実写版「ムーラン」監督、1000人から選ばれたヒロインに課した過酷なオーディションを明かす

2020年9月6日 12:00


ニキ・カーロ監督と主演のリウ・イーフェイ
ニキ・カーロ監督と主演のリウ・イーフェイ

[映画.com ニュース] アニメ版「ムーラン」といえば、「リトル・マーメイド」で復活を遂げたウォルト・ディズニー・アニメーション・スタジオが製作した一連のミュージカルアニメ映画のひとつだ。中東(「アラジン」)やアフリカ(「ライオン・キング」)、フランス(「ノートルダムの鐘」)、ギリシャ(「ヘラクレス」)など、主に外国に伝わる物語にインスピレーションを求めた同社は、中国の伝説「花木蘭」をモデルにした「ムーラン」を1998年に発表。アジアが舞台の物語がディズニーアニメとして世界公開されたことは快挙だったものの、描写やストーリー展開、配役にはハリウッドのステレオタイプが反映されていた。

それからわずか10数年のあいだに、外国文化に対するハリウッドのアプローチは大きく改善された。その最先端にいるのがディズニーであり、2019年に公開された実写版「アラジン」を見ても分かるように、作品の題材となる文化に最大限の敬意を払っている。

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その路線は中国を舞台にした実写版「ムーラン」にもきちんと引き継がれているが、むしろこの作品におけるディズニーの最大の快挙は、「クジラの島の少女」(2002)のニキ・カーロ監督に映像化を託したことだろう。かくして、ヒロインの成長を丁寧に描きつつも、ダイナミックなアクション大作が仕上がった。

映画.comは、新型コロナウイルスの感染が拡大する前に、ニキ・カーロ監督と主演のリウ・イーフェイに取材を敢行。数回の公開延期を経て、ついにディズニー+での配信が決まったいま、インタビューをお届けする。(取材・文/小西未来

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――まずは、ニキ・カーロ監督におうかがいします。ニュージーランド出身のあなたにとって、中国の物語を描くことに抵抗はありませんでしたか?

カーロ 「クジラの島の少女」のときから、私は自分の文化圏の外にある題材を扱ってきました。そうした作品を手がけていくうちに、その文化特有のものとして優先して描かなければいけないことを見いだす術を身に付けました。それさえ外さなければ、本質を描きつつも、世界中の誰にでも伝わるユニバーサルな作品にできる。「ムーラン」の場合は、まずは本国に行って、あの偉大な国をはじめて体験しました。その後は、プリプロダクションから撮影、ポストプロダクションに至るまで、各部門が常にリサーチをして、可能な限り具体的で正しい描写をするように心がけました。

――今回の企画のどこにひかれたのですか?

カーロ 私の頭の中には、この物語の壮大なビジョンがありました。私がこの映画のプレゼンをしたとき、彼ら(ディズニー)も同様にそうしたビジョンの持ち主を待っていてくれたんだと思います。私にとっては、若い女性のリアルな変化を描くチャンスでした。父親の命を救うために戦争に身を投じ、広大な大陸を横断し、男たちの軍隊で男性として振る舞い、その後、女性として戦うようになる……。これだけでも、とてつもなく魅力的でダイナミックな物語で、壮大なスケール感があります。ですから、アニメ版「ムーラン」をそのままなぞるような映画にするつもりはありませんでした。アニメ版のDNAを尊重しつつ、まったく新しいものを作りたいと思っていました。

同時に、この物語を女性として描くことができる機会に興奮しました。男性監督のふりをするのではなくて。この映画を作るにあたり、私は女性としての力にコネクトしました。劇中でコン・リー演じるキャラクターが、ムーランに「女には男の軍隊を率いることなどできない」と言い放ちますが、実際には私はこのクルーを率いることができました。結果的に、女性主導の物語であり、壮大なスケールで、アドレナリンたっぷりのアクションでありながら、深みと感情にあふれていると思います。

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――イーフェイさんにお聞きします。中国で「ムーラン」はどのような存在なのでしょうか?

イーフェイ 中国ではみんながムーランを知っていますし、誇りに思っています。この機会を与えられたことが嬉しく、感謝しています。女優としての目標を聞かれると、いつも「自分に限界を設けないこと」と答えているんです。理解してくれない人もいますが、私はやると決めたら突き進むタイプです。「ムーラン」に出演する機会を得たことが、自分が正しい道を進んでいるんだと実感させてくれました。演技を愛していて、この仕事はぜったいに諦めたくないと思っていますから。ムーランも絶対に諦めない性格です。自分のなかを深く見つめ、最良の自分になる選択をする勇気がある点に共感しますね。

――どのようにして、ムーラン役を勝ち取ったのですか?

カーロ これは私が答えていい? 私たちが彼女をどれだけひどい目に遭わせたかきちんと説明したくて。

――お願いします(笑)。

カーロ ムーラン役に関しては、世界中で1年間をかけて探したんです。でも、中国全土でも見つからなかった。美しい女優さんはたくさんいましたが、私たちが探していたムーランではありませんでした。

――どのくらいの応募があったのですか?

カーロ 軽く1000人は超えていますね。公募していたので。とくに中国では村から村へと移動して、たくさんの女の子と会いました。田舎でまったく演技経験のない女性たちのなかからムーランを探し当てるという、ロマンチックなアイデアを持っていたので。「クジラの島の少女」のケイシャ(・キャッスル=ヒューズ)もそのように探しましたしね。ムーラン探しも、干し草の山のなかから針を見つけるような、大変な仕事になると覚悟していました。

その後、オーディションを再開し、イーフェイのスケジュールが空いたので、ロサンゼルスに呼んだんです。北京からの飛行時間は14時間で、おそらく世界でもっともきついフライトのひとつです。夜にロサンゼルスに到着して、彼女は時差ぼけのせいでその夜まったく眠れなかった。翌日のミーティングの予定は午後2時だったので、午前中に睡眠を取ることができるはずだったのですが、スタジオのトップに早くに呼び出されて、それもかなわなくなってしまいました。

私はオーディションではじめて彼女に会いました。リウは美しい英語を話すけれど、第1言語ではありません。それでも、彼女の演技に感心して、どこまでやれるのか見たくなったんです。それでどんどん課題を与えて、追い込んでいきました。5つのシーンをこなしてもらったのですが、あるシーンでは5ページものセリフがありましたね。でも、リウはとてつもなくタフで、どれでもドラマティックな演技をやってみせたんです。わたしはいつのまにか彼女の演出を楽しんでいました。結局、オーディションには2時間を費やしました。

その次に、もうひとつ重要なテストを課しました。パーソナルトレーナーと一緒にジムに行かせて、リウの体力の限界を試すために、90分間の過酷なトレーニングをさせて、私が求めている戦士を演じることができるかどうか試したんです。そして、彼女は見事にやってのけた。忘れないで欲しいのですが、彼女は時差ボケで一睡もしていない。でも、オーディションのあいだも、トレーニングのあいだも、「休憩させて」とも、「出来ない」とも言わなかった。しかも、頼んだことをこなすだけでなく、それ以上のものを提供してくれました。そしてその日の終わりには、『紳士、淑女のみなさま、彼女こそが私たちのムーランです!』となったわけです(笑)。

イーフェイ また、いい気分にさせてもらいました(笑)。

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――当時はどんな心境だったんですか?

イーフェイ 私は、この規模の大作映画で才能ある女性監督と仕事ができるなんて想像もできませんでした。だからもちろん緊張していましたし、同時に、この作品をやるべき理由を見つける必要がありました。大作だから、ディズニー映画だから、というだけでは理由になりません。台本を送ってもらって、丸1日かけて読み込みました。それから、オーディションのために準備を行い、ロサンゼルスに向かう飛行機のなかでもずっとメモを取っていました。そのうち、ムーランこそ自分自身だと確信するようになっていました。それで、オーディションでは自分のタフさと演技を披露しようと思えたんです。自分にできるのは、すべてを発揮して結果は気にしないことだけだという気持ちでアプローチしました。

――イーフェイさんは役者さん、カーロさんは監督さんですが、それぞれの職業を目指すきっかけとなった人はいますか?

イーフェイ 役者になるうえで、インスピレーションを与えてくれた人や役柄はたくさんあります。でも、もっとも尊敬している人は誰かと聞かれれば、コンスタンチン・スタニスラフスキー(ロシアの演出家で、スタニスラフスキー・システムと呼ばれる俳優の教育法を作り上げたことで知られる)です。すべての俳優は、彼が生涯をかけて作り上げたものに本当に感謝しなければならないと思います。

カーロ リウをアクションヒロインとして特別な存在にしているのは、こうしてドラマ演技に深いこだわりを持っているからです。大作映画でも、アクション映画でも、純粋な感情や真実へのこだわりを持っているのは、とても珍しいことだと思います。

――カーロ監督はいかがですか?

カーロ 映画を撮りたいと思うようになった10代の頃、ジェーン・カンピオン監督の作品に出会いました。それまでは、自分と似たような映画監督が存在するとは思いもよりませんでした。彼女は同じ国出身であるばかりか、自分と似た視点を持っていて、以来、私は彼女のもっとも忠実で献身的なファンであり続けています。

実はここ数日取材を受けていて、アジアの女性記者のみなさんが「ムーランに共感しました!」と何度となく仰ってくれて、とても感動しているんです。彼女たちはムーランに自己投影することができて、「ムーラン」が彼女たちにとってとても大事な作品となってくれた。自分と似ていて、自分と似たような見方をしている人が出ている映画だからこそ、彼女たちの心を揺さぶってくれたんじゃないかと思います。そんな作品を作ることができて、光栄に思います。

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