行定勲監督、コロナ後の“映画業界のニューノーマル”を語る 配信サービス隆盛で「皆が劇場を持つ時代」に
2020年6月5日 16:00
[映画.com ニュース] 「ショートショートフィルムフェスティバル&アジア(SSFF & ASIA)」が6月4日に主催したオンライントークセッションに、行定勲監督、同映画祭の代表・別所哲也、平林勇監督、「札幌国際短編映画祭」プロデューサーの久保俊哉氏が参加した。後半の若手監督や映画関係者からのQ&Aには、映画コメンテーターのLiLiCoもサプライズ出演。配信は終了したが、現在はアーカイブ映像(https://www.youtube.com/watch?v=CqpOJd6E8IY&feature=youtu.be)で視聴することができる。
「SSFF & ASIA」が映画業界の様々な立場のゲストを迎え、コロナ禍と向き合う現状や未来を考えるトークセッションシリーズ第1弾。「映画祭のニューノーマルとは? クリエイター目線での価値を考える」をテーマに、トークを展開した。コロナ禍により「劇場」「窮鼠はチーズの夢を見る」が公開延期となり、さらにディレクターを務める「くまもと復興映画祭」(当初の開催日程は4月)も延期となった行定監督は、「やっぱり落ち込むものですよね」と悔しさをにじませる。その後、行定監督はショートフィルム2本をリモートで製作・配信。「落ち込みを払拭するために、『映画でも作るか』という気持ちになって。自分のために作った感じがあるんですよね」といい、企画からわずか2週間での配信というスピードや、「俳優の自主性に任せた」という撮影方法に可能性を感じたことも語った。
さらに、「with コロナ」「after コロナ」の映画祭の形について話が及ぶ。別所は「一生懸命ガイドラインを探しているけど、映画館や劇場は(ソーシャルディスタンス確保のため)定員が半分以下になってしまう。観客やスタッフがマスクやフェイスガードもして、体温も測る必要があるかもしれない。第2波、第3波も恐れながら……」と、実施に伴う困難を明かす。久保氏は「札幌は東京から離れていることでハンデもあるので、オンラインになると、日本も海外もつながることができる」とポジティブな面を挙げ、オンライン開催の可能性も示唆。リアルとオンラインを両立させ、映画祭を構築していく方法も探っているという。
一方、オンラインにはクリアしなければならない問題も多い。様々な海外映画祭に参加してきた平林監督は「世界配信されると、映画祭でのプレミア上映の価値が全滅してしまう。映画祭の中でもルール作りが必要ですね」と指摘し、行定監督も、製作委員会などが携わる商業映画の著作権問題クリアの難しさに言及。さらに、作り手としての映画館や映画祭での上映へのこだわりをのぞかせながら、今後の流れを予想する。
行定監督「『ROMA ローマ』や『マリッジ・ストーリー』をNetflixで見ましたが、『これ劇場で見なきゃ』と本能的に思うので、やっぱり劇場に行くんですよね。なぜなら作り手は、その(スクリーン)サイズで計算をしているので。(今後、オンラインで映画製作・配信をする場合は)世界中が相手なんですよね。配信は多様性をキープできるから、変てこりんで、誰にも理解できないけれど面白い作品も、皆が見たいと思うような、スターが出ているウェルメイドな作品も同等に扱われるようになれば、それはそれで良い時代になっていくのかもしれない。オンラインで見られる作品が増えるからこそ、映画館が特別な場所になっていく。観客が3分の1になったとしても、どうしても映画館で見たい人たちは見に来る、ということが実証されていくべきだと思っています」
トークが熱を帯びるなか、行定監督からオンラインプラットフォームに関連して、「皆が劇場を持つ時代」という言葉も飛び出した。「『映画祭が認めた』ことは皆の指標、軸になっている。今までは映画祭がブランディングして、スターも観客も育ってきたんだけど、それがもっと個人化していくんだと思います。皆がそれぞれ自分の劇場を持って、自分の作品をラインナップして、新作として発表していくような」と述べる。最後に平林監督が「コロナ禍の影響で良い面で変わったことも、すごく多いと思うんです。実際に映画祭がリアルで開催されるようになったとしても、今得られた良いものを財産としてプラスオンしていければ、もっと映画祭が楽しくなるんじゃないかと思います」と締めくくった。
今後は深田晃司監督が出演する第2回を、6月18日に配信。さらにクリエイティブディレクターであり小説家の高崎卓馬氏を迎える第3回(7月2日)、世界初の「コロナ国際短編映画祭」を展開したDEJAN BUCIN氏にインタビューする第4回(7月16日)へと続いていく。全て午後8時~9時30分を予定している。なお各映像はアーカイブ化され、初回配信後も視聴可能だ。
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