「ビューティフル・デイ」監督 ホアキン・フェニックスの「中年の危機に瀕した主人公に面白さを感じた」
2018年6月1日 16:00
[映画.com ニュース]個性派俳優ホアキン・フェニックスと「少年は残酷な弓を射る」のリン・ラムジー監督がタッグを組み、第70回カンヌ国際映画祭で男優賞と脚本賞をダブル受賞した「ビューティフル・デイ」が公開した。トラウマを持つ元兵士が、捕われた美少女を救う物語を、研ぎ澄まされた映像で描くクライムスリラーだ。来日したラムジー監督が作品を語った。
トラウマを抱え、暴力を恐れない元軍人のジョーは、年老いた母とふたりで暮らし、行方不明者の捜索請け負いで生計を立てていた。そんな彼のもとに、政治家の娘ニーナを捜してほしいとの依頼が舞い込む。怯える様子もなく人形のように感情を失っていたニーナを見つけるものの、ジョーの目の前でニーナは再びさらわれてしまう。
米作家ジョナサン・エイムズの短編小説「You Were Never Really Here」が原作。「脚色というよりも、この短編からインスピレーションを受けたと言うほうが適切です。原作者はこの映画をとても気に入ってくれました」と言うように、原作を換骨奪胎し、物語とキャラクターに深みを持たせた。
「中年の危機に瀕している主人公に面白さを感じました。ジョーは自殺願望があり、しかも母親と暮らしており、ハードボイルドな物語になかなかいないキャラクター。こういう物語は男性監督が手掛けることが多いからこそ、私なりの作品ができるだろうという予感がありました。原作の勢いを保ちつつも、自分なりにこのジャンル、タイプの物語を覆したら面白いんじゃないかと考えたのです」
そぎ落とされたセリフと、強度のある映像が独特の世界観を作り上げている。「脚本段階から映像的言語を書き込みます。ホアキンが全く登場せずに始まるオープニングも、観客にいつホアキンが出てくるのだろう、と思わせるようなタイミングにしたのもそのひとつ。実際に現場にロケに行き、そこからインスピレーションを受けて画作りをすることもあります。その日撮るショットリストで画を決めていく過程も好きです。現場で起きることも、オープンでなければいけません。例えば、ジョーがジェリービーンズを潰すシーンは、たまたま美術スタッフが用意したものを、ホアキンがアドリブしたのを見て、これはアップで撮らなければと思ったのです」
ジョー役のホアキン・フェニックスについては「もともと脚本を書き始めたときから、イメージがありました。PCに彼の写真を貼っていたので、ある意味当て書きですね」と明かす。「ホアキンは、現場に7週間前に入って、役作りをしてくれたんです。私は、腹筋が割れているようなマッチョなキャラクターになるのは望んでいなかった。だから太って、何かもろさみたいなものを感じさせてくれる身体を作ってくれたのです。彼は本当に映画作りが好きで、パブリックイメージはどうでもいいと思ってる。その姿勢に共感します。今回は、彼にとっても、私にとっても初めてのタイプのキャラクターと物語だったので、ふたりで発見しながらの道のりでした」
「こういう物語は男性監督が手掛けることが多い」と興味を持ったジャンルだが、反対に、女性と言う性を意識して創作することはあるのだろうか。「私は、全く自分の性別を意識して映画を作ったことはありません。ただ、自分が作るものと向き合うだけです。インタビューで、『女性作家としてどういう気持ちか?』みたいな質問は男性には絶対されませんよね。アメリカのプロモーションでも、私のことをよく知らない人に『あなたがジャンル映画をつくるの?』だとか、『女性映画を作ってほしい』と言われ、大きなお世話だよって感じました。作りたいものを作るのです。私の創作にフェミニズムをくっつけて論じられることが性差別だと思うのです」
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