【デル・トロ監督インタビュー:前編】「シェイプ・オブ・ウォーター」のタイトルに込めた真意
2018年2月27日 15:30
[映画.com ニュース] 監督最新作「シェイプ・オブ・ウォーター」で第90回アカデミー賞最多13ノミネートを記録した鬼才ギレルモ・デル・トロ監督が、ノミネート直後の1月下旬に来日。映画.comでは、作品の舞台裏やテーマ、自身の映画作りへの思いなど、デル・トロ監督がインタビューで語った生の声を全2回に分けてお届けする。
世界の映画賞で87受賞・268候補(IMDbより。2月26日時点)と驚異的な支持率を誇る本作は、とある出来事によって声を失った清掃員イライザ(サリー・ホーキンス)と、イライザの職場である政府の極秘研究所に捕らわれた不思議な生き物の絆を描いたファンタジックなラブストーリー。イライザと“彼”の恋愛以外にも、各キャラクターごとに同性愛、夫婦愛、隣人愛といったさまざまな愛のドラマがちりばめられ、“愛の多様性”を感じさせる芳醇な仕上がりになっている。
デル・トロ監督は「男女の愛やロマンチックな愛、友情、仕事や科学に対する愛。または、誰かのために何かを行う(献身的・自己犠牲的な)愛。“愛”というのはさまざまな形を持っている。水も同じだよね。決まった形がなく、色々な形になる。僕は、“愛”と“水”は同じだと思っているんだ。(本作では)愛の可能性について探りたかったんだよ」と慈しむようなまなざしで語る。監督の思いは本作のタイトルにも反映されており、「シェイプ・オブ・ウォーター(水の形)」は、人物ごとに姿を変える「愛そのもの」を示している。
本作は水中で眠るイライザをとらえた幻想的なシーンから始まり、その後も「2分ごと、3分ごとに水が何らかの形で出ているんだ。水を飲むとか、涙を流すとか、雨が降るとか、卵をゆでるとかね。常にそれは意識していたよ」と監督が語る通り、水、つまり愛のメタファーが随所に登場。見る者に愛の流動的なイメージを強く印象付ける。さらにデル・トロ監督が重視したのが、「寓話、おとぎ話であること」。「大きな思想、例えば“愛”であったり“平和”を語りたいときは、寓話として語った方がより分かりやすいと思うんだ。日本では、自然界のことを説明するときに妖怪がいるよね。(監督の故郷)メキシコにも、そういった存在がたくさんいる。だから人間より大きなものを説明するときには、こういった形式がよいのではないかと考えたんだよ」。加えて、「スリラーであり、ミュージカルでもメロドラマでもあるが、流れるように作らなければいけない。ぎくしゃくと色々なジャンルのものがあるわけではなく、流れるように、水のようにね」と流動性を念頭に置いて脚本の改稿を重ね、ストーリー展開を模索し、細部にまで緻密に仕上げていった。
「パンズ・ラビリンス」や「パシフィック・リム」など“異形のもの”への偏愛を前面に押し出した作品で知られており、本作でも人間とクリーチャーの愛が描かれるが、「この映画の準備のために、モンスタームービーは一切見なかったんだ。子どものころにさんざん見ていて、もう自分のDNAの中に入っているからね」と笑う。「その代わり、クラシカル・ハリウッド・シネマをいっぱい見たよ。特にダグラス・サーク、スタンリー・ドーネン、ウィリアム・ワイラー、ビンセント・ミネリの作品をね。本作はストーリーがあまりに奇妙だから、昔のハリウッド映画が持つ美しい雰囲気、クラシカルな雰囲気を出したかったんだ」と「ローマの休日」や「雨に唄えば」を生み出した巨匠たちに学んだという。
そうして出来上がった作品は、デル・トロ監督の集大成と絶賛され、本年度のオスカー最有力候補にまで上り詰めた。監督自身も、「この映画は自分の中で特別で、僕自身この映画を通して大人になったようなところがあるんだ。(コレクターとして知られているが)この作品は僕の購買欲を抑えてくれるというか、その代わりになるような満足感を与えてくれた」と感慨深げに語る。
世界的な“オタク監督”として、日本でも高い人気を誇るデル・トロ監督だが、ハリウッドの第一線において個性を保ち続ける秘けつはどこにあるのか。「僕は、私生活よりも映画の中に全部人生があるようなところがある。だから、題材に信念を持つというか、完璧に信じるしかない。今回だって、喜劇でスリラーでミュージカルでドラマで、不思議な生き物と口のきけない女性の愛のストーリーだと言ったときに、誰も信じてくれなかった。でも、僕は信じないといけない」。柔和ながらも力強く言い切ったデル・トロ監督こそが、本作のテーマである“愛”の体現者なのだろう。
続く後編では、物語のキーキャラクターである“彼”の造形についてひも解いていく。
「シェイプ・オブ・ウォーター」は、3月1日から全国公開。
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