SNS時代の少女をリアルに描くA24の青春映画「エイス・グレード」 元YouTuberの新鋭監督に聞く
2019年9月19日 14:00
[映画.com ニュース] 低予算映画ながら、口コミで全米4館から1084館に拡大公開、バラク・オバマ元米大統領が2018年のベストムービーと称賛し、「ROMA ローマ」のアルフォンソ・キュアロン監督が「ここ最近で一番泣いた映画」と評価した「エイス・グレード 世界でいちばんクールな私へ」が、9月20日から公開される。SNS時代のティーンの生活をリアルに映しながらも、容姿やスクールカーストへのコンプレックスなど、誰しもが経験したことのあるような不器用な思春期の心のゆらぎ、そして成長を繊細に描き出した青春映画だ。メガホンをとったのは、ミュージシャン兼コメディ俳優で、2006年にYouTuberとしてブレイクした29歳のボー・バーナム。来日した新鋭監督に話を聞いた。
製作は「レディ・バード」など近年のヒット作を生み出している気鋭のスタジオ「A24」、主人公のケイラを演じたのは、「怪盗グルー」シリーズの声優として知られるエルシー・フィッシャー。等身大の演技が評価され、第76回ゴールデングローブ賞の主演女優賞(ミュージカル・コメディ部門)にノミネートされた。
「10年間コメディ俳優をやって、ステージ上でスタンダップをやっているときにパニック症候群になって3年くらい休業したんです。その時に感じた気持ちを、脚本にできないかと思ったんです。こんなナーバスな気持ちを味わったのがちょうどエイス・グレード(8年生、中学校最終学年)の時。たくさんのお客を前に、舞台袖で感じていた不安、それがプールパーティに参加する前にバスルームに籠もる8年生の少女と同じ気持ちだったんです。そういった個人的な体験と同時に、現代でインターネット、SNSと若者の関係性が十分に語られていないと感じていたのが、もうひとつの理由です」
「ショーではステージに上がっている時の不安な気持ちをネタにすることが多かったんです。終わった後に、話しかけてくれるのが、ケイラと同世代の女の子で、男の子ではなかった。日常で同じように緊張するとか、自分の人生をこういう風にパフォーマンスしなければいけないという強迫観念がある、と少女たちが言ってくれるんです。僕が、彼女たちに自分の姿を見るよりも前に、彼女たちの方が先に、僕の中に自分を見てくれたんだと思う」
「あとは、作り手の記憶が感じられるような映画にはしたくなかった。今、実際に起きていることを見る人の心に響くような形で表現しました。主人公が少年だったら、自分の当時の思い出を詰め込みすぎてしまったかもしれないから、女の子でよかったと思っています。2018年の14歳の少女に自分のことは投影はできないし、何も知らないというところからストーリーを作り上げることができました」
「最初にまずやったのは、いろんなティーンのVログをたくさん見て、書き起こすことです。中学校の前で張り込みなんてことをせず、PCを使ったオンラインリサーチを細かくやりました。一般的な映画で描かれるような子ども像ではなく、現在のティーンエイジャーの本音を掘り起こすことがいちばんの目的でした」
「エルシー・フィッシャーは、ネットで10歳頃の彼女が取材を受けているところを見て、ケイラの資質を感じた。自信があるのにナーバスな振りをするんじゃなくて、ナーバスなのにそうではないような態度をとっているところが主人公と近いもの感じて、会った瞬間から、彼女しかいないと思った」
「プロデューサーたちは本当に僕のことをサポートしてくれて、何も口を挟まれず好きに作らせてくれた。製作費が小さかったのもあるけれど。今、アメリカでは映画の公開作品数がとても増えていて、インディーズシーンからブレイクアウトしたり、逆に映画スターの出演作がヒットせず死に絶えていったり。そんな今の時代、とにかく良い映画をつくることが重用だと納得しました」
「自分の幸せは自分がコントロールできるところを目指すべき、僕はそれを大切にしています。なにかクリエイティブなことをしたいと考えているのであれば、自分とその関係性は既に始まっている。脚本家になりたければ、目指すのではなく書けばいい。今、僕が健康的な考えを持っていられるのは、自分がコントロールできるものを目指しているから。次回作がケチョンケチョンに言われて、もう作れなくなってしまうことだってありうるから、今は作る過程を楽しんでいきたいです」
「若い世代には、何が他人にとって魅力的に映るのか、人から見た自分の見え方に幸せを見出してしまうと、本当に幸せになることが不可能になる。ネットやSNSって真逆のもの。今の状況に不安を持たないことが大事だと言いたいです」
「コメディにも戻りたい気持ちがあるけれど、映画は今までやったどんな仕事よりも気持ちが充足し、クリエイティブ的にも一番いろんなものを詰め込めました。スタンダップだけでははまりきらなかったものが、映画では全部はまりきった。だから続けていきたいけれど、できるからという理由で仕事はしたくない。まず、アイディアがあってそれを表現するにはどの方法がいいのか考えて、その道で形を作れればと思っています。映画はまだまだ学ぶことがあるので、自分の人生をかけてコミットしていくものだと思っています」
「エイス・グレード 世界でいちばんクールな私へ」は、9月20日から東京のヒューマントラストシネマ有楽町、渋谷シネクイントほか全国で順次公開。
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