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「ある町の高い煙突」渡辺大、“理想”と“信念”の男を熱演「いい人すぎて難しい面も…」

2019年6月21日 19:00

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「ある町の高い煙突」の撮影を振り返った渡辺大
「ある町の高い煙突」の撮影を振り返った渡辺大

[映画.com ニュース] 30代半ばに差しかかり、渡辺大が存在感を増している。まもなく全国公開を迎える、約100年前の煙害問題を描く映画「ある町の高い煙突」では、企業の人間でありながら、主人公の青年と友情を育み、問題の解決に取り組む、理想に燃える男を熱演している。

原作は映画化された「八甲田山」「劔岳 点の記」などの名作で知られる文豪・新田次郎が、茨城県の日立鉱山の実話を元に執筆した小説。鉱山の煙害に苦しむ村の人々と企業が協力し、巨大な煙突を建設する姿を描く。

弱者が利益を追求する巨大な企業に立ち向かう――そんな“勧善懲悪”の物語なら、現代のエンタメ界にぴったりとマッチしているかもしれないが、本作はそんな単純な構図の物語ではない。

「地元の住民たちと企業を描いているけど、相反する立場の者たちが協力し、障害を乗り越えていくというところが面白く、脚本を読み終わって、すごくいい気持ちになりました。ある種の理想を描いていますが、それが実話だということに驚いたし、ややピリピリした現代に響くんじゃないかなと感じました」

渡辺が演じたのは、まさにこの両者の協調のキーマンと言える男であり、日立鉱山で住民たちとの交渉にあたる加屋淳平。なにせ煙害対策に燃える若き主人公・関根三郎(井手麻渡)に対し、企業側の人間でありながらあっさりと「補償のためなら会社を潰してもいい」と断言し、逆に「信用できない」と警戒されてしまうほどの“理想”と“信念”の男。

「“いい人”すぎて難しい面もありました」と苦笑しつつ、渡辺は「難しくとらえ過ぎずに素直に演じるようにしました。特に今回、井手くんは映像作品はほぼ初出演。年齢も少し離れていることもあり、井手くんをサポートしつつ、三郎と淳平が友情を育みつつ煙突を建てたように、この作品を一緒に組み立てていけたらと思っていました」と振り返る。

また、若手から刺激を受け取る一方、先輩俳優たちから学ぶ部分も大きかった。日立鉱山の創設者を演じる吉川晃司、政府が派遣した学者役の大和田伸也、診療所の医師役・渡辺裕之、日立鉱山の補償係を演じた螢雪次朗など、絶妙な按配でベテランの名優たちが脇を固めている。

画像2

「吉川さんが演じた社主は、多くを語らず、最後のひとつのうなずきで全てをまとめてしまうようなキャラクターですが、吉川さんの存在感が本当に役柄そのままで……。また螢さんの役も、本来は嫌われる立場の役どころなんですけど、なぜか憎めないのは螢さんの人徳なのか……(笑)? おふたりに限らず、皆さんの人柄が役ににじみ出ているように感じたし、役を超えたその“先”にあるものを感じさせてもらい、非常に勉強になりました」

繰り返しになるが、本作は決してわかりやすい正義が悪を退治するような“エンタメ”作品ではない。静かに心に訴えかけ、考えさせる。

渡辺は「悪い意味じゃなく、地味でいい映画だなと思います。互いを思いやること、それこそ、自分がいま属している組織や共同体で、第三者にどう向き合って生きていくのか? 世知辛い世の中ですが、少しでも考えるきっかけになればと思います」と訴える。

失礼な言い方かもしれないが、渡辺も決して派手な俳優ではないが、物語の中で静かに、しかし確かな存在感を発揮し、見る者の心に確かな“何か”を感じさせる、そんな俳優である。本作が描くのは100年前の時代だが、昨年の「散り椿」、来年公開の「峠 最後のサムライ」など、時代物に求められるのもよく理解できる。

「古ぼったい人間なんですよ(苦笑)」――。そう自嘲気味に語りつつ「それが嫌いじゃないし、昔から残っているよいものを、作品を通じて継承できる立場にいるのを光栄に思っています」とうなずく。

それこそ20代の頃は、本作で井手が演じたような熱い青年主人公が似合っていたが、30代を歩む中で、落ち着きと風格が増してきた。昨年公開の「ウスケボーイズ」ではワイン造りに没頭する主人公を演じ海外の映画祭で主演男優賞を受賞。またドラマ「中学聖日記」では、これまでにないタイプの役柄で新たな境地を開いた。

「さすがに34歳になって、井手くんのような若い子と共演すると『俺も歳とったな』って思っちゃいますね(笑)。年齢を重ねて役柄も変わってきて、より人間臭さ――あまり他人に見せたくないような部分や清廉潔白じゃないところを表現することを求められるようにもなってきて、面白いですね。若い頃はいっぱいいっぱいで『明日、どうなるのか?』という感じでしたが、今は少しは余裕が出てきたのかな(笑)? いや、そんなに自信たっぷりに生きてるわけじゃないし、僕、“設計”は下手なんで(苦笑)、ビジョンがあるわけでもないです。ただ、少なくとも何が起きても楽しめそうかなと思います」。

ある町の高い煙突」は6月22日から全国公開。

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