【「Mank マンク」評論】鬼才フィンチャー長年の企画が、歴史的傑作の功績者をあぶりだす
2020年11月22日 22:00

「ゴーンガール」(14)以来6年ぶりとなる監督デヴィッド・フィンチャーの新作は、自身のフィルモグラフィ初のオンライン動画サービスを主発信とする長編であり、そして初のモノクロなど特色づくしだ。加えて実在人をベースとする久々の伝記として、1941年の映画「市民ケーン」に対する創造の疑問、すなわち「誰がこの名作を生み出しだのか?」にひとつの回答を提示する。
本作はそんな歴史的傑作の脚本を手がけた“マンク”ことハーマン・J・マンキウィッツ(ゲイリー・オールドマン)を主人公に、その執筆過程を描いたものだ。作家性という観点から「市民ケーン」は、主に監督・主演を務めたオーソン・ウェルズの功績と認識されている。だがマンクがクレジットの権利を契約上破棄したことから、真の貢献者を問う議論をたびたび起こしてきた。
「Mank マンク」はこの「市民ケーン」問題に主眼を寄せ、マンキウィッツと表題キャラのモデルとなったメディア王ウィリアム・R・ハーストとの接触や、彼を取り巻く30~40年代ハリウッドのスタジオ勢力、ならびに政治的な動向に推論を行き渡らせ、マンクの同作への開発動機をあぶりだす。こうした作りが結果として、観る者の興味を引くのに充分な、才能豊かだが一筋縄でない脚本家の半生をあらわにしていく。
先進的な作り手であるフィンチャーにしてはネタが古風だが、もともと「Mank マンク」の脚本は自身の父親の遺稿で、長いこと映画化が塩漬けにされてきた。そんな経緯を踏まえれば、作品は一見、肉親への義理を果たした感が強い。だが自作「ソーシャル・ネットワーク」(11)では、他者と繋がろうとすればするほど孤独に陥るマーク・ザッカーバーグ(Facebook創設者)の顛末を「現代の『市民ケーン』」と評され、フィンチャー自身も監督デビュー作「エイリアン3」(92)でスタジオの意向や妨害に翻弄された身であって、決して他人事ではない題材といえよう。
なによりフィンチャーらしいのは、この映画の話法ならびに視覚への執拗なこだわりだ。それは過去と現在を行き来する非クロノジカルな構成や、名撮影監督グレッグ・トーランドの手法を模したディープフォーカスや主光源の射し込むライティングなど、「市民ケーン」に目配せしたアプローチに顕著だろう。ハリウッド黄金期のスタジオ集権体質をも冷笑する作品が、新時代のメディア覇王Netflixから配信されるというのもシャレが効き過ぎていて可笑しい。
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