リリー・フランキー、石井輝男監督13回忌追悼イベントで奇才との思い出語る
2017年10月6日 15:00

[映画.com ニュース]2005年8月12日に逝去した奇才・石井輝男監督をしのぶ「石井輝男13回忌追悼トークイベント」が10月5日にLOFT9 Shibuyaで行われ、リリー・フランキー、杉作J太郎らをはじめとした、石井監督にゆかりの深い映画人たちが多数来場。故人の思い出を語り合った。
高倉健をいちやくスターダムにのし上げた「網走番外地」シリーズなどのアクション映画を手掛ける一方で、「徳川女系図」など倒錯した性愛の世界を描きだした「異常性愛路線」シリーズなどで知られる奇才・石井輝男監督。「キング・オブ・カルト」の名のもとに、その独特な世界観で根強いファンを持つ作品群の中でも、石井輝男再評価のきっかけとなった禁断の作品「江戸川乱歩全集 恐怖奇形人間」がファン待望の日本初ソフト化。さらに、エログロ描写が衝撃的な「残酷異常虐待物語 元禄女系図」「やくざ刑罰史 私刑(リンチ)!」を合わせた3作品が、石井輝男監督13回忌の追悼の意を込めて晴れてDVD化。その発売を記念して、この日のイベントがとり行われることとなった。
近年、俳優としてひっぱりだこのリリーだが、俳優デビュー作は石井監督の遺作となった「盲獣VS一寸法師」となる。「超エリートですよね。デビューが石井輝男さんの映画で、2本目が杉作さん(「怪奇!! 幽霊スナック殴り込み!」)の映画。普通、この世にいないですよ」と笑うリリーは、「石井さんの映画が大好きでずっと観ていたし、原稿もしょっちゅう書いていた。だから生の石井輝男の現場が見られるというのが一番だった」と俳優チャレンジの理由を述懐。「実はこのオーディションは長谷川博己君や宇野祥平君が受けているんですが落ちてしまっているんです。でも落ちて大正解ですよ。一回、石井組に通ってしまったら、次は杉作組に入らないといけないんで、役者として遠回りですよ」と語り、会場を沸かせた。
そんな俳優リリー・フランキーについて「人間はどうしてもカメラの前に立つと演じたくなるじゃないですか。でもリリーさんは、演じないことができる。なぜならこの人は石井さんの洗礼を受けているから」と指摘する杉作は、「リリーさんは作った芝居じゃない。そこが石井さんに好かれたところ。彼はカメラの前で動かずに、演じずにいられるんですけど、そういう役者さんは珍しい。実は『つげ義春ワールド ゲンセンカン主人』の撮影初日の時に、僕は佐野史郎さんたちと一緒だったんですけど、数日後に現場に入ってきた、きたろうさんに『この現場は大変だ。演技したら怒られる』と佐野さんが言っていたのを思い出します。僕も前の晩から演技のけいこをしてしまったもんだから、現場に入ったらもう大激怒。僕は本当に監督から怒られてばかりでした」と笑いながら述懐する。
それを受けて、「石井さんに言われたことで守っていることがあるんです」と切り出したリリーは、石井監督から言われたという「君は本当にいい俳優だ。もしセリフが言えなかったとしても、涼しい顔で帰っていくから。監督というのは、撮りながら頭の中で編集しているものなんで、監督がオッケーと言ったらオッケーなの。君は監督を信頼してスーッと帰っていくところがいい。もう一回やらせてくれといったことがないから」というコメントを紹介。役者リリー・フランキーの原点ともいうべきその言葉を聞いた杉作は「ある役者さんがもう一回撮ってくださいと言ったことがあったんですけど、石井さんは助監督に命じて、カメラにフィルムを入れずに撮るまねをしたそうなんです。石井監督にはもう一回というのがないんですね。ある意味、厳しい人ですよ」としみじみ付け加えた。
生涯で80本以上の劇映画を監督した石井監督。徹底的に見せ物小屋的な娯楽に徹し、強烈なインパクトを残すそのフィルモグラフィをあらためて見て、「これだけの本数を撮っているのに、石井さんしか撮ることのできない映画ばかり。普通の監督なら下手したら、一本でも撮ったら命とりですよ」と笑ってみせたリリー。「以前、監督から『リリーちゃんは映画を撮りたくないの?』と聞かれたことがあって。撮りたいですねと答えたら、『撮りゃいいんだよ。つまんないものができたらまた次のを撮ればいいんだよ』と。普通、映画を作ることって構えるじゃないですか。でも石井監督にはそれがない。そういったことを若い人たちに教えていましたね。あの時の若い子たちが今は偉くなって。よく現場で会いますよ」と付け加えた。
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晩年は特に創作意欲が旺盛だったという石井監督。「盲獣VS一寸法師」の台本の最後には「今後のラインアップ」として8本近く新作企画の構想が記されていたという。その中の一本、セルジオ・レオーネ監督の「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ」に着想を得たという「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ジャパン」についてリリーは、「リリーちゃん、最後の映画は(高倉)健さんとやりたいんだよ」と言われたことを明かす。それについて「健さんのギャラだけでも大変なことになりますけどね」と笑った石井プロダクションの下村健氏は、「実は監督が亡くなってから、高倉健さんがお焼香に来られたことがあって。その時、監督からいただいたお手紙に書いてあった『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ジャパン』についてうれしそうにお話されていたことを思い出します」と懐かしそうに付け加えた。
そのほか、本イベントには、石井監督と共に仕事をした山際永三、伊藤俊也、内藤誠、掛札昌裕、瀬戸恒雄、本田隆一らが登壇。新東宝から東映に移った当時の石井監督との思い出話に花を咲かせ、このほどDVD化された「残酷異常虐待物語 元禄女系図」「江戸川乱歩全集 恐怖奇形人間」の脚色を石井監督と共に担当した掛札は「浅草で散々遊んでいた人。人をあっと驚かせるような見世物的な、江戸文化を引きずっていた人なのかな」「ボルボを颯爽と乗り回しているのに、厚揚げばかり食べていた。そういう部分にスマートなところと人情的なところが出ていた」と石井監督の人となりをしみじみ振り返っていた。
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