【「タクシードライバー」評論】「ジョーカー」へと受け継がれていく、スコセッシ×デ・ニーロによる孤独、矛盾、狂気
2020年4月18日 10:00

[映画.com ニュース] 新型コロナウイルスの影響により、多くの新作映画が公開延期となり、映画ファンの鑑賞機会は減るばかりです。映画.comでは、「映画.comオールタイム・ベスト」(近日一覧を発表予定)に選ばれた、ネットですぐ見られる作品の評論を毎週お届けいたします。今回は「タクシードライバー」です。
地下から噴き上げる水蒸気を切り裂く1台のタクシー。ハンドルを握る運転手は、麻薬、性、暴力が溢れかえり、毒々しいネオンに照らされたニューヨークを見つめている。1976年、スクリーンに姿を現したトラヴィス・ビックル。その内面を覗き見るのは、何度目のことだろう。安易に共感を抱いてはいけない――今回もまた、画面越しに警告が発せられている。
マーティン・スコセッシ監督、ロバート・デ・ニーロによる2度目のタッグ作。タクシー運転手のトラヴィスが、自らの存在を世間に認めさせるべく“行動”を起こすまでの過程を描く。ベトナム戦争帰りの元海兵隊員、重度の不眠症、余暇はポルノ映画鑑賞、不満と愚痴を書き殴る日記――鬱屈とした日々に付きまとう逃げ場のない寂しさに、胸が締め付けられる。しかし、物語が進むにつれ、そんな同情はいとも簡単に突き返されてしまう。
トラヴィスが欲しているのは“同情”ではなく“承認”だ。しかし、タクシー運転手という職において、彼自身の存在価値を求める者はいない。客が求めているものは、トラヴィス個人ではなく、目的地へと運んでくれる従順なトランスポーターだ。同僚たちとの距離も縮まらず、愛を捧げた女性には無知と矛盾を見抜かれ、彼を必要とする者は誰もいなくなる。
だからこそ、鏡像に対する名セリフ「You talkin' to me?」(俺に用か?)が印象的に響く。自分を最も理解している男“トラヴィス”からの問いかけ――デ・ニーロが体現してみせた狂気の芝居は、何度見ても飽き足らない。トラヴィスのDNAは、40年以上の時を経て「ジョーカー」へと受け継がれている。オマージュは勿論のこと、デ・ニーロがキャストとして両作を繋ぎ、それぞれが“狂気へのプロセス”を重視している点も見逃せない。
内へ溜め込まれた負の感情が、周囲への脅威として反転する――トラヴィスが向かう先は、悪の誕生へと結実する「ジョーカー」とは、異なるものになっていく。その様は、道を踏み外した“バットマン”のようでもある。是非セットでの視聴をおすすめしたい。また「一杯の紅茶を飲むためなら、世界が滅びてもかまわない」という一文が登場し、自意識過剰の魂が炸裂する小説「地下室の手記」(著:ドストエフスキー)の熟読を添えれば、よりベストな鑑賞体験になるはずだ。
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