ポンピドゥ・センターで河瀬直美監督の展覧会がスタート 上映でJ・ビノシュ登場
2018年12月4日 13:30
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[映画.com ニュース]11月23日からパリのポンピドゥ・センターで、河瀬直美とスペイン北部カタロニア出身のイサキ・ラクエスタの共同展覧会が始まった。ラクエスタは、フランスや日本ではまだその作品が劇場公開されていないものの、スペインではすでに注目の監督。今回の特集上映で紹介される新作「Between Two Waters(英題)」は、今年のサン・セバスチャン国際映画祭で最優秀作品賞に輝いている。本展では、両者それぞれのインスタレーションと、ふたりがやりとりしたビデオレター、さらに彼らの映画の特集上映もおこなわれる。
そもそもふたりのコラボレーションの発端は、バルセロナ現代文化センター(CCCB)からの提案だったという。CCCBではさまざまな映画監督たちの往復書簡をシリーズで企画しており、以前ポンピドゥ・センターでも展示されたビクトル・エリセとアッバス・キアロスタミや、ジョナス・メカスとホセ・ルイス・ゲリンのコラボレーションなどがある。河瀬とラクエスタが以前から面識があったことも手伝って、ふたりのコラボレーションが実現。2008から09年のほぼ1年にわたって、7通の往復ビデオレターが制作された。
ラクエスタは河瀬監督の映画についてこう語る。「彼女の作品はきわめて私的なポートレートで、僕はそこに惹かれる。そして光や雨やダンスや音楽といったものを通してとてもフィジカルな表現があるところも好きだ。彼女と僕の違いは、僕はこれまで自分のことを語ることがなく、つねに他者や他のものを通して自分のことを語っていた。でも彼女はその対極。彼女とのコラボレーションを通して、僕は自分の親密なポートレートを撮るという勇気をもらった。そしてビデオレターを通してお互いのことを表現し合い、理解を深めていった。逆に僕らに共通したところは少ないかもしれないが、作家として撮りたいものを撮る、自由であるということと、ジャンルに捕われずさまざまな表現を試みているという点は共通していると思う」こうしてふたりのビデオレターは、ラクエスタが初めて自分の妻にカメラを向けたものから始まり、互いの身の回り、慣習、そのときの思いを詩的に語り合うやりとりになっている。
河瀬監督はこの他に、奈良の四季を壁に投影し、映像と音で「日本の路地を感じさせる」「春夏秋冬」、吉野の和紙を障子のように繋ぎ合わせた24枚(映画の1秒:24コマから)の盾に彼女の思い出を象徴する映像を投影した「想いのスクリーン」を展示。
一方ラクエスタは、ふたつの映像を並置した「Double films」や彼が世界各地を旅して撮りためた映像を編集した「The Echo Images」で、異なる場所や異なる視点を一度に体感させることをテーマにした。個々の作品は示し合わされたわけではないものの、「旅」という大きなテーマでくくることができる。またオープニングには、河瀬監督が書道パフォーマンスを披露。さらに11月28日の劇場公開に先駆けて新作「Vision」が上映され、主演のジュリエット・ビノシュも登壇した。
河瀬監督は「長年準備してきた展覧会が今日から開催されるということで、今朝起きてから心が浮き浮きしています。何年も前に今回のお話を頂いてから、さまざまな紆余曲折を経て今日を迎えました。そしてこの「Vision」も、2017年のカンヌでジュリエットに出会い、3カ月後には彼女が吉野に来るという、奇跡的な時間を経て誕生しました。吉野での時間は、森がわたしたちを何か素晴らしい世界に導いてくれるようなものでした。その素晴らしい世界に行く前には、乗り越えられるだろうかと思えるような苦難もありましたが、わたしたちは語り合い、涙し、そして乗り越えてきたと思います」と挨拶した。続いてジュリエット・ビノシュは「河瀬監督の強さ、自立性に驚嘆させられました。彼女の撮影は独創的です。現場はとても静かで、アクションのかけ声もなく、スタッフもまるで妖精か何かのように静かに俳優の周りに佇む。とにかくすべてが初めての体験でした。彼女の素晴らしい仕事に感謝しています」と語った。
ちなみに、この日のために奈良県吉野からわざわざ樽酒が輸出されたそうだが、なんと関税で止まり、間に合わなかったとか。河瀬監督がそう告げると会場には「あー」と落胆の声があがったが、「きっとクロージングまでには届くと思うので、みなさまこの展覧会と吉野の酒をぜひよろしくお願いします」という河瀬監督の言葉に、会場は温かい拍手に包まれた。
展覧会(https://www.centrepompidou.fr)は1月6日まで、特集上映は1月7日まで。
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