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林海象監督&佐野史郎 ふたりを繋いだ「夢みるように眠りたい」から最新作「BOLT」まで34年の軌跡

2020年12月12日 12:00

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林海象監督(右)と佐野史郎
林海象監督(右)と佐野史郎

「私立探偵濱マイク」シリーズなどで知られる林海象監督7年ぶりの最新作「BOLT」が公開された。来週18日からは、1986年に劇場公開された「夢みるように眠りたい」デジタルリマスター版の公開が控えている。「夢みるように眠りたい」は、昭和30年代頃の浅草を舞台にした探偵物語。当時27歳、無名だった林監督が、モノクロ・サイレントの手法を用いて撮り上げた長編初監督作、佐野史郎にとっても映画初出演にして主演作という、ふたりにとって思い入れの深い作品である。佐野も出演し、原子力発電所内で働く男たちなどを描いた意欲作「BOLT」、そして34年ぶりに劇場公開されるふたりのデビュー作について話を聞いた。

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――「夢みるように眠りたい」が、おふたりの映画人としてのスタート地点だったといっても過言ではありません。監督と主演俳優として、どのような状況で出会われたのですか?
林 映画の方向性が決まったときに、主演の探偵を演じてくれる人が必要だったのです。コネもなかったのですが、あがた森魚さんのお手伝いをやっていたので、遠藤賢司さんの渋谷エッグマンでのライブに連れて行ってもらい、そこでギターを弾いてらっしゃった佐野さんに出会いました。ものすごく昭和なお顔といでたちだったので、もう、この人がいいなと。
佐野 僕は状況劇場をやめた直後で、バンドを始めて嶋田久作とステージに立っていた頃ですね。役者を辞めようとは思ってはいませんでしたが、唐さんから舞台での演技について「お前みたいな芝居をしていたら映像の演技なんてできないぞ」と厳しく言われたんです。で、古い日本映画を観まくって。同時に、がなりまくる(演劇の)世界よりも、音楽の方が、アコースティックギターの素直な音のほうがよっぽどリアルだな、と思った時期でした。ライブの打ち上げで林監督から映画の企画を聞いて、脚本をいただいて読んだらもう大好きな世界観だったんです。サイレント、モノクロ、乱歩の世界、そして音楽の静寂さが渾然一体となって自分の求めているものに、遠藤賢司さんはじめ、音楽の仲間たちと共に導かれていったという感じ。唐さんから言われた映像の演技を模索しようとしていた時の、奇跡のような出会いのシナリオでした。
――林監督は「夢みる~」での佐野さんにどのような演技を望まれたのでしょうか?
林 演出する余裕もなかったですから、ほとんどおまかせでした。協力してもらってるわけだし、やめられたら困るし(笑)。初めての映画で、そもそも演出の仕方がわからないので、2歩歩いたらこっちを見て、なんて言うことが多かったですかね。心情よりも、立ってて欲しいとか、そういうシンプルなことを佐野さんが受け入れてくれたのがよかった。今となってみると、ただ「立ってて」と言うと、物みたいで嫌だと感じる俳優さんもいると思うんです。でも佐野さんは「どういう気持ちで立てばいいんですか?」なんて聞かずに、それがこの映画の演技であると、理解してくださったんです。
佐野 こっちも必死で。公開されるかどうかもわからないでいましたけれど、その日のワンカットワンカットを撮るのを楽しみながら、探り続けている時間でしたね。
林 フィルムで撮っていましたし、お金もないから、ワンカットワンテイクしかできなかったんです。ただ一度だけ、花やしきの場面で佐野さんが「ごめん、もう一回だけやりたいんだけど」って。なんでかなあ? と疑問に思いながらもう一回やってもらったんだけど、僕にとっては変わらなくて(笑)。
佐野 花やしきで音楽が聞こえてきて、耳を澄ます、という場面。いいシーンだし、物語が展開していく重要なカットなので、ちょっと自分が情緒的になりすぎてしまって。それがなんだか許せなくて。でも、確かに変わってなかったですね(笑)。
林 いい思い出でしたね。2回目のカットを使いましたよ。
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――当時映画製作の経験がなかった林監督は、どのような過程で映画を作り上げることができたのでしょうか。当時無名監督の作品といえども、「夢みる~」にかかわった俳優、スタッフ陣はベテランぞろいです。
林 なにしろ初めてでしたからね、どうやったら映画監督になれるのか……というところからでした。でも、考えていてもなれないですよね。もちろん、映画を作れば映画監督になれる、ではどんな映画を作ればいいのかと。構想というか、妄想をしていましたね。それでシナリオを書いてなんとかこれを撮ろうと。妄想の時間が長かったですが、ストーリーを思いついてから撮影までは1年くらいですね。

監督の自分が無名ですから、他も無名だったら誰が見るんだ、っていうことになるじゃないですか。自分は素人だから、プロと組めばいいと考えました。それで、あがたさんなど、人づてにいろいろお願いしていったら、意外と皆さんやってくださって。製作費は親から借りました。今でいうサラ金みたいのがあれば借りてたのかもしれないけど……。銀行の審査なんて通るわけないし。もう親には返しましたけどね。

――映像表現へのこだわりもこのデビュー作から感じられます。
林 今もずっと一緒にやっているカメラマンの長田勇市さんのおかげです。「夢みる~」の頃なんて、ほとんど長田さんまかせ。当時は今みたいにモニターもないから、確認しようがないんです。撮れてるな、という感じしか。だからあれは長田さんの映像美学なんです。
佐野 長田さんと林監督は、「濱マイク」シリーズ、「彌勒 MIROKU」とずっと組んでいますが、今回の「BOLT」が一番「夢みる~」に近い現場に感じられました。なんか最初にご一緒したときと同じ空気が流れていて懐かしかったです。
――そして、初監督作がベネチア映画祭で上映されるなど、海外でも高い評価を受けましたね。
林 カツカツでやってましたけど、自分の大好きな映画ができたなと、思いました。その後映画館で見せることに苦労しましたが、幸いシネセゾンさんで公開でき、海外配給に川喜多和子さんがついてくださったので、幸運でした。初めての海外旅行がベネチア映画祭になりましたし、スペインの映画祭ではグランプリを頂いて、うれしかったですね。
佐野 僕も結婚してすぐだったので、新婚旅行も兼ねて初めての海外旅行でしたね。ベネチアの日曜日16時からの回、メイン会場で終わってオールスタンディングオベイション、拍手がもう鳴り止まずでね。ああ、すごいことになっちゃったな……と。
林 すごい事件だったんだけど、当時はSNSもないし全然報道されなった。だけど、(事実は)心の中にありますから。もう一度行きたいですね。
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――今回、デジタル修復版をご覧になっての感想をお聞かせください。
林 すごくよかったです。フィルムも味があっていいのですが、やっぱり劣化しますから。今回デジタル修復できて、永遠に残せるバージョンになった。昔の映画を見てもらう、ということではなく、今作った映画という気持ちで見て欲しいです。そもそも昔の時代を描いているので、あまり古さを感じないと思います。逆に新しいと感じられるのでは。もはやSFですよね。
佐野 あれだけのロケーションは、もう今ではどれだけお金を積んでも再現は無理ですからね。CGでやるのは不可能ではないかもしれないけど、あれ、実写ですからね。
林 クラウドファンディングで修復できましたから、儲けを考えるのではなく、たくさんの人に見て欲しい。例えば中学校で見せたり、活弁と一緒に見せたりして、どんな反応があるかなんてやってみたいですね。我々ふたりがこうやってずっと映画にかかわることができ、再上映されると話題になったりしますし、非常に感謝している作品です。
――最新作「BOLT」は7年ぶりの新作です。原発事故を扱ったことも発表までに時間がかかった理由の一つなのでしょうか?
林 「BOLT」は震災の直後に京都で見た写真展で聞いた話がもとになっていて、ずっと頭の中にはあったんですけど、大きなセットを作るのが難しいので、一度構想が頭の中から消えたんです。その後、ちょうどヤノベケンジさんが高松市美術館で展覧会をやるので、そこにセットを組んで撮らないかと。そうやって連結していったんです。

そして、「BOLT」「Good Year」「LIFE」と3話構成なので、1本ずつ撮っても3年掛かります。京都造形芸術大学の学生と共に作り上げていくシリーズで、仕上げに時間がかかったんです。僕はその間に、テレビ2本、芝居も2本やっているので、自分の中で作品を作っていなかったという認識はないんですよね。

――学生にはどんな指導をされるのですか?
林 「まず作ろう、失敗していいんだよ。映画って楽しいんだよ」ということを徹底的に教えます。つらかったら作らないですからね。あと、型(かた)はないけど、形(かたち)は勉強した方がいい。だから面白い映画を見たほうがいいってね。
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――「BOLT」では、防護服の衣装での演技が印象的でした。
佐野 苦しかったですよ。閉所恐怖症ではないから、そこは平気だったのですが、息苦しかったですね。ああ見えて、結構動いているんです。床にそれこそボルトが出ていて、踏むと痛かったり、そういう身体的ストレスがリアルに出ているかもしれません。でも撮影は楽しかったですよ。
――コロナ禍が、今後の作品に影響を与えることがあると思いますか? また、配信サービスで映画を見ることについてのお考えをお聞かせください。
林 面白いなと思うのは、世界中がもれなくマスクをしているのがSF映画みたいだなと。こんな瞬間は今まで一度も経験していないからね。それがどのような物語になるのかはわからないけど、誰かがそういう映画を誰かがきっと撮りますよ。あとは、未来の映画の過去のフラッシュバックで「あの頃は、全員マスクしてたね」って使われるだろうね。そういう強いインパクトがある。

配信サービスはめちゃめちゃ見てます。僕はドラマも作ってますし、こだわりはないんです。もちろん大きなスクリーンと大音量が好きなので、今回の2作品はもちろん映画館で見て欲しいです。今は仕方ありませんが、映画って人が集ってみた方が面白いと思うんです。ひとりで夜中に配信で映画見ていると、寂しい気持ちになることもありますよね。配信のいいことはわざわざ映画館に見に行かないような映画もたくさん見られること。そういう映画も見ておく必要がありますからね。

佐野 名画座の特集上映じゃなきゃ見られなかったような古い作品も最近は数多くラインナップされてますよね。そうした映画を若い世代も見ますしね。
林 そう、架け橋になりますよね。それはとてもいいこと。ある意味、映画の貸し本屋。DVDレンタルよりも気楽な、ちょい見の貸し本屋ですね。駄菓子屋みたいにちょっと食べてまずければやめればいいし、面白かったら続ければいい。最近のアメリカ映画がつまらないなと思っても、もっと昔の白黒映画に面白さを感じたりね。
佐野 僕も春の緊急事態宣言から、クラシックホラー、東宝の特撮や円谷プロの作品を見続けているんですが、アメリカンクラシックホラーも見ても、僕は日本の古い特撮作品の方が面白く感じましたね。例えば同じ「透明人間」というタイトルでも。
林 昨日も夜寝る前に、iPadで映画を見ながら「おい、子供の頃に想像できたか、今、映画がいつでも見られるんだぜ。夢のような世界だな」って思って。映画が何千本も常に自分の近くにある、それは幸せなことですよ。

BOLT」は、テアトル新宿ほかで公開中、「夢みるように眠りたい」は、12月19日からユーロスペースほか全国順次公開。

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