ロブ・ライナー監督がイラク侵攻の真実を今、映画化する理由
2019年3月29日 07:00
[映画.com ニュース]「スタンド・バイ・ミー」「最高の人生のつくり方」など良質な人間ドラマで知られる名匠ロブ・ライナー監督の新作「記者たち 衝撃と畏怖の真実」が公開された。イラク戦争の大義名分となった大量破壊兵器の存在に疑問を持ち、真実を追い続けた実在の新聞社「ナイト・リッダー」の記者たちの奮闘を描いた作品だ。来日したライナー監督が作品を語った。
「2003年からもやもやした気持ちがあり、その後、政府は9・11前からイラク侵攻を行うと決めていたという事実を様々なエビデンスから確信しました。アメリカ史上最悪な大惨事につながった外交政策、なぜそんなことが起こり得たのかを映像で形にしたかったのです。今、メディアがかつてないほど攻撃されていて、世界中を見ても独裁者が台頭しています。自由で独立したメディアが抑圧されると、真実が一般市民に届きません。結果的に我々一般市民が経験していることを反映するような作品になりました。自由で独立したメディアがなければ、民主主義というものは存続できないと僕は信じているし、現在のドナルド・トランプ大統領はメディアは民衆の敵と呼んでいる。そのような今だからこそ、闘わなければと思ったのです。企画当初はもちろん意図していませんでしたが、ある意味タイムリーな作品になってしまったのです」
「僕にとっては、これはハイブリッドなドキュドラマだと思っているんです。ドキュメンタリーとフィクションの間といったら良いのかな。パウエルが国連でスピーチしている映像を覚えていて、これは絶対に映画の中で使おうと思っていた。登場人物も、起きたことも実在で、多くの記録映像を集めて使っているので、チェイニー、パウエル、ブッシュが登場する。どの作品でもストーリーを伝えるのにいちばんいい形は何かと考えます。私の映画には『スパイナル・タップ』のようにモキュメンタリーの形が良い作品もあれば、『プリンセス・ブライド・ストーリー』のように、おとぎ話的な作品もある。作品がどのフォームを選ぶべきか教えてくれるのです」
「『LBJ ケネディの意志を継いだ男』で最高の体験をしたウディ・ハレルソンからです。彼とは、今後どの作品でも一緒に仕事をしたいと思えるくらいの才能があり、一緒にいても楽しいのです。ウッディとのケミストリーを考えて、他のキャスティングをしました。次は支局長役のアレック・ボールドウィン。それから、トミー・リー・ジョーンズ、ジェームズ・マースデン、ジェシカ・ビール、ミラ・ジョボビッチと考えていきました。元従軍記者のギャロウェイはすごく気難しいし、バカなことを言おうものなら、空気が悪くなるタイプの人間なんです。まさに、そういう空気を出してくれるのがトミー・リーだったと思うし、ジェームズとジェシカは恋愛要素があるので美男美女でちょうどいい。ミラは、移民の歴史を持っているので、その資質が出てくるキャスティングだと思った。でも、クランクイン1週間前にアレックから降板の連絡があり、困っていたときに、妻から私がやったらいいと言われ、ウォルコットを演じることになったのです」
「もちろんです。イラク侵攻直後から、嘘が根拠となって戦争が始まるなんて信じられなかったし、報道もすべき仕事をしなかった、そして、真実が一般市民に届かなかった。まるで、自分の子供が道に飛び出して、車に轢かれてしまうのがわかっていながら、止めることが出来ない無力な親、そんな気持ちだったのです。アメリカ以外の国で抗議の声が上がっていたにもかかわらず、どうしてこんな恐ろしいことが起きたのか。正しい情報を知らないことによって、どんな大惨事が起こるのか。そういったことに警鐘を鳴らす映画として見てもらえるとうれしいです」
「確かにアメリカに表現の自由があることは喜ばしいことです。しかし、今の大統領はメディアを民衆の敵だと発言したり、政府御用聞きの媒体が、プロパガンダのような嘘を広めています。権威主義、専制政治になると自由は簡単に失われてしまうのです。もちろん、アクション監督はアクションを作ればいいし、コメディ監督はコメディを作ればいい。私は、今の年月を重ねた段階で、自分の持てるプラットフォームを全て使って、考えていることを表現していきたいのです。私の発言が気に食わない、政治色があるということについての反対意見ももちろんあります。でも、私は闘いながら自分の伝えたいことを伝えたい。幸運なことに生計を心配しなければいけない状況ではないし、表現の自由がある国の映画監督であるからこそ、作品を作り続けなければと思うのです」
「記者たち 衝撃と畏怖の真実」は東京・TOHOシネマズ シャンテほか全国で公開中。
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