安藤サクラ、「百円の恋」から「次の一歩を踏み出せた」 新藤風監督「島々清しゃ」で好演
2017年1月20日 17:00
[映画.com ニュース]日本映画史にその名を刻んだ故新藤兼人監督の孫の新藤風監督が、11年ぶりにメガホンをとった長編監督作「島々清しゃ(しまじまかいしゃ)」が公開する。子役の伊東蒼と安藤サクラのダブル主演で、沖縄・慶良間諸島の小島を舞台に、音楽を通じて人と人の絆を描いた。本作のタイトルにもなった沖縄民謡で歌われる、南の島の清らかで美しい佇まいが、登場人物と観客を優しく包み込む作品だ。安藤と新藤監督に話を聞いた。
特殊な音感を持っているために、変わり者扱いされている少女うみは、東京から沖縄へやってきたバイオリニストの祐子と出会う。うみは、祐子と地元のサックス奏者が指導する吹奏楽部に参加し、頑なに閉ざしていた自分自身を少しずつ解放していく。伊東が少女うみ役を、安藤が祐子役を演じる。
日本アカデミー賞最優秀主演女優賞ほか、数々の映画賞で話題をさらった「百円の恋」の後、安藤にとってはおよそ1年ぶりの映画出演となった。「『百円の恋』『白河夜船』と主演作の撮影を終えてからは先々のことをまったく考えずに、1年以上暮らしていたので、これから自分はどうするのかという、すごくシンプルな問題があったんです。この役をやるとかやらないとかの前に、緊張と不安がまずあった」と明かす。
新藤監督と、沖縄の島の環境が安藤の背中を押した。等身大の役ともいえる祐子をみずみずしく体現し、劇中では猛特訓に励んだというバイオリンをのびのびと披露している。「近代映画協会製作の、風さんの久しぶりの作品。そこで安心できたことが、次の一歩を踏み出せたし、あとは島の環境に魅かれて。この映画に出たい、というより、映画の中に入りたい、そこにいたいと思ったのが、大きいですね。一女性として自分自身がどうするのか迷っているところから参加することができた。そう考えると、(自身が演じる)祐子が島に行く前の感じと一緒だったと思います。この作品と出合った方が変われるんじゃないかという、賭けでもありました。バイオリンという試練はありましたが(笑)」
新藤監督の前作「転がれ!たま子」(2006)で音楽を担当した磯田健一郎氏が本作の脚本を執筆。映画化のオファーを受けた新藤監督は当時、「祖父の死にまいっていた」という時期だったそうだが、「29歳から36歳までを祖父に捧げていたので……その間は宝のような時間だったのですが、自分の人生を構築するためのことはやっていなかったので、自分に自信がなくなっていました。そんな時にこの映画のあるセリフが『いつまでも逃げていたら望みはかなえられないよ』と自分自身の胸に突き刺さってきて、この映画を撮ろう、撮ることで自分の人生を生き直したいという気持ちになった。この作品が優しく穏やかだったから映画に帰ってこれたような気がします」と述懐する。
人口わずか70人ほどの慶留間島をメインに、阿嘉島、座間味島でロケを敢行。美しい海と自然に囲まれ、どこにいても島の人の顔が見えるようなアットホームな環境で撮影した。安藤にとっても新藤監督にとっても、映画人としての新たな一歩を踏み出すきっかけとなる思い入れ深い作品になったと振り返る。
「この現場で自分の持っている垢をそぎ落としてもらえた感覚がある。風監督の11年ぶりの作品ですし、楽器に挑戦したり、子供と大人が新しいことにのびのびと取り組んで、世代を超えてみんなで青春してた。人間の五感で感じるすべてを島に助けてもらって、どんな人の心にも素直に響くと思うし、見た翌日の朝が気持ちがよくなるような映画」(安藤)、「苦しくても一生懸命自分の望みのために手を伸ばす少女と、一所懸命生きているはずなのに、自分の人生を生きてると胸張って言えない大人たちの話。島の力、音楽の力、子供たちの力が作品に力を与えてくれています。すごく、シンプルだけれど、島の空気が体の中を吹き抜けていくような、空っぽになった時に大事なものが残る、そんな映画になったと思います」(新藤)と笑顔で今作の魅力を語った。
「島々清しゃ」は、1月21日から東京・テアトル新宿ほか全国公開。
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