松居大悟監督、3年前に参加した東京国際映画祭で芽生えた欲
2016年10月30日 22:00
[映画.com ニュース] 今年の東京国際映画祭コンペティション部門には、日本映画は2作品エントリーされた。そのひとつ「アズミ・ハルコは行方不明」は、山内マリコ氏の同名小説を原作にした青春人間ドラマ。蒼井優、高畑充希という人気女優をメインにおきながらも、独創的な構成と過激な演出で、商業映画とは一線を画する仕上がりに。これまで「ワンダフルワールドエンド」や「私たちのハァハァ」などを手掛けた松居大悟監督が、初のコンペ入りを果たした。
松居大悟監督(以下、松井監督):3年前の東京国際映画祭で「自分の事ばかりで情けなくなるよ」が日本映画スプラッシュ部門に参加することができたんですが、そのときに深田晃司監督の「ほとりの朔子」がコンペティション部門に出品されていたんですね。あのときから今作にも出演している太賀は面識があったので、コンペティション出品作の出演者で海外作品やゲストと肩を並べている姿をみて、まぶしく映ったのを憶えています。もちろん、東京国際映画祭に参加できるだけでも嬉しいんですが、あれを見て欲が出てきたんですね。コンペにも出品したい、と。でも、さまざまな条件やタイミングが合わないと出品はできないんですよね。その点、この作品はベストなタイミングで撮影、公開予定となっていたので、僕だけでなくスタッフみんなの間でも、東京国際映画祭出品は共通の目標となりました。
見事コンペ出品を果たした感想を聞くと、このように喜びに溢れる答えが返ってきた。それもこれまでの彼の作品とは、毛色の違う作品で出品を決めたことにはどのような思いがあったのだろう。
松居監督:これまでずっと10代を主人公にした作品を作り続けてきたので、同世代の人を描いたのは初めてのことです。座組に関しても、スタッフと一緒に作ったという思いがある作品です。映画を作るということは、豊かさを形にして成功させないといけないと思っているので、この作品を手掛けることができてよかったと思っています。総合芸術、ということに初めて近づいたという気がしますね。
映画は娯楽であると同時に総合芸術でもある。この気概を感じさせるだけのものがこの作品には宿っている。とかく商業映画に寄りがちな今の日本映画界には絶対的に必要な考えだ。
松居監督:私にとって映画は、商業的とか単館系とかインディペンデントとか、分け隔てなく考えています。演出スタイルもそうで、私が舞台演劇出身だからこういう方法を、ということは意識していません。ただ、潜在的にはどうしても舞台演出に近いんでしょう。現場で何を気にするかといえば、画作りではなく役者の芝居ですから。
本作は、アラサーのOLアズミ・ハルコ、成人したばかりのアイナ、そして謎の少女ギャング団という3世代の女性たちを軸に展開する青春ストーリー。原作の設定はほぼそのままだが、時系列をバラバラにし再構築したことで、独自の世界観を生み出した。
松居監督:舞台は空間を作り描く芸術ですが、映画はそこにさらに時間を飛び越えることができる面白さがあると思います。まさにこの作品ではそれに挑戦できました。これも原作があったからできたことです。ただ、これをストレートに描いた映画を作ったとしたら「こういう理由があって、こういうことが起きて、行方不明になった」と、理屈で見てしまいますよね。それはいやだったんです。そもそもハルコが失踪すること自体は、本質的なテーマではありませんしね。“行方不明”というキーワードに“自由”や“解放”という意味を持たせることができれば、ということ、そして理屈や言葉にとらわれるな、というメッセージを込めて作りました。
その実、パッと見ただけではバラバラになった時系列に困惑するだろうが、役者の芝居を注視すればするほど、“女性の思慮深さ”と“男性の浅はかさ”が浮き彫りになる。
松居監督:この作品を作りながら思ったのが、男はどうしようもないということ。女子高生からアラフォーまでの女性がこの作品には登場しますが、彼女たちはその世代世代ですごくいろいろなことを考えているんです。それに対して男は、ユキオや学の時点でストップしている。多分自分もそうなんだろう、と考えさせられましたね。女性が一生かけて3周くらいすることを、男は1周以下しかできないで終わる。女性はそれだけ戦う相手が多いということがよくわかりました。特にこの作品の舞台となる、閉塞的な地方都市ではなおのことで、女性であるだけで否定されることが多すぎる。おそらく女性監督だったら見過ごすことも、男である私だから気付けたんじゃないかと思うんです。だからこそ、観てくださる方にも、そういった理不尽に気付いてもらいたいと願っています。
関連ニュース
映画.com注目特集をチェック
関連コンテンツをチェック
シネマ映画.comで今すぐ見る
父親と2人で過ごした夏休みを、20年後、その時の父親と同じ年齢になった娘の視点からつづり、当時は知らなかった父親の新たな一面を見いだしていく姿を描いたヒューマンドラマ。 11歳の夏休み、思春期のソフィは、離れて暮らす31歳の父親カラムとともにトルコのひなびたリゾート地にやってきた。まぶしい太陽の下、カラムが入手したビデオカメラを互いに向け合い、2人は親密な時間を過ごす。20年後、当時のカラムと同じ年齢になったソフィは、その時に撮影した懐かしい映像を振り返り、大好きだった父との記憶をよみがえらてゆく。 テレビドラマ「ノーマル・ピープル」でブレイクしたポール・メスカルが愛情深くも繊細な父親カラムを演じ、第95回アカデミー主演男優賞にノミネート。ソフィ役はオーディションで選ばれた新人フランキー・コリオ。監督・脚本はこれが長編デビューとなる、スコットランド出身の新星シャーロット・ウェルズ。
「苦役列車」「まなみ100%」の脚本や「れいこいるか」などの監督作で知られるいまおかしんじ監督が、突然体が入れ替わってしまった男女を主人公に、セックスもジェンダーも超えた恋の形をユーモラスにつづった奇想天外なラブストーリー。 39歳の小説家・辺見たかしと24歳の美容師・横澤サトミは、街で衝突して一緒に階段から転げ落ちたことをきっかけに、体が入れ替わってしまう。お互いになりきってそれぞれの生活を送り始める2人だったが、たかしの妻・由莉奈には別の男の影があり、レズビアンのサトミは同棲中の真紀から男の恋人ができたことを理由に別れを告げられる。たかしとサトミはお互いの人生を好転させるため、周囲の人々を巻き込みながら奮闘を続けるが……。 小説家たかしを小出恵介、たかしと体が入れ替わってしまう美容師サトミをグラビアアイドルの風吹ケイ、たかしの妻・由莉奈を新藤まなみ、たかしとサトミを見守るゲイのバー店主を田中幸太朗が演じた。
ギリシャ・クレタ島のリゾート地を舞台に、10代の少女たちの友情や恋愛やセックスが絡み合う夏休みをいきいきと描いた青春ドラマ。 タラ、スカイ、エムの親友3人組は卒業旅行の締めくくりとして、パーティが盛んなクレタ島のリゾート地マリアへやって来る。3人の中で自分だけがバージンのタラはこの地で初体験を果たすべく焦りを募らせるが、スカイとエムはお節介な混乱を招いてばかり。バーやナイトクラブが立ち並ぶ雑踏を、酒に酔ってひとりさまようタラ。やがて彼女はホテルの隣室の青年たちと出会い、思い出に残る夏の日々への期待を抱くが……。 主人公タラ役に、ドラマ「ヴァンパイア・アカデミー」のミア・マッケンナ=ブルース。「SCRAPPER スクラッパー」などの作品で撮影監督として活躍してきたモリー・マニング・ウォーカーが長編初監督・脚本を手がけ、2023年・第76回カンヌ国際映画祭「ある視点」部門グランプリをはじめ世界各地の映画祭で高く評価された。
文豪・谷崎潤一郎が同性愛や不倫に溺れる男女の破滅的な情愛を赤裸々につづった長編小説「卍」を、現代に舞台を置き換えて登場人物の性別を逆にするなど大胆なアレンジを加えて映画化。 画家になる夢を諦めきれず、サラリーマンを辞めて美術学校に通う園田。家庭では弁護士の妻・弥生が生計を支えていた。そんな中、園田は学校で見かけた美しい青年・光を目で追うようになり、デッサンのモデルとして自宅に招く。園田と光は自然に体を重ね、その後も逢瀬を繰り返していく。弥生からの誘いを断って光との情事に溺れる園田だったが、光には香織という婚約者がいることが発覚し……。 「クロガラス0」の中﨑絵梨奈が弥生役を体当たりで演じ、「ヘタな二人の恋の話」の鈴木志遠、「モダンかアナーキー」の門間航が共演。監督・脚本は「家政夫のミタゾノ」「孤独のグルメ」などテレビドラマの演出を中心に手がけてきた宝来忠昭。
奔放な美少女に翻弄される男の姿をつづった谷崎潤一郎の長編小説「痴人の愛」を、現代に舞台を置き換えて主人公ふたりの性別を逆転させるなど大胆なアレンジを加えて映画化。 教師のなおみは、捨て猫のように道端に座り込んでいた青年ゆずるを放っておくことができず、広い家に引っ越して一緒に暮らし始める。ゆずるとの間に体の関係はなく、なおみは彼の成長を見守るだけのはずだった。しかし、ゆずるの自由奔放な行動に振り回されるうちに、その蠱惑的な魅力の虜になっていき……。 2022年の映画「鍵」でも谷崎作品のヒロインを務めた桝田幸希が主人公なおみ、「ロストサマー」「ブルーイマジン」の林裕太がゆずるを演じ、「青春ジャック 止められるか、俺たちを2」の碧木愛莉、「きのう生まれたわけじゃない」の守屋文雄が共演。「家政夫のミタゾノ」などテレビドラマの演出を中心に手がけてきた宝来忠昭が監督・脚本を担当。
内容のあまりの過激さに世界各国で上映の際に多くのシーンがカット、ないしは上映そのものが禁止されるなど物議をかもしたセルビア製ゴアスリラー。元ポルノ男優のミロシュは、怪しげな大作ポルノ映画への出演を依頼され、高額なギャラにひかれて話を引き受ける。ある豪邸につれていかれ、そこに現れたビクミルと名乗る謎の男から「大金持ちのクライアントの嗜好を満たす芸術的なポルノ映画が撮りたい」と諭されたミロシュは、具体的な内容の説明も聞かぬうちに契約書にサインしてしまうが……。日本では2012年にノーカット版で劇場公開。2022年には4Kデジタルリマスター化&無修正の「4Kリマスター完全版」で公開。※本作品はHD画質での配信となります。予め、ご了承くださいませ。