【映画評論「ストーリー・オブ・マイライフ わたしの若草物語」】乙女チックな女性ドラマとは言わせない。ハイクオリティな総合芸術を誇る、鮮烈なリブート版
2020年6月12日 07:00
[映画.com ニュース] これまで何度か映画化されてきたルイザ・メイ・オルコットの名作が、これほどフレッシュに蘇るとは、誰が想像しただろう。19世紀に生きるおなじみの四姉妹が、ここではそのコスチュームを脱ぎ捨てればわたしたちと変わらない、確固とした欲求を持った、自身の生き方を模索する女性たちとして描かれる。
愛する人に添い遂げることを願う長女メグ、小説家になり自立することを一心に目指すジョー、病弱だが繊細な感性と芯の強さを持ったベス、そして画家を目指しながらももっとも現実主義的な末っ子エイミー。四人四様のキャラクターがそれぞれに引き立っているのは、脚色も自ら手掛けたグレタ・ガーウィグの功績である。彼女の現代的な感覚が、この普遍的なテーマをパワフルに、カラフルにリブートした。
そのなかでも強力なのはやはり、シアーシャ・ローナン扮する物語の主軸、ジョーだ。負けん気が強く、お転婆でエネルギッシュ。ガーウィグの前作「レディ・バード」に続くコラボレーションとなったローナンは、まるで水を得た魚のように生き生きとスクリーンに躍動する。彼女がロングスカートをたくしあげてニューヨークの街を疾走するシーンは、この時代の女性たちへの社会的圧力を蹴散らすかのような爽快感に満ちている。
出版社に自身の小説を持ち込むジョーはそこで、「もっと売れるものを書け」「ヒロインは結婚しないのか」といった、不本意な言葉を浴びせられる。「女の幸せが結婚だけなんて絶対おかしい。間違っている」と信じるジョーは、幼馴染みでいわばソウルメイト(そのうえリッチでハンサム)でもある隣家の貴公子、ローリーの熱烈なプロポーズもはねつける。ローリーに扮するティモシー・シャラメの完璧度もシアーシャと肩を並べるだけに、このシーンは映画史に残る鮮烈な告白シーンと言えるだろう。
そんな純粋で突っ張って生きているジョーが、ついにエイミーとローリーがまとまってひとり置き去りにされたとき、「わたしはなんて孤独なのかしら」と脆さを見せる姿は、だからこそ、観る者の胸を掻きむしらずにはおかない。
それにしても、これまでどこかインディペンデント系の人、というイメージの強かったガーウィグが、監督2作目にしてこれだけの大作を指揮する力量を発揮するとは、正直驚きだ。ここでは、ソフィア・コッポラの「マリー・アントワネット」のような視覚的豪華さ(姉妹のガーリーな世界と、セットや衣装の艶やかさ)と、人間的なドラマを構築する緻密な演出、さらにオールスターキャストがもたらすキャラクターの魅力といった、それぞれにハイクオリティな要素が見事なハーモニーを生み出している。まさに総合芸術としての面白さを堪能させてくれる映画でもあるのだ。
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ギリシャ・クレタ島のリゾート地を舞台に、10代の少女たちの友情や恋愛やセックスが絡み合う夏休みをいきいきと描いた青春ドラマ。 タラ、スカイ、エムの親友3人組は卒業旅行の締めくくりとして、パーティが盛んなクレタ島のリゾート地マリアへやって来る。3人の中で自分だけがバージンのタラはこの地で初体験を果たすべく焦りを募らせるが、スカイとエムはお節介な混乱を招いてばかり。バーやナイトクラブが立ち並ぶ雑踏を、酒に酔ってひとりさまようタラ。やがて彼女はホテルの隣室の青年たちと出会い、思い出に残る夏の日々への期待を抱くが……。 主人公タラ役に、ドラマ「ヴァンパイア・アカデミー」のミア・マッケンナ=ブルース。「SCRAPPER スクラッパー」などの作品で撮影監督として活躍してきたモリー・マニング・ウォーカーが長編初監督・脚本を手がけ、2023年・第76回カンヌ国際映画祭「ある視点」部門グランプリをはじめ世界各地の映画祭で高く評価された。
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