佐藤浩市と渡辺謙の逡巡と決断
2020年3月8日 10:00

[映画.com ニュース] まだ9年なのか、もう9年なのか、東日本大震災から流れた歳月を明確に計ることは難しい。佐藤浩市と渡辺謙にも、逡巡(しゅんじゅん)はあったはずだ。それでも2人は「Fukushima50」に挑むことを決断した。津波に襲われ全電源が喪失した福島第一原子力発電所で、現場に踏みとどまった作業員たちを統率。メルトダウンの危機に立ち向かった名もなき戦士たちの5日間の、緊迫感に満ちた群像ドラマへと導いた。
2013年「許されざる者」以来の共演。デリケートなテーマを扱う「Fukushima50」への出演は、お互いの存在が大きなモチベーションになった。中央制御室(中操)当直長・伊崎利夫役の佐藤は、17年若松節朗監督のWOWOW「石つぶて 外務省機密費を暴いた捜査二課の男たち」への出演中に話を聞いた。
「早い遅いはないかもしれないけれど、どちらかに偏重してしまうのは怖いからどうなの?と最初は思った。でも、製作サイドからそういう方向ではないとうかがって一緒に走りましょうと。それで吉田所長が謙ちゃんだと聞いて、それだったらぜひ。こういう素材だからほかの役者さんも躊躇(ちゅうちょ)すると思うんですよ。謙ちゃんが手を挙げてくれたことで、背中を押してもらえた人もいたと思うのでありがたかった」

一方、福島第一原発所長の吉田昌郎に扮する渡辺が依頼されたのは、ミュージカル「王様と私」の英ロンドン公演中。若松監督の「沈まぬ太陽」(09)の時と同様、製作代表の角川歴彦・KADOKAWA会長の思いを真摯に受け止めつつ、思いは佐藤と同じだった。
「角川さんがこの題材をやりたいと言った時点で、覚悟みたいなものを感じていた。(伊崎は)誰?って聞いたら浩ちゃんがやるっていうから、それは鬼に金棒にさらに大きなものを抱えられる作品になるだとうと思ったので、考える余地はなかった。原発の事象だけを取り上げる作品だったら躊躇したけれど、脚本を読んでちゃんとした人間ドラマになっていたから、そこに迷いはなかった」
撮影は中操と緊急時対策室に分け、時系列に沿っての順撮り。18年11月、先にクランクインした佐藤は吉岡秀隆、火野正平、平田満ら最前線の現場となる中操のメンバーを集め“決起集会”を開いてから臨んだ。

「自分たちが置かれている状況、条件が日々変わっていく不安感など皆で共有する材料が多かったので、日々結束力は強くなっていきました。初号を見た後に出てきた中操のメンバーが、この映画に参加して良かったですと目で言っているわけですよ。当然、お仕事なんだけれど、それ以外のものも感じてもらえたのはうれしかった」
年が明けて緊対へと移るが、渡辺は全キャスト、スタッフを前に「「今もまだ故郷に帰れない人たちがいる。彼らのことを胸に刻んでいこう。(我々は結果を知っているけれど)もう一度あの時間に立ち戻って、これからどうなるのか先が分からない気持ちでやっていこう」と述べた。まさに所長としての決意表明だ。
「中操はブラックアウトしたりベントに行くといったドラマがあるけれど、こっち(緊対)は何もシチュエーションが変わらない中での撮影だったので大変でした。監督も助監督も含めて、とにかく緊迫感を維持して100何十人と共有するかということにほとんど力を使いました」
既に世界73の国と地域での配給が決まっている「Fukushima50」。2人の思いは、必ずや海外にも届くはずだ。
(C)2020「Fukushima 50」製作委員会
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