「キリクと魔女」M・オスロ監督、高畑勲の“おもひで”を語る「彼は革命家」
2019年1月28日 18:30
[映画.com ニュース]19世紀後期にパリのグレヴァン蝋人形館で、シャルル・エミール・レイノーが、世界初のアニメ作品の1つとされる「道化師と犬」を上映してから今日まで、フランス製アニメはずっと世界中の人々を魅了し続けてきた。
そんな仏アニメを讃え、 昨年から始まった仏アニメの映画祭「Animation First」(フランス文化を広める非営利団体FIAF(French Institute Alliance Francaise)主催)が、今年もまた1月25日から27日までニューヨークで開催された。今年の「Animation First」は、フランスの伝説的アニメ作家ミッシェル・オスロを名誉ゲストとして招き、公開から20周年を迎えた代表作「キリクと魔女」(1998)が映画祭のオープニングを飾った。
不思議なのは、この映画祭のラインナップに故・高畑勲監督の「おもひでぽろぽろ」が選出されていること。どうしてこの仏アニメを集めた映画祭に日本のアニメ映画が選ばれたのか。その理由は、オスロ監督が敬愛する高畑監督へオマージュを捧げたかったからだという。「高畑さんは宮崎駿さんほど脚光を浴びる存在ではありませんでしたが、私は高畑さんの作品はすべて大胆不敵で大好きでした。彼の残した作品は決して色あせない強い力を秘めています」と、オスロ監督は高畑監督の代表作上映前に登壇し、まず高畑作品の魅力を言葉にした。
さらに「『おもひでぽろぽろ』も、高畑さんの他の作品同様大胆です」と続け、「映画は子供の頃の記憶と現在(1990年代)が混在し、過去の人々を現在に登場させたりしています。またエンドクレジットと同時に映されるシーンが重要で、最後まで引きつけられる美しさがある」と、『おもひでぽろぽろ』の見どころを説明した。
フランス文化に造詣の深いことでも知られている高畑勲監督。フランスの詩人ジャック・プレベールの大ファンで、詩集を日本語に翻訳し、プレベールが脚本を担当した「王と鳥」の字幕翻訳も手がけた。フランスと日本の架け橋になった功績も、高畑作品がこの映画祭に選ばれた理由だという。
「おもひでぽろぽろ」上映後にはオスロ監督のトークイベントが行われ、そこでも高畑監督との“おもひで”をファンと分かち合った。「東京で私の作品が上映された時、主催側に『舞台上で対談したい日本の映画監督はいますか?』と聞かれ、私は思わず高畑監督の名前を挙げました。彼は私のことは知りませんでしたけれど。そうやって私たちは初めて出会い、高畑さんは私の映画を見る羽目になってしまったのです。幸い映画は気に入ってくれました」と冗談交じりに振り返り、「実際お会いした高畑さんはとてもジェントルマンでした。彼の作品が好きならば、彼自身のことも好きになるはずです」と、映画に高畑監督の人柄が宿っていることを打ち明けた。
そして最後にオスロ監督は「高畑さんは自分にとても正直です。だからこそ彼の作品には真実が溢れています。自分のやりたいことに静かに取り組まれたからでしょう。『みんなに気に入られるかどうかはわからないけれど、僕はこれをやるんだ』という彼の心意気には大変心服します」と語り、自身の人生に大きな影響を与えた比類なき作家を「彼は革命家です」と評した。(取材・文/岡本太陽)
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