細田守監督が98分で描く4歳児の冒険 「未来のミライ」で挑んだ子どもと動物の表現
2018年7月19日 16:00
[映画.com ニュース] 細田守監督の最新作「未来のミライ」の主人公は、甘えん坊な4歳の男の子“くんちゃん”。生まれたばかりの妹に両親の愛情を奪われて戸惑う“くんちゃん”は、自分のことを「お兄ちゃん」と呼ぶ、未来からやってきた妹“ミライちゃん”と出会い、家族のルーツにふれる不思議な冒険にでる。1男1女の父である細田監督は、幼い息子の姿を見て4歳児を主人公にした映画を着想、家一軒と庭ひとつを舞台に、自身初となる最少のモチーフに挑むこととなった。子どもの視点から家族の物語を描くことになった経緯や、現在のアニメ界に対して思うことを聞いた。
多くの家が立ち並ぶ街の、小さな一軒家を舞台にした物語――細田は、これまで以上にミクロな視点から物語を描こうとした。「今回は特に“片隅の話”として始めたいと考えていました。最初にスケールの大きさをアピールすることの多い映画のセオリーからするとチャレンジングだったかもしれません。今回は映画の尺を絶対に100分以内にしたいと思っていて、話のスケールからいってもベストの時間だとのイメージがありました」
4歳児の男の子を主人公にしたのは、幼い息子の姿を見て「4歳の子どもにも、大人と同じ葛藤がある」との発見があったからだと細田監督は語る。「妹が生まれて突然親の愛情を奪われた息子が、床を転げ回って泣き叫んでいるのを見たときに、これは人生につきまとう“愛”について苦悶する最初の瞬間ではないか」と感じた細田監督は、「これは映画になる」と考えた。
「子どもとは未成熟な存在で、大人はそこから成長して成熟した立派な存在であるとの考えをするのならば、4歳児はなかなか映画の主人公にはならないはずですが、僕は息子を見て、『4歳で、もうすでにひとりの人間だ』と感じました。大人と共通する魂をもつ子どもの視点から見た家族のありようを嘘なく描こうと思ったんです」
日本のアニメーションで多く描かれている子どもの描写を、「本質が描かれていないと感じることが多い」と細田監督は言う。「今のアニメーションで描かれているのは、“キャラ”としての子どもがほとんど。これは動物についても同じで、四本足で走ったり跳んだりする“動物”を描けるアニメーターはなかなかいません。そもそも描こうという志自体が日本のアニメーション界から、ほとんど失われていったようにも思います。昔の東映長編(※東映動画の長編アニメーション)では動物をきちんと描いていて、さらにもとをたどればディズニーが動物を描くことで、子どもの心にアプローチしていました。僕の映画に動物がよくでてくるのは、そうした原点を忘れずにいたいからでもあります」
4歳の主人公“くんちゃん”を描くため、細田監督はスタジオに子どもを連れて、アニメーターよるスケッチ会を行った。そこでは絵を描くだけでなく、子どもの重さや柔らかさ、匂いまで体験してもらったという。「子どもを抱っこしてもらったり、映画にもでてくる階段の上り下りを実演してもらう様子を見てもらったりしました。そのなかで、子どもを描く意義や喜びをアニメーターの方々に見つけてもらい、『描いていて楽しい』と言っていただけたのはうれしかったです」
「未来のミライ」の総カット数は約900カット。ほぼ同じ上映時間の「時をかける少女」は1260カットで、カット数が減ったぶん1カットあたりの時間は長くなり、アニメーターへの負担も増える。「実際に、子どもや動物を描くのはものすごく手間がかかります。上手いアニメーターの力をもってしても、とても難しいことですが、それでも情熱を傾けて描いていくことで、積みあがっていくものがあるはず」とアニメーターたちの仕事への手ごたえを語る。
4歳児を主人公にした映画づくりは「とても面白かった」と細田監督は振り返る。「自宅の庭が不思議な世界につながるとき、10歳ぐらいの子だったら『なぜ庭が変わったんだろう?』と戸惑いますが、くんちゃんは、その不思議さを不思議だと感じずにストレートに受け入れます。社会的な存在になった大人の僕らは、説明や理屈がないと前に進めないところがあって、その時点で不思議な世界からお呼びがかからない存在なわけです(笑)。4歳児の視点を借りることで子どもだった頃を生きなおして、これまでと違った世界の見方を発見できるような映画になっていたらいいなと思っています」
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