「菊とギロチン」評伝小説著者、女力士と伊藤野枝の類似点挙げ「その強さを文章で描きたかった」
2018年7月26日 14:00
[映画.com ニュース] 映画「菊とギロチン」の評伝小説「菊とギロチン―やるならいましかねえ、いつだっていましかねえ」刊行記念トークイベントが7月25日都内であり、瀬々敬久監督と脚本家の相澤虎之助、アナキズム研究者で著者の栗原康、評論家の太田昌国、俳優の川瀬陽太が出席した。
瀬々監督が30年に渡り構想を温め続け、そして「ヘヴンズストーリー」(2010年公開)に次ぐ自主企画となる本作は、関東大震災後の大正末期を舞台に、実際に日本全国で興行されていた「女相撲興行」と実在したアナキストグループ「ギロチン社」が性別や年齢を越え、強く結びついていくさまを描き出すドラマ。
「大杉栄伝 ―永遠のアナキズム」「村に火をつけ、白痴になれ ―伊藤野枝伝」などの大正アナキストに関する著作を発表している栗原。世の中を変えたいという理想を掲げるものの、完遂できないギロチン社メンバーの人間らしい一面に触れ「彼らは寄せ場で出会った人々と仲間になり、落ちこぼれやろくでなしの人も上等という考えを持っている」「ダメでも開き直る発想は魅力的」と紹介。そして、昨今のニュースや社会状況に対し「大正時代より今の方が生産性のない人に厳しいと感じる」と持論を述べた。また、映画の小説化にあたっては、夫の暴力から逃れるために家を飛び出して女相撲の一座に入った登場人物を挙げ、「奴隷根性をいかに壊すかということを、男女関係や家庭にも当てはめて考えた伊藤野枝に似ている」といい、「その強さを文章で描きたかった」と語った。
瀬々監督は「アナキズムは完成形にならないというところに惹かれ、人と人とが共感し合うことを重要視した。また、アナキストにはユーモアがあり、開かれているところが素敵」と話す。「『やるならいましかねえ』と言っていますが、彼らはいつまでたってもやらないし、中濱鐵は『俺は詩人だから』と返すんです」と会場の笑いを誘った。
瀬々監督と共に脚本を担当した相澤は、「イデオロギーではなく、動物的に動くアナキズムは必負の歴史。そういう闘いをしていく部分を捨てたくなかった」といい、女相撲の描き方について「一座を有象無象にしたかった。アジア、アフリカから来た人もいる混民族のイメージがあった」と明かす。外国人のキャスティングはかなわなかったが、その代わりに与那国という女力士を誕生させた。
川瀬は「瀬々さんの鼻息をぶんぶん感じる今までにない現場。我々中年(俳優)部は楽しかったの言葉しかないけれど、女相撲の彼女たちの大変な状況がよくわかった。僕らも同じように取り組まなければと鼓舞された」と熱気溢れる現場の様子を振り返った。また、女力士の羽黒桜まつを演じた田代友紀が客席から飛び入り参加し、3~4カ月にわたって行われた厳しい相撲のけいこや撮影の裏話を語った。
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