専門家が熱弁する「ユダヤ人を救った動物園」夫妻の偉業とは?
2017年11月18日 14:00
[映画.com ニュース] 第2次世界大戦中のポーランド・ワルシャワで、ナチスドイツから迫害を受けていたユダヤ人を動物園の檻にかくまい、300人の命を救った夫婦の実話を映画化した「ユダヤ人を救った動物園 アントニーナが愛した命」のトークイベントが11月17日、都内で開催された。赤十字国際委員会駐日代表のリン・シュレーダー氏と、NPO法人ホロコースト教育資料センター代表の石岡史子氏が参加し、映画を解説した。
「ゼロ・ダーク・サーティ」「インターステラー」「女神の見えざる手」で知られる実力派ジェシカ・チャステインの最新主演作。作家ダイアン・アッカーマン氏のノンフィクション「ユダヤ人を救った動物園 ヤンとアントニーナの物語」を基に、「クジラの島の少女」のニキ・カーロ監督がメガホンをとった。
赤十字国際委員会は、スイスのジュネーブを本拠地とする国際組織。戦争や武力紛争の犠牲を強いられた人々に対し、人道的保護と支援を行っている。その駐日代表であるシュレーダー氏は、本作の感想を「自由に何の不自由もなく生活しているところに、急に前触れもなく戦争が襲ってくるところが印象的でした」と語ったほか、心を動かされたシーンを2つ挙げ、「1つは、子どもを列車に乗せるシーン。子どもたちは小さすぎて何が起こっているのかわからない。でも我々(観客)は、収容所に連れていかれると分かるので、見ていてとてもつらいシーンでした。もう1つは、ある人物とアントニーナ(チャステイン)が再会するシーンです。離ればなれになった家族が再会する光景を私たち(赤十字職員)も何度も目にしているのですが、非常に感動的でした」と述べた。
シュレーダー氏は、アントニーナと夫ヤン(ヨハン・ヘルデンベルグ)の姿に感銘を受けたといい、「紛争のある国や地域で働いていた経験を経て、自分はアントニーナのように人を救うことができただろうか?と自問してしまいます。一般の人が、特殊な状況に置かれ、知らない人々を助けていく。知らないうちに、彼女も英雄になっていく、という作品だと思います」と民間人だった夫妻の勇気をたたえた。
対する石岡氏は、「ポーランドには、ナチスドイツの占領前は約330万人のユダヤ人が暮らしていました。でも、占領下で300万人が殺害された。90%以上が殺されていたことを考えると、この行為の重さが迫ってくる」と当時の時代背景を鑑み、シュレーダー氏と同じく夫妻の偉業を称賛。「この映画を見ると、ハラハラドキドキして、こんなに素晴らしい夫妻がいて救われた命もあったのだと思います。恐怖に打ち勝つといっても、行動に移すということは難しい。アントニーナとヤンも最初は友人を助けましたが、救助の範囲がどんどん大きくなっていった。何か1歩踏み出すと、協力者が現れて希望も感じられる気がします」と語った。
石岡氏はさらに、「日本だと、平和について考える機会は1年に1回、8月しかない。この映画をきっかけにして、ちょっと時間をとって考えることが大切ではないかと思います」と述べ、本作を触媒とし、人々の平和への意識が高まることを願っていた。
「ユダヤ人を救った動物園 アントニーナが愛した命」は、12月15日から全国公開。