ウィーン美術史美術館の大規模改装から再オープンを追う「グレート・ミュージアム」監督に聞く
2016年11月25日 07:00
[映画.com ニュース]ヨーロッパ三大美術館の一つとして知られ、2016年で創立125周年を迎えるウィーン美術史美術館。2012年の大規模改装工事から再オープンまでの舞台裏に密着したドキュメンタリー「グレート・ミュージアム ハプスブルク家からの招待状」が11月26日から公開される。かつて美術史を学んでいたというヨハネス・ホルツハウゼン監督に話を聞いた。
館長をはじめ、清掃員、運搬係、美術史家と、美術館に携わるスタッフたちの一人一人が美術品と共存しながら働く姿を、解説、インタビュー、音楽を排したダイレクトシネマの手法で構成した。
映画の勉強を始める前に6年間美術史を学び、美術品への思い入れが深いというホルツハウゼン監督。90年代に美術史美術館で修復家として働いていた友人を訪ねたり、美術館のワークショップに参加し、舞台裏を覗く機会に恵まれたことが本作製作のきっかけになった。
「当時は、この美術館の映画を撮ろうとは考えていませんでしたが、ザビーネ・ハークが館長になり、何か企画が実現できるのではと考えるようになりました。最初は、様々な美術館の要素を組み合わせて、架空の美術館を作るというエッセイのような作品を思い描いていました。しかし、共同脚本のコンスタンティン・ウルフが、作品に必要なものはすべてこの美術館に備わっていると私を説得し、彼はウィーン美術史美術館が私にとってパーフェクトな場所になると確信を持っていました」
製作にあたり、自身でルールを設定した。「“美術品”そのものではなく、必ずそれにまつわる“仕事”を通して作品を見せるということです。しかし、映画のラストだけは意図的にこのルールを破っています。また、インタビューはしないことも決めていました。その方が働く人々のありのままに迫った興味深い作品となるからです」
フォーカスする対象はどのように選んだのだろうか。「私は実用的で物事の展開をじっくり待つタイプですが、何が正しいかを察知する直感力も持っています。こちらが起きて欲しいことは、必ず実際に起きる。例えば私が着目したのは、自然と芸術の境界です。フェンシングをするカエル、ホッキョクグマの毛皮など、美術館のコレクションの中で、自然のオブジェを見極めようとしました。この美術館では18世紀後半に、アートと自然の驚異を物語る2つのコレクションに分けられ、のちに美術史美術館と自然史美術館が建設され、向かい合うかたちで所蔵されるようになりました」
「一瞬のはかなさにフォーカスを当てたかったのです。美術館では、遥か昔に灰となった人々の姿を絵画や彫像で見ることができます。さらに私は、美術館員たちのはかなさをも表現したかったのです。彼らは、自身の一生や個人をはるかに超えて永遠とつながる鎖の一部となっています。本当に素晴らしいことです」
さらに美術史美術館のもう一つの魅力として、オーストリア第一共和国時代の皇室の遺産品を挙げる。「美術館がまるで皇室の代表的な遺産を現在に伝え運ぶ船のような役割を果たしています。最初に興味を持ったのは、どの程度まで歴史を遡った作品があるのか、そして美術館が歴史的な資料とどのように関わっていくかということです。今まで大統領官邸にあった数点の絵画が美術館に所蔵されると聞き、このエピソードは必ずカメラに収めなくてはと直感しました」
特定の施設を描くドキュメンタリーが、興味深いものになる理由については「人間が何かに属する姿を描いているからだと思います。フレデリック・ワイズマンの多様な作品のように、題材が何であっても構いません。このジャンルでは、登場する人々が同じ目標を持って結束し、どうやって周囲と調和しているかを描いています。同様のテーマは幾度となく繰り返され、そこには感情の渦が生まれます。それが、映画を面白くする秘訣であり、あとはただ観客に提示するだけです。そういった施設とドキュメンタリーは非常に相性がいいのです」と持論を語った。
「グレート・ミュージアム ハプスブルク家からの招待状」は、11月26日からヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国順次公開。
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