塚本晋也監督「斬、」に込めた“時代劇ヒロイズム”へのアンチテーゼ
2018年11月7日 23:10

[映画.com ニュース] 第75回ベネチア国際映画祭コンペティション部門に正式出品された「斬、」の塚本晋也監督が11月7日、東京・有楽町の日本外国特派員協会で行われた会見に出席した。
池松壮亮が主演、蒼井優がヒロイン役で共演した本作は、塚本監督が出演、脚本、撮影、編集、製作も兼ねた完全オリジナル作品。開国するか否かで大きく揺れ動いていた江戸時代末期を舞台に、時代の波に翻ろうされる浪人・都築杢之進(池松)と、不穏な時代を精一杯生きる農家の娘・ゆう(蒼井)らの姿を通して“生と死の問題”に迫っていく。
司会者から最初に投げかけられたのは、各シーンに込められた“暴力と性”の要素についてだ。「1人の浪人が刀を過剰に見つめる」というコンセプトのもと練られた脚本は、「エロティシズムがなかった」という理由から撮影直前に改稿されていたようで「その要素をくっつけるのは少し不謹慎ではないかという気持ちもあったんです。しかし、そこを足さなければ嘘になる。やはり“人を斬れるか、斬れないか”というジレンマと性的な衝動は非常に近いところにあるという感触があった」と告白。さらに塚本監督自身が演じた澤村次郎左衛門役には、旧来の時代劇へのアンチテーゼ的な意味合いが込められていた。
「澤村自体は、時代劇にはよくいるキャラクター。このような人が活躍し“良い人物”としてもてはやされたわけです。ですが『斬、』においては『本当に良い人なのだろうか?』という疑問を感じられるような作りになっている。戦う場においてのヒロイズムへのアンチな気持ちがあった」と回答した塚本監督。序盤では“斬り合い”を省略し、ストーリーが進むにつれて血みどろの描写が増えていくという手法については「本当に恐ろしいことは、身の回りにくるまではイメージがつかめないということを表したかった。今の時代は戦争の痛みを知っている方が段々といらっしゃらなくなっている。イメージがつかめないから戦争へと近づいていく危機感のようなものを表現しなければならないと思った」と語っていた。
会場には、イランの名匠アミール・ナデリ監督の姿も。「女優、女性キャラクターの扱い方」について質問された塚本監督は「作品ごとに演出は異なる」と前置きしつつ「基本的にあるのは、女性の素晴らしさにひれ伏しているということ。女優さんへの敬意、尊敬の念はいつもあります」と答えた。「(蒼井には)細かい演出をせず、プロットをお渡しして『お願いします』と委ねた形。普段は脚本を読む時、1本筋が通ってから芝居されるようなんですが、僕の脚本では筋が通らなかったらしい(笑)。だから色々な表情を出していく方向にされたようで、そのプランが素晴らしかった」と蒼井の芝居を絶賛していた。
サウンドデザインは「自然の環境を取り巻く音に加え、刀は本来重いものであるということを重視した」と明かし、音楽に関しては2017年に亡くなった石川忠氏への思いを述べた。「編集の段階で亡くなられてしまったんですが、他の作曲家の方に頼む気はまったくなかったんです。石川さんへの鎮魂の意味も込めて『鉄男』から最新作の曲、ご自宅にあった音楽の断片を全部聴いて、映像に貼りつけていった。その間は石川さんと会話をしながら、今までの仕事を振り返るような時間になりました」としみじみと話していた。
「斬、」は、11月24日から東京・渋谷のユーロスペースほか全国で公開。
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