渡辺謙、常に求める「ドキドキ」――新作「ベル・カント とらわれのアリア」との運命的出合いを語る
2019年11月14日 14:00
[映画.com ニュース] 「仕事を選ぶうえでの基準? ないんですよね(笑)。そこにこだわりを持っちゃうと、安定してしまうから。やっぱり、作品を見てくださる皆さんに『今度はどんなことをしてくれるんだ?』って期待してほしいし、僕自身がドキドキをすごく求めている。いろんなふり幅が必要だなって。本当に『何でもちょうだい!』って感じですよね」
そう語る俳優の渡辺謙が“ドキドキ”の一つとして出演を決めた作品が、米映画「ベル・カント とらわれのアリア」(ポール・ワイツ監督)だ。1996年にペルーで起きた日本大使公邸占拠事件からヒントを得た、アン・パチェットのベストセラー小説「ベル・カント」を映画化。南米某国の副大統領邸を占拠したテロリストと人質たちが、世界的オペラ歌手の歌声を通して心を通わせていく感動ドラマで、渡辺は人質となる日本人実業家のホソカワを演じている。
1度は映画化が動き出し、渡辺にも出演オファーが届いていたものの、9.11直後のタイミングだったため、企画は数年にわたり頓挫したままだったという。それだけに、改めて台本を受け取った渡辺は「まさに運命的な出合い。自分としては、何としても引き受けなければと感じた。人質事件の直前には、ペルーで紀行ドキュメンタリーを撮影していましたし」と強い思い入れを示す。
長年の構想を経た結果、分断の時代だと叫ばれる昨今だからこそ、「この作品が投げかけるメッセージは大きい」とも。「アメリカ、イギリス、それに日本も含めて非常に内向きになっていて、ユニバーサルな感覚が薄れつつある気がしますね。人種や宗教、価値観の違いをいかに理解し合えるか? その難しさも含めて、海外で仕事をする僕にとっても大きなテーマ。どんな現場であっても、まずは自分自身がオープンマインドでいることを意識しています」(渡辺)
物語のカギを握るオペラ歌手役のジュリアン・ムーア、日本人通訳を演じる加瀬亮、セバスチャン・コッホ、クリストファー・ランバートら国際色豊かなキャストが顔をそろえ「テロリストと人質たちの間にある、見えない壁が氷解していく。その過程は、役者同士でさまざまな瞬間を積み重ねるしかないんです。脚本をただ表現するのではなく、目線や口調、しぐさの交換が、親密な空気感を作り出すので、オンもオフも互いにコミュニケーションを取り合いましたね」と振り返る。瞬間の積み重ねが頂点に達するエンディングには、渡辺本人も「息をのんだ。とても映画的で、ある種の魔法を感じる」と感嘆しきりだ。
現在も「名探偵ピカチュウ」「ゴジラ キング・オブ・モンスターズ」といったハリウッド大作で活躍する一方、「The King and I 王様と私」でブロードウェイの舞台に立ち、来年3月には佐藤浩市と共演した「Fukushima 50」(若松節朗監督)の公開を控える。確固たるキャリアを築いてなお、俳優として躍進し続ける原動力とは?
「まずは求められることに忠実に。そのうえで、要求を超えるサムシングを常に発揮したいと思っています。もちろん、でこぼこ道ですけれど、自分なりに積み上げていくしかありませんから。今はネット配信をはじめ、アウトプットが多いから、結構大変な時代ですよ。作り手にパッションがないと、すぐに見透かされてしまう。逆に変わらないことは、僕らが生み出す作品が、どれだけ人の心に寄り添えるか……。つまり“ドキドキ”させられるかなんですね」
「ベル・カント とらわれのアリア」は、11月15日から全国公開。
フォトギャラリー
関連ニュース
映画.com注目特集をチェック
関連コンテンツをチェック
シネマ映画.comで今すぐ見る
第86回アカデミー作品賞受賞作。南部の農園に売られた黒人ソロモン・ノーサップが12年間の壮絶な奴隷生活をつづった伝記を、「SHAME シェイム」で注目を集めたスティーブ・マックイーン監督が映画化した人間ドラマ。1841年、奴隷制度が廃止される前のニューヨーク州サラトガ。自由証明書で認められた自由黒人で、白人の友人も多くいた黒人バイオリニストのソロモンは、愛する家族とともに幸せな生活を送っていたが、ある白人の裏切りによって拉致され、奴隷としてニューオーリンズの地へ売られてしまう。狂信的な選民主義者のエップスら白人たちの容赦ない差別と暴力に苦しめられながらも、ソロモンは決して尊厳を失うことはなかった。やがて12年の歳月が流れたある日、ソロモンは奴隷制度撤廃を唱えるカナダ人労働者バスと出会う。アカデミー賞では作品、監督ほか計9部門にノミネート。作品賞、助演女優賞、脚色賞の3部門を受賞した。
父親と2人で過ごした夏休みを、20年後、その時の父親と同じ年齢になった娘の視点からつづり、当時は知らなかった父親の新たな一面を見いだしていく姿を描いたヒューマンドラマ。 11歳の夏休み、思春期のソフィは、離れて暮らす31歳の父親カラムとともにトルコのひなびたリゾート地にやってきた。まぶしい太陽の下、カラムが入手したビデオカメラを互いに向け合い、2人は親密な時間を過ごす。20年後、当時のカラムと同じ年齢になったソフィは、その時に撮影した懐かしい映像を振り返り、大好きだった父との記憶をよみがえらてゆく。 テレビドラマ「ノーマル・ピープル」でブレイクしたポール・メスカルが愛情深くも繊細な父親カラムを演じ、第95回アカデミー主演男優賞にノミネート。ソフィ役はオーディションで選ばれた新人フランキー・コリオ。監督・脚本はこれが長編デビューとなる、スコットランド出身の新星シャーロット・ウェルズ。
ギリシャ・クレタ島のリゾート地を舞台に、10代の少女たちの友情や恋愛やセックスが絡み合う夏休みをいきいきと描いた青春ドラマ。 タラ、スカイ、エムの親友3人組は卒業旅行の締めくくりとして、パーティが盛んなクレタ島のリゾート地マリアへやって来る。3人の中で自分だけがバージンのタラはこの地で初体験を果たすべく焦りを募らせるが、スカイとエムはお節介な混乱を招いてばかり。バーやナイトクラブが立ち並ぶ雑踏を、酒に酔ってひとりさまようタラ。やがて彼女はホテルの隣室の青年たちと出会い、思い出に残る夏の日々への期待を抱くが……。 主人公タラ役に、ドラマ「ヴァンパイア・アカデミー」のミア・マッケンナ=ブルース。「SCRAPPER スクラッパー」などの作品で撮影監督として活躍してきたモリー・マニング・ウォーカーが長編初監督・脚本を手がけ、2023年・第76回カンヌ国際映画祭「ある視点」部門グランプリをはじめ世界各地の映画祭で高く評価された。
「苦役列車」「まなみ100%」の脚本や「れいこいるか」などの監督作で知られるいまおかしんじ監督が、突然体が入れ替わってしまった男女を主人公に、セックスもジェンダーも超えた恋の形をユーモラスにつづった奇想天外なラブストーリー。 39歳の小説家・辺見たかしと24歳の美容師・横澤サトミは、街で衝突して一緒に階段から転げ落ちたことをきっかけに、体が入れ替わってしまう。お互いになりきってそれぞれの生活を送り始める2人だったが、たかしの妻・由莉奈には別の男の影があり、レズビアンのサトミは同棲中の真紀から男の恋人ができたことを理由に別れを告げられる。たかしとサトミはお互いの人生を好転させるため、周囲の人々を巻き込みながら奮闘を続けるが……。 小説家たかしを小出恵介、たかしと体が入れ替わってしまう美容師サトミをグラビアアイドルの風吹ケイ、たかしの妻・由莉奈を新藤まなみ、たかしとサトミを見守るゲイのバー店主を田中幸太朗が演じた。
文豪・谷崎潤一郎が同性愛や不倫に溺れる男女の破滅的な情愛を赤裸々につづった長編小説「卍」を、現代に舞台を置き換えて登場人物の性別を逆にするなど大胆なアレンジを加えて映画化。 画家になる夢を諦めきれず、サラリーマンを辞めて美術学校に通う園田。家庭では弁護士の妻・弥生が生計を支えていた。そんな中、園田は学校で見かけた美しい青年・光を目で追うようになり、デッサンのモデルとして自宅に招く。園田と光は自然に体を重ね、その後も逢瀬を繰り返していく。弥生からの誘いを断って光との情事に溺れる園田だったが、光には香織という婚約者がいることが発覚し……。 「クロガラス0」の中﨑絵梨奈が弥生役を体当たりで演じ、「ヘタな二人の恋の話」の鈴木志遠、「モダンかアナーキー」の門間航が共演。監督・脚本は「家政夫のミタゾノ」「孤独のグルメ」などテレビドラマの演出を中心に手がけてきた宝来忠昭。
奔放な美少女に翻弄される男の姿をつづった谷崎潤一郎の長編小説「痴人の愛」を、現代に舞台を置き換えて主人公ふたりの性別を逆転させるなど大胆なアレンジを加えて映画化。 教師のなおみは、捨て猫のように道端に座り込んでいた青年ゆずるを放っておくことができず、広い家に引っ越して一緒に暮らし始める。ゆずるとの間に体の関係はなく、なおみは彼の成長を見守るだけのはずだった。しかし、ゆずるの自由奔放な行動に振り回されるうちに、その蠱惑的な魅力の虜になっていき……。 2022年の映画「鍵」でも谷崎作品のヒロインを務めた桝田幸希が主人公なおみ、「ロストサマー」「ブルーイマジン」の林裕太がゆずるを演じ、「青春ジャック 止められるか、俺たちを2」の碧木愛莉、「きのう生まれたわけじゃない」の守屋文雄が共演。「家政夫のミタゾノ」などテレビドラマの演出を中心に手がけてきた宝来忠昭が監督・脚本を担当。