――孫ほど離れた女優との共演や濡れ場まであるチャレンジな役でしたね。
ベロニカ・ランガー(以下、ランガー):すごく大変なシーン、苦労したシーンがたくさんありました。でも、演技は自分の殻を打ち破り、もう一歩踏み出していくということ。だからこの役でそれに挑戦しろ、ということだったんでしょう。実際、飛び込んでやっているうちに、演技の熱気で何とかなっちゃうという感じなんですよね(笑)。ヴェロについては、いろいろと共感できる部分はあります。最後のほうのシーンでヴェロが自分で話を紡いでいき、エヴァがそれを手助けしてくれるという部分もあります。そこでは意識的に彼女に共感していったと思います。人生に対して自分が向かい合っていく中で、自分に正直に生きていくというところが共感できる部分ですね。
――死を見つめる、ということについては?
ランガー:実は私は母をガンで亡くしているんですが、この作品は生と死の両方を描いているので、母の死を感じてしまったのは仕方ないことかもしれませんね。死というのは生きることの一部でもありますが、それを受け入れるのはなかなか難しいことです。みんな「死」を他人事と思っています。でも考えてみると、それって自分にも起こること、みんなに起こることなんですよね。母はガンになって余命宣告された時に、“クオリティ・オブ・ライフ”を大事にしたいということで延命治療を受けなかったんですね。そういう意味で、自分の人生経験とヴェロの役柄が交差する作品でもありました。
――女性の生きる様を描き続けていますが、監督の女性観は?
マルセリーノ・イスラス・エルナンデス(以下、エルナンデス監督):すごく個人的な話になってしまうんですが、正直に言うと、自分が女性に囲まれて育ったことが、女性の生きる様を撮り続ける理由として大きかったんじゃないかと思います。父親は私が8歳の時に出ていってしまって、自分の家族は、母親と祖母と妹でした。今は妻と娘がいます。プロデューサーもふたりとも女性ですしね。女性らしい繊細さ、センシビリティが好きで、女性のそういうところに惹かれます。だから共感できる部分があるんだと思います。実際の撮影については、こういう女性を描いてああしてこうしてというのを決めてからやっていくのではなく、脚本を書く時に言葉を吐いていくというか、自分のアイデア、感じたことを言葉にしていくプロセスをとってます。たぶん私は、心で書いているんですよね。面白いのは撮影している時に、自分が書いた脚本を読みながらなんでこれを書いたのかがだんだん分かってくるんですよ。反芻して初めて自分の経験と脚本がリンクしていくのを感じます。
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――ほとんどをロケ撮影していますが、苦労は?
アンドレア・トカ:前半の撮影は基本的に2軒の家が中心でした。最後のほうである村に行ったんですが、メキシコシティからそんなに離れていないところにあったので、それほどの苦労はなかったんですね。この作品に関しては、最初から少人数でやろうと決めていたので、ロケに行った時も最低限の人数で、すごく家族的な雰囲気の中でリラックスしてできました。
ランガー:監督の映画は、基本的に近いところで撮影をするので、現場はリラックスしているんですよ。今回は4週間で撮影をしたんですが、3週間はメキシコシティで、残り1週間はテソンテペクというところでロケをしました。
――女性のバディ・ムービーということで、「
テルマ&ルイーズ」(91)を彷彿としましたが、何か参考にされた作品はありましたか?
エルナンデス監督:いろんなものにインスピレーションを受けています。脚本を書いていた時にイタロ・カルヴィーノの本「むずかしい愛」を読んでいました。それは成就しない人間関係というか、難しい恋愛関係を描いています。「
テルマ&ルイーズ」に関しては、ヴェロニカさんやエヴァ役のレナータさんなど、みんなの間で何度か話が出てきましたよ(笑)。あと個人的には、
小津安二郎にすごく影響を受けています。
――小津作品のように、日本映画が世界の映画人に与える影響があるように、近年はラテンアメリカ、特にメキシコ映画の影響は世界的に強いものになっていますね。
ランガー:本作のプロデューサーは本当に若いですよね。映画を学んでいたり映画に携わっている若い人はメキシコでは非常に多いですし、今はテレビシリーズのブームも来ています。確かに海外で受け入れられるのはすごくうれしいことですが、それと同じように自分たちの物語なのだから自国の人達にも見てほしい。そういうチャンネルを開拓していかなければなりませんね。
(取材/構成 よしひろまさみち 日本映画ペンクラブ)