【映画プロデューサー・北島直明を知ってるか!? 第2回】通称・北島ノートに秘められた思い
2018年3月16日 18:30
[映画.com ニュース] 「22年目の告白 私が殺人犯です」を大ヒットに導いたことが評価され、エランドール賞プロデューサー奨励賞を受賞した北島直明氏に密着する連載第2回。前回から引き続き、最新作「ちはやふる 結び」完成に至るまでの極上秘話をお届けします。
「ちはやふる 上の句」初号試写を鑑賞した原作者や作品関係者の反応を見て、完結編「ちはやふる 結び」を実現させるために奔走してきた北島氏が、脚本を兼ねた小泉徳宏監督と二人三脚で作品と向き合ってきたことは誰もが知るところだ。
そんななかで、「ちはやふる 結び」のクライマックスシーンは、撮影日直前まで決まっていなかったことはご存知だろうか。北島氏もその事実を認めたうえで、「『結び』のエンディングは、『上の句・下の句』を通して『ちはやふる』という作品の全体のテーマを決める話になるから、監督は脚本執筆当初から『最後だけどうしよう』とずっと言っていました。もちろん決定稿にはクライマックスシーンは書かれているのですが、結局のところ監督の中では撮影直前まで描くべき内容は決まっていませんでしたね」と朗らかに笑う。
現場は、さぞかしハラハラしたことだろう。「もちろん早くしてくれ!ってなりますよね(笑)。僕は監督にずっと寄り添ってきたし、脚本も打ち合わせをしてきたので、最終的にラストは脚本に書かれている内容から大幅に変わるだろうなと思っていました。案の定、10数ページの差し込みが入りましたが、僕は驚きませんでした。逆に待ったかいがあって素晴らしい展開だと感動しました」。
本編を見れば、小泉監督が粘った成果が見て取れる。北島氏の言葉からも、クライマックスシーンがエンディングにもたらす説得力が考えていた以上のものであったことをにじませる。
「『結び』という作品が、競技かるたに本気で取り組んできた瑞沢高校かるた部全員の未来を描くべきなのか、千早の未来を描くべきなのか、果たしてその両方なのか。もしくは彼らを描かず、千早たちが作った瑞沢かるた部の未来を描くべきなのか。百人一首は1000年前から現在まで連綿と続いているんだ、ということを僕達が体現するとどうなっていくのか……という1つの答えが映画『ちはやふる』なんです。そして、悩み抜いて出した答えは、実は監督が最初に書いてきたプロット稿に書かれていたんですよ(笑)。とても遠回りしたけれど、悩んだ過程があったからこそ、答えは間違っていないと思えるんです」。
一事が万事、この通りで、北島氏はもちろん小泉監督も想定し得る全ての事象を試してみないことには納得がいかない。無論、作品のためになるならば、時間無制限で分析を続ける。
「僕、単純に分析するのが好きなんです。そもそも『結び』を作る前に、前作の良いところ、ダメなところを徹底的に検証しました。今回の『結び』では、千早が高校3年生ですが、原作の高校3年生時点では部に2年生と1年生が存在しているんですよ。瑞沢高校かるた部自体がすごく大きくなっている。でも、完結編でいきなりワアッて増えていたら、原作を読んでいないお客様が混乱しますよね。だったら設定を変えなければならない。設定を変えても作品のテーマ性、僕らが描こうとしていることからぶれないようにするためには、誰を選ぶべきなのか。そして選んだ子たちをどう描くのかをいろいろとシミュレートする必要がありました」。
今回のオーディションも苛烈を極めたと思ったのだが……。「『上の句・下の句』のオーディションに比べると、驚きが少なかったなというのが全体のイメージです。なんでだろう? と考えたところ、この2年間で学園ドラマが少なくなっているんですよ。ということは若い俳優が経験する場所がないんですね。学園ドラマは、恋愛映画と違いメインの役以外にも1クラス分のクラスメート役があって、芝居を経験するにはとても良い経験だと思うんです。かつては『ごくせん』や『ROOKIES』がありましたが、あの年代が豊作と言われているのは、若い役者が力試しをする場所があったからだと感じるんです。だから、いま僕がやらなければならないのは、若い俳優が活躍できる場をなるべく多く作ることだと思っています」。
そんななかで主要キャストに抜擢されたのが優希美青、佐野勇斗、清原果耶の3人だ。この若手3人の話題になると、北島氏の表情はおもむろに綻び、彼らの頑張りを手放しで称賛する。「美青の今回にかける覚悟は相当なものがありました。1回目のオーディションでは緊張していたのか、うまくいかなかった。だけど、帰り際にものすごく悔しそうな顔をして出て行った。その時の顔を見て『おっ』と思ったんです。それで2回目のオーディションにも来てもらいました。そうしたら、1回目とは大きく変わって来てくれた。素晴らしかったですね。勇斗は怖いもの知らずなところがあって、自分のしている事が正しいか間違っているか考えず、とにかく最後までやりきるところが良かった。ちゃんと原作のことを考えてきましたし、百首も覚えてきましたから。そして、果耶に関しては驚きでした。一目見て『うわ、すげえのが来た』って思いました。(演じた我妻伊織の)キャラクターが固まっていなかったのですが、彼女が現れたことで固まったくらい。そんな事もあって、年齢設定すら彼女に合わせました。美青、勇斗、果耶は、『結び』の象徴でもあるんです。高校3年生の千早たちが卒業した後、あの世界に残るわけですから。未来の象徴ととらえていたし、『あなたたちが千早たちの世界を引き継ぐ存在なんだよ』と」。
北島氏は、若手であろうがベテランであろうが分け隔てなく“大切に”寄り添う。それは、オーディションで結果的に落とすことになってしまった役者たちに対しても同じだ。筆者は「北島ノート」と呼んでいるのだが、作品ごとにオーディションノートを作成し、オーディションで顔を合わせた全ての役者の名前が書き込まれている。そして、その作品では縁がなかった役者の欄には、担当マネージャーにいつ会っても伝えられるように、何が敗因の理由だったのか、芝居のいいところ、悪い癖などメッセージをこと細かに明記している。「僕は特別なことをしているとは思っていません。『22年目の告白』や『オオカミ少女と黒王子』の時もオーディションしているんですが、大人の俳優であろうが子役であろうが、毎回全員メモっています。役者の人生を預からせて頂くって、そういう事だと思うんです。オーディションは当人の人生を変えてしまう可能性があるわけですから」。
そして、おもむろに「『結び』は良かったなあ。面白くなったなあ」と手応えのほどをにじませる。その理由に関しては、「2年間という時間のおかげだと思うんです。2年間、誰ひとりとして手を抜かずに生きてきたことが作品をさらに上のステージに押し上げてくれた。(広瀬)すずは、前回が主役だとすれば今回は立派な座長だった。勢いでやっていた(野村)周平も、きちんと組み立てながらお芝居が出来るようになった。ほかのキャストはもちろん、全スタッフ、誰も彼もが2年間を無駄にしてこなかった結果なんですよね」と噛み締めるように、訥々と説明を続けた。
最後に、北島氏は「ちはやふる 下の句」クランクアップ直前に現場でキャスト陣に話したことを打ち明けてくれた。「クランクアップ前日くらいだったかな、役者や事務所関係者に話したんです。『このメンバーで10年後か20年後か分からないけど、もう一度結集して、その時その瞬間でしか撮れない映画を撮りましょう。そのために、これからも手を抜かずに生きていきましょう。僕もみんなに負けないように頑張ります』って。それが思いのほか早く実現しちゃったのが『ちはやふる 結び』なんですよね」。
完結編という形で3月17日の公開を待つばかりだが、映画ファンならずとも、いつかまた更に成長した広瀬すず、野村周平、新田真剣佑らがスクリーンで対峙する姿を見てみたいと思うのは、わがままなことではないはずだ。さて、次回は題目をがらっと変えてお届けする予定です。乞うご期待ください。(映画.com副編集長 大塚史貴)
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