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A24「ディック・ロングはなぜ死んだのか?」監督 観客を爆笑&戦慄の渦に巻きこむ、尖った世界観を語る

2020年8月7日 09:00

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インタビューに応じたダニエル・シャイナート監督
インタビューに応じたダニエル・シャイナート監督
(C)2018 A24 Distribution,LLC. All rights reserved.

[映画.com ニュース] 「スイス・アーミー・マン」が世界中の映画祭で注目を浴びたダニエル・シャイナート監督と、気鋭の映画スタジオ・A24が再タッグを組んだ「ディック・ロングはなぜ死んだのか?」が、8月7日から公開となる。米アラバマの片田舎を舞台に、“ある事件”の顛末を描いたミステリー仕立てのダークコメディ。シャイナート監督に、唯一無二のユニークな物語を作り上げるインスピレーションの源、観客を爆笑と戦慄の渦に巻きこむ尖った世界観、またA24との仕事について話を聞いた。(取材・文/編集部)

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脚本家ビリー・チューが実際に起きた事件から着想を得て作り上げ、シャイナート監督が魅了された物語。ジーク(マイケル・アボット・Jr.)、アール(アンドレ・ハイランド)、ディック(シャイナート監督)の3人は、売れないバンド仲間で、練習と称してガレージに集まりバカ騒ぎをすることが日課だった。しかしある晩、あることが原因でディックが突然死んでしまう。殺人事件として警察の捜査が進むなか、唯一真相を知っているジークとアールは彼の死因をひた隠しにし、自分たちの痕跡を揉み消そうとする。誰もが知り合いの小さな田舎町で、驚くべき死の真相が徐々に明らかになっていく。

映画監督デビュー作「スイス・アーミー・マン」は、遭難して無人島に漂着した青年が、様々な機能を持つ死体を使って脱出を試みるという異色のサバイバル劇。そして「ディック・ロングはなぜ死んだのか?」では、閉鎖的であるがゆえ、時に独特の緊張感や圧迫感をはらむ田舎町を舞台に、ひた隠しにしてきた秘密が白日のもとにさらけ出された時に起こるドタバタぶりと悲哀を、ブラックユーモアたっぷりに描き出した。シャイナート監督は、クリエイディブ・デュオ「ダニエルズ」を組むダニエル・クワンとともに前作を作り上げたが、本作では単独でメガホンをとっている。両作品ともに、インパクト絶大の強烈な世界観が印象的だが、どのようなポイントで映画づくりのテーマやモチーフを選んでいるのだろうか。

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「ダニエル・クワンと脚本を書いている時は、とにかくお互いにアイデアを投げ合って、そこで自分たちが笑えるもの、最後まで残るものを脚本に取り入れていきます。自分が他のプロジェクトに取り組む時も同じで、頭の片隅に残るもの、実際に笑えるものを描くようにしています。僕自身も笑ってはいけないものに笑う、ということは多々あるんです(笑)。原因は家族の遺伝によるものだと思います。おばあちゃんのお葬式の時に、本来なら泣かないとダメなところを、なぜか家族で泣きながら笑っていたんですよ。周囲に『えっ』と驚かれたんですが、悲しむべき時に笑ってしまう、そういう感覚は家族から引き継いでいるんだと思います」

確かに、秘密を隠そうと様々な偽装工作に明け暮れ、逃げ出したいほどシリアスな状況に置かれているジークたちの必死な表情を見ていると、本人たちには申し訳ないが、気付くと笑いがこみあげてくる。しかし、ジークたちのお粗末な隠蔽に笑っていた観客は、タイトルにもある“ディック・ロングの死因”が明らかになった途端、恐怖に襲われる人もいるのではないだろうか。シャイナート監督は、「共感」というキーワードで、観客が体感する笑いと恐怖のバランスを解説する。

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「実際、素晴らしい映画というのは、どこか共感できる部分があると思うんです。『共感してください』とアピールしている映画は、どちらかというとつまらない。ですが彼らのような、普通であれば友達にならないような人たちに共感できるという要素が、この作品の面白い点だと思います」

遠く離れたアラバマが舞台であり、およそ共感できないようなおぞましい秘密を抱えた男たちの中に、なぜか自分自身を見て震えてしまうのは、「秘密」というテーマの持つ普遍性にある。

「彼らのような大きいものではなくても、誰でも秘密を持っていて、観客はこの作品を見て『他人には絶対に言いたくない秘密』を思い出すと思うんですね。僕自身もこの脚本を読んだ時にそう感じたし、一種のホラーのような雰囲気で作ろうと思いました。秘密を持つことが、いかに家族や周囲の人間、そして社会に影響を与えていくのか。社会全体がいかに嘘で作られているか。そういう切り口について、ビリーと話したのを覚えています」

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シャイナート監督は、「スイス・アーミー・マン」を撮り終える前からA24に脚本を持ちこんでいたという。アカデミー賞を賑わせた「ムーンライト」「レディ・バード」のような良作から、「ミッドサマー」「WAVES ウェイブス」など個性的な話題作を幅広く送り出すA24についても語ってくれた。

「A24は僕を支えてくれていて、楽しくやっています。常にクレイジーな作品をサポートしてくれて、脚本も気に入ってくれたので、制作・配給がA24に決まりました。A24が扱っている他の作品と一緒に僕の作品も並んでいる光景が、美術館やアートギャラリーのように感じられる楽しみもあります」

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日本での公開が決定すると、アンテナの高い映画ファンたちが発見し騒然としたのは、海外版のポスター。ディックが命を落とすことになる夜、羽目を外してバカ騒ぎに興じ、足の間から火花を噴出させているかのようなアールを切り取っている。シャイナート監督が「お気に入り」だというこのビジュアルは、アールを演じたハイランド自身の提案によるものだという。

「すごく美しく、そして馬鹿らしい。美しさと愚かさが共存しているところが、すごく気に入ったんです。花火を足にはさむのは、アンドレのアイデア。ホラーのようでもあり、面白くもあり、ドラマティックでもあるという作品のトーンが、うまく表現できていると思います」

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田舎町、女性の保安官、でこぼこコンビによるドタバタ騒動、たった1つの秘密が生む取り返しのつかない悲劇……。様々な要素が、ジョエル&イーサン・コーエン兄弟の「ファーゴ」を彷ふつとさせる。実際にコーエン兄弟から多大な影響を受けたというシャイナート監督に、これまで刺激を受けた作品について尋ねてみると、アメリカンフットボールをテーマにしたスポーツドラマ「Friday Night Lights」や「ブレイキング・バッド」を挙げる。さらに、「両親が読んでいた、アラバマ周辺の面白い記事だけを載せる『The Advertiser-Gleam』という地元の新聞に、すごく影響を与えられたかもしれないですね」と述懐。ローカル新聞に掲載されている事件が、インスピレーションを与えてくれることもある。本作はまさに、シャイナート監督の飽くなき好奇心がキャッチした、世にも奇妙なネタがベースになっているのだ。

最後に、今後の映画製作のビジョンについて質問を投げかけてみた。

「常にサプライズを提供できるような、新しいことにチャレンジしていけるような監督でありたいとは思っています。それはすごく難しいことだと思うんですが、努力はしていきたいと思います」

ディック・ロングはなぜ死んだのか?」は、8月7日から東京・ヒューマントラストシネマ渋谷、新宿シネマカリテほか全国公開。

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