべきなのか」という問題に向き合い、激論を交わしていく。原作は、ディズニー&ピクサーの新作「ソウルフル・ワールド」の共同監督・脚本を務めたケンプ・パワーズによる同名舞台劇だ。
本作に登場するマルコムXは、スパイク・リー監督作「マルコムX」(主演:デンゼル・ワシントン)とは異なる描き方がなされている。たった一晩のマルコムXを演じるうえで、アディルはどのようなリサーチを行ったのだろうか。
アディル「まずは可能な限り、マルコムXについて記された書物を読み、それからYouTubeのビデオ映像、ドキュメンタリーも鑑賞して、彼が当時出演していたラジオも聴いた。そこから、まずは1964年初期、マルコムXが周囲で起きていることに対して、どのような対応をとっていたのかとらえようとしたんだ」
アディル「当時、彼は精神的にも支えられていたネーション・オブ・イスラム(アメリカにおけるアフリカ系アメリカ人のイスラム運動組織。伝統的なイスラム教の教義を否定している)との12年にもわたる関係を終えようとしていた。彼の師であったイライジャ・ムハンマドを(真のイスラムではないと)非難したことで、宗教的にも、政治的にも、大きなシフトチェンジをしなければいけなかった。彼の人生は、まさに“危険な状態”になりそうだった。(暗殺未遂事件もあった)マルコムXの利害関係を理解することで、この映画の核心を感情的にもつかめると思ったんだ」
本作の見どころのひとつは、初監督となったキングの演出にある。「彼女は、自身が一流の女優であることから、俳優がゾーン(役柄に入り込んだ)状態にいること、またはずっとゾーン状態でいることの必要性をしっかりと理解していた。さらに、アクションとカットの間の使い方、感情的に必要なベストパフォーマンスの引き出し方を誰よりも心得ているんだ」と振り返る。
アディル「彼女が我々の背中を押し、真の演技へ導いてくれたやり方は、僕がこれまでカメラの前で演技してきた経験のなかでも、最も特別な経験になった。彼女は自分が女優として持っている多くの情報を我々に与えすぎたり、多くの情報で我々を責めたりすることもなかった。だから、彼女が我々の背中を少し押すだけだったり、我々に(アドバイスのような情報を)少し与えるだけで、自分たちの演技の方向性が変わる瞬間がたくさんあった。おそらく感情があふれるシーンの大半は、レジーナがセットで作り上げた環境やエネルギーのおかげだったと思う」
劇中では、当時の黒人としての社会的な義務を問いかけている。4人のキャラクター、そして、アディル自身も公人だが、「黒人としての社会的な義務」については、どういう思いを抱いているのだろう。
アディル「正直、僕自身は今も公人であるという概念を受け入れていく過程にある。僕の一部には全く公人と関わり合いがない部分もあるんだ。それに僕の人生においては、プライベートの関係のほとんどが、学生時代の友人だ。今も彼らと変わらない近所付き合いをしているよ。だからこそ、今作の4人のキャラクターのように、公人としての自分を考えるのは難しい。だが『黒人としての社会的な義務』という観点からは、自分の役柄の人間的な部分を常に見出し、それを確認しながら演じる――これが僕の仕事だ。今作で演じたマルコムXを通じて、人々が今の自分の気持ちを反映して見ることができれば良いと思っている」
本作のマルコムXは、最初は控えめで落ち着いた振る舞いをしているのだが、次第にサム・クックと激しい議論を交わすことに。この重要なシーンを、サム・クック役のレスリー・オドム・Jr.と共にどう作り上げたのだろう。アディルは、まず「実は、このシーンを演じるために、今作で初めて、ある感情的な準備を事前に試みたんだ」と明かす。
その準備とは「レジーナ監督が『アクション!』と声をかける前に、マントラ(祈りや瞑想などで唱えられる聖なる言葉)を繰り返し発する」というもの。「これが、とても役に立った。どのように感情をシーンにぶつけるかを確認しつつ、マントラを発している段階で、自分の気持ちを組み込んでいく。あとは監督が『アクション!』と声をかけた時に、その感情をリリースするだけだった。もしも誰かがこの手法を10年前に教えてくれていたら、俳優としての全てが変わっていたかもしれない(笑)」と語っていた。
2020年、アメリカでは、BLM(ブラック・ライブズ・マター)運動によって人種差別への反発が高まった。本作には、現代でも続く人種差別に関して、どのようなメッセージが込められているのか。
「僕らがこの映画を撮影したのは、(新型コロナウイルスによる)パンデミックが始まり、ジョージ・フロイドが亡くなってBLMが起きる前のことだった。僕自身はBLMが起きたことで、この映画で語られる会話の利害関係をより理解でき、関わりを持つことができるようになった。それに、人種差別を黒人としてだけでなく、人として理解できるようにもなった。この人種差別の問題は、今年、あるいは去年、さらにいえばケンプ・パワーズが作品を執筆した7年前でも、ずっとタイムリーなままなんだ。だからこそ、この映画に登場する4人のキャラクターの会話が(人々にとっては)重要で、彼らの会話にしっかり耳を傾けて欲しい」
フォトギャラリー
Amazonで関連商品を見る
関連ニュース
映画.com注目特集をチェック
コンコルディア Concordia NEW
“20年間、犯罪が起きていない町”で殺人事件が起きた――熱烈にオススメしたい社会派AIサスペンス
提供:hulu
十一人の賊軍
【本音レビュー】嘘があふれる世界で、本作はただリアルを突きつける。偽物はいらない。本物を観ろ。
提供:東映
知らないと損!映画料金が500円になる“裏ワザ”
【仰天】「2000円は高い」という、あなただけに教えます…期間限定の最強キャンペーンに急いで!
提供:KDDI
グラディエーターII 英雄を呼ぶ声
【人生最高の映画は?】彼らは即答する、「グラディエーター」だと…最新作に「今年ベスト」究極の絶賛
提供:東和ピクチャーズ
ヴェノム ザ・ラストダンス
【最悪の最後、じゃなかった】最高の最終章だった…エグいくらい泣いた感動体験、必見!
提供:ソニー・ピクチャーズエンタテインメント
レッド・ワン
見たことも聞いたこともない物語! 私たちの「コレ観たかった」全部入り“新傑作”誕生か!?
提供:ワーナー・ブラザース映画
八犬伝
【90%の観客が「想像超えた面白さ」と回答】「ゴジラ-1.0」監督も心酔した“前代未聞”の渾身作
提供:キノフィルムズ
関連コンテンツをチェック
シネマ映画.comで今すぐ見る
ギリシャ・クレタ島のリゾート地を舞台に、10代の少女たちの友情や恋愛やセックスが絡み合う夏休みをいきいきと描いた青春ドラマ。 タラ、スカイ、エムの親友3人組は卒業旅行の締めくくりとして、パーティが盛んなクレタ島のリゾート地マリアへやって来る。3人の中で自分だけがバージンのタラはこの地で初体験を果たすべく焦りを募らせるが、スカイとエムはお節介な混乱を招いてばかり。バーやナイトクラブが立ち並ぶ雑踏を、酒に酔ってひとりさまようタラ。やがて彼女はホテルの隣室の青年たちと出会い、思い出に残る夏の日々への期待を抱くが……。 主人公タラ役に、ドラマ「ヴァンパイア・アカデミー」のミア・マッケンナ=ブルース。「SCRAPPER スクラッパー」などの作品で撮影監督として活躍してきたモリー・マニング・ウォーカーが長編初監督・脚本を手がけ、2023年・第76回カンヌ国際映画祭「ある視点」部門グランプリをはじめ世界各地の映画祭で高く評価された。
「苦役列車」「まなみ100%」の脚本や「れいこいるか」などの監督作で知られるいまおかしんじ監督が、突然体が入れ替わってしまった男女を主人公に、セックスもジェンダーも超えた恋の形をユーモラスにつづった奇想天外なラブストーリー。 39歳の小説家・辺見たかしと24歳の美容師・横澤サトミは、街で衝突して一緒に階段から転げ落ちたことをきっかけに、体が入れ替わってしまう。お互いになりきってそれぞれの生活を送り始める2人だったが、たかしの妻・由莉奈には別の男の影があり、レズビアンのサトミは同棲中の真紀から男の恋人ができたことを理由に別れを告げられる。たかしとサトミはお互いの人生を好転させるため、周囲の人々を巻き込みながら奮闘を続けるが……。 小説家たかしを小出恵介、たかしと体が入れ替わってしまう美容師サトミをグラビアアイドルの風吹ケイ、たかしの妻・由莉奈を新藤まなみ、たかしとサトミを見守るゲイのバー店主を田中幸太朗が演じた。
文豪・谷崎潤一郎が同性愛や不倫に溺れる男女の破滅的な情愛を赤裸々につづった長編小説「卍」を、現代に舞台を置き換えて登場人物の性別を逆にするなど大胆なアレンジを加えて映画化。 画家になる夢を諦めきれず、サラリーマンを辞めて美術学校に通う園田。家庭では弁護士の妻・弥生が生計を支えていた。そんな中、園田は学校で見かけた美しい青年・光を目で追うようになり、デッサンのモデルとして自宅に招く。園田と光は自然に体を重ね、その後も逢瀬を繰り返していく。弥生からの誘いを断って光との情事に溺れる園田だったが、光には香織という婚約者がいることが発覚し……。 「クロガラス0」の中﨑絵梨奈が弥生役を体当たりで演じ、「ヘタな二人の恋の話」の鈴木志遠、「モダンかアナーキー」の門間航が共演。監督・脚本は「家政夫のミタゾノ」「孤独のグルメ」などテレビドラマの演出を中心に手がけてきた宝来忠昭。
奔放な美少女に翻弄される男の姿をつづった谷崎潤一郎の長編小説「痴人の愛」を、現代に舞台を置き換えて主人公ふたりの性別を逆転させるなど大胆なアレンジを加えて映画化。 教師のなおみは、捨て猫のように道端に座り込んでいた青年ゆずるを放っておくことができず、広い家に引っ越して一緒に暮らし始める。ゆずるとの間に体の関係はなく、なおみは彼の成長を見守るだけのはずだった。しかし、ゆずるの自由奔放な行動に振り回されるうちに、その蠱惑的な魅力の虜になっていき……。 2022年の映画「鍵」でも谷崎作品のヒロインを務めた桝田幸希が主人公なおみ、「ロストサマー」「ブルーイマジン」の林裕太がゆずるを演じ、「青春ジャック 止められるか、俺たちを2」の碧木愛莉、「きのう生まれたわけじゃない」の守屋文雄が共演。「家政夫のミタゾノ」などテレビドラマの演出を中心に手がけてきた宝来忠昭が監督・脚本を担当。
死刑囚の告発をもとに、雑誌ジャーナリストが未解決の殺人事件を暴いていく過程をつづったベストセラーノンフィクション「凶悪 ある死刑囚の告発」(新潮45編集部編)を映画化。取材のため東京拘置所でヤクザの死刑囚・須藤と面会した雑誌ジャーナリストの藤井は、須藤が死刑判決を受けた事件のほかに、3つの殺人に関与しており、そのすべてに「先生」と呼ばれる首謀者がいるという告白を受ける。須藤は「先生」がのうのうと生きていることが許せず、藤井に「先生」の存在を記事にして世に暴くよう依頼。藤井が調査を進めると、やがて恐るべき凶悪事件の真相が明らかになっていく。ジャーナリストとしての使命感と狂気の間で揺れ動く藤井役を山田孝之、死刑囚・須藤をピエール瀧が演じ、「先生」役でリリー・フランキーが初の悪役に挑む。故・若松孝二監督に師事した白石和彌がメガホンをとった。
内容のあまりの過激さに世界各国で上映の際に多くのシーンがカット、ないしは上映そのものが禁止されるなど物議をかもしたセルビア製ゴアスリラー。元ポルノ男優のミロシュは、怪しげな大作ポルノ映画への出演を依頼され、高額なギャラにひかれて話を引き受ける。ある豪邸につれていかれ、そこに現れたビクミルと名乗る謎の男から「大金持ちのクライアントの嗜好を満たす芸術的なポルノ映画が撮りたい」と諭されたミロシュは、具体的な内容の説明も聞かぬうちに契約書にサインしてしまうが……。日本では2012年にノーカット版で劇場公開。2022年には4Kデジタルリマスター化&無修正の「4Kリマスター完全版」で公開。※本作品はHD画質での配信となります。予め、ご了承くださいませ。