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「いつでもアマチュア精神で」山崎努の俳優哲学 「モリのいる場所」で画家、熊谷守一に

2018年5月20日 07:35

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伝説の画家と呼ばれる熊谷守一を演じた山崎努
伝説の画家と呼ばれる熊谷守一を演じた山崎努
撮影/松蔭浩之

[映画.com ニュース]映画史に残る黒澤明伊丹十三監督作をはじめ、枚挙に暇のない傑作で唯一無二の存在感を見せ、日本を代表する名優のひとりとして知られる山崎努。13年ぶりとなる最新主演作「モリのいる場所」(公開中)で、憧れの人と公言する画家、熊谷守一に扮した。

「守一さんに関する書物は全部読んでいます。30年間一歩も自宅から出なかったという生き方をしている人がいるというところに惹かれました。そして、もちろん作品も。それから、自伝を読んだりして、晩年だけではなく、絵描きになる前や、なってからの人生にも触れていきました」

沖田修一監督の作品への出演は「キツツキと雨」(12)に続き2作目。モリという愛称で呼ばれる熊谷守一が、樹木希林が演じる妻の秀子らと過ごす晩年のある1日を、ユーモラスに描いていく。画家の人生を追うのではなく、その人となりや生活模様を活写した。

「伝記映画ではないので、実際の守一さんとは全く違うキャラクターの、我々が作ったモリを演じました。沖田監督の最初の作品『南極料理人』は極地があって、そこにかかわる人物の話。どうも彼は、場所が作品の大事な要素になっていて、今回は、モリが極地なのだと思います。モリが南極で、それにかかわっていく秀子夫人をはじめ、お手伝いの美恵ちゃんなど、全てが描かれていく。だから、僕はその極地の役割だったと思うのです」

徹底した役作りで知られているが、重要なのは「その人の持っている歪みを見つけること」。「守一さんのファンである僕は、守一さんの素敵なところを楽しみますが、役を作るときは、欠点というか、その人の持っている歪みを見つけないと演じられない。だから、僕は、誰が見てもかっこよく、みんなに好かれる二枚目の役は少ないですし、そういう役はお断りしています。どこか歪みがあるのが人間。役者として、守一さんのファンである僕とは逆の作業をしなければならないのです。今回、それを見つけるのが大変といえば大変でした」

芸達者な役者陣が顔をそろえる今作、自身は「アドリブは入れば入るほどいい」という考えだ。「自然に出てくるものがいいです。以前、他の作品の取材で『庭を造るのと、役を作るのは似ている』と言ったことがありますが、一応、自分の中で役を、ここに花を、ここに木を植えて……と造園するようにセッティングします。でも、机の上で考えていたプランをそのままやってもちっとも面白くない。現場で自然に生まれてくるものが大事。庭で言えば、雑草です。自分が植えたのではない雑草が意図せず生えてきて、それがきれいだな、と思えるようになれば成功ですね。演技しているときも、大勢スタッフがいて、風が吹いてきて、陽が出てきて、曇ってきて……という中で、なにか自分の全く意図しない物が生まれてくるとよいのです」

画像2(C)2018「モリのいる場所」製作委員会

そんな雑草のような美しさ、喜びが重なった映画になった。撮影日誌を綴った書籍「モリカズさんと私」(文藝春秋刊)では、「いつまでもアマチュアの心を持っていたい」という言葉を書き記している。

「昔から僕は、人のやらないことをやりたいんです。自分が思いついたことも、一度やったらやりたくない。それは、引き出しになってしまっているから。いつも、もっと新鮮なことをやりたいんです。いいことを思いつきたいし、いいことを感じたい。そういう意味では素人。積み重ねではなく、一回取っ払ってしまうのです。芸道や絵描きは、いつまでたっても先があるんだなんていうのを聞きますが、僕はあまりそういうのは好きじゃない」

俳優は天職か?と問うと「思いませんね」ときっぱり。「なんだか知らないけど、偶然いろんなものがあって、こうなって。なったら、なったなりに楽しいことも出てくるし、一生懸命集中してやってきたけれども、どこかで天職だとは思っていませんね。もっと別の自分もあるんじゃないかと感じます。これからも別に、俳優道を極めようなんていう気は全くないです。つまらなくなったら、いつでもやめてやるという気持ちでいますけど、でも、ほかにやることもない」と飄々と語る。

劇中で「もう一度人生を繰り返すことができるとしたら?」と妻に問うシーンがある。「僕は、同じ人生は選ばないね。これは、(天井を指し)あっちの人が決めてくれることだから。もし来世があれば、人間に生まれるのか、木か虫かわからないけど、自分が決めることじゃない。それは、役と一緒なんです。役も人が決めてくれるのものだから。今回の守一さんも、沖田さんが声を掛けてくださったからです」

若い映画製作者や表現者らに向けてのメッセージを依頼すると、「やはり、アマチュア精神で行くことだと思います。一度やったことは排泄物みたいなものだから、もう捨てちゃう。そういう心構えで。どんな職業もそうだと思いますが、10年やっているとそれなりに覚えていくことがあって、それなりに処理できてしまう。それをやっても、ちっとも面白くないから、何でもいつもゼロの状態から始めた方が楽しいと思いますよ」と穏やかに指南する。

今年で81歳。輝かしい過去のキャリアを回想することはないというが、「ただ、舞台の場合は、体力勝負だから50代が一番良かった。肉体的にも動けるし、役を作るときの考え方が、少しはわかって、自分なりに深まってくる。それが少しずつ増えてくると、体力がなくなっていく。その二つがバランス良く重なるのが、50代だったね」と振り返る。しかし、「俺は、何度でも生きるよ」と話す、劇中の94歳の守一にはまだ及ばない年齢だ。「最近はどんな作品でも回想シーンなんかで若作りのメイクをされるけど、そうですね、今回は珍しく老け役をやりましたね」と、はにかんだような笑みを浮かべた。

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