黒沢清監督、海外デビューに感慨「初めて国籍から離れて人間ドラマを作った」
2016年10月27日 21:30
[映画.com ニュース] 「岸辺の旅」「クリーピー 偽りの隣人」の黒沢清監督が、オール外国人キャスト、全編フランス語で撮り上げた「ダゲレオタイプの女」が10月27日、開催中の第29回東京国際映画祭で特別上映された。黒沢監督は、TOHOシネマズ六本木ヒルズでのティーチインに臨んだ。
世界最初の撮影技術“ダゲレオタイプ”を題材にとった本作は、ダゲレオタイプの写真家ステファン(オリビエ・グルメ)と娘でモデルのマリー(コンスタンス・ルソー)、ステファンのアシスタント・ジャン(タハール・ラヒム)の3人の関係が変容していくさまに焦点を当てる。黒沢監督らしい洗練されたホラー演出が随所に散りばめられ、生と死の境界があいまいになった世界を幻想的に切り取っている。
本作で念願の海外初進出を飾った黒沢監督は、これまでの監督活動を「日本を描きたいと思ったことは1度もない。僕はほとんどの作品を日本で撮っているので、映したい、映したくない以前に現代の東京が映ってくる。それは逃れられないものです」と振り返る。その上で、本作での経験を「不思議な体験だった」と評し、「初めてフランスで映画を撮り、現代のパリ郊外が実際に映っている。映っているのだけれど、どのように表れているのかわからない。私はそこに生きていないから。現代からもパリからも東京からも離れて、生まれて初めて国籍から離れた純粋な人間ドラマを作ってしまった」と感慨をにじませた。
ストーリーに関しては、「やってみたかったのは日本の怪談形式。最初は幽霊などどこにもいないのが、女が途中で死んで幽霊になり、男との関係が深まっていく。反対に西洋のゴーストストーリーや日本も含めたモダンホラーは最初から幽霊としてそこにいる。本作は、2種類の幽霊が出てくるストーリーにしようとしました」と解説。「幽霊になったからといって怖がる対象ではない。死んでも人間。好きな相手が目の前にいたら、戸惑いながらも現実世界に存在しようとするんだろうか」といった考えからキャラクターを創造していったと明かす。
監督独自の死生観が画面に表れているが「年を取るほど、死んだ知り合いが増えてくる。あの人だったらどう思うだろうなとよく考えるんですが、その人と僕の間では死は境とは思えない」としみじみ。そういった考えを象徴するのが「脚本の最後に、どうしても入れたくなって付け足した」というある老女のキャラクターだ。劇中、ステファンを訪ねてきた老女は「死は幻です」というセリフを発するが、黒沢監督は「これを誰かに言わせたかった」と告白。老女について質問した観客に「指摘してくれて本当にうれしい」とほほ笑んだ。
日本人のみならず外国人も多く詰めかけ、劇中の重要な要素である“都市開発”に質問が及ぶと「都市があって郊外がある。その境目に、殺人鬼や幽霊といった怪しいものが住んでいる気がする。都市と田舎の境目あたりが1番危うい均衡が働いていて、ドラマが動きやすいのでは、という思いがあります」とこれまでの作品にも通じる着眼点を語った。
フォトギャラリー
Amazonで関連商品を見る
関連ニュース
映画.com注目特集をチェック
関連コンテンツをチェック
シネマ映画.comで今すぐ見る
第86回アカデミー作品賞受賞作。南部の農園に売られた黒人ソロモン・ノーサップが12年間の壮絶な奴隷生活をつづった伝記を、「SHAME シェイム」で注目を集めたスティーブ・マックイーン監督が映画化した人間ドラマ。1841年、奴隷制度が廃止される前のニューヨーク州サラトガ。自由証明書で認められた自由黒人で、白人の友人も多くいた黒人バイオリニストのソロモンは、愛する家族とともに幸せな生活を送っていたが、ある白人の裏切りによって拉致され、奴隷としてニューオーリンズの地へ売られてしまう。狂信的な選民主義者のエップスら白人たちの容赦ない差別と暴力に苦しめられながらも、ソロモンは決して尊厳を失うことはなかった。やがて12年の歳月が流れたある日、ソロモンは奴隷制度撤廃を唱えるカナダ人労働者バスと出会う。アカデミー賞では作品、監督ほか計9部門にノミネート。作品賞、助演女優賞、脚色賞の3部門を受賞した。
父親と2人で過ごした夏休みを、20年後、その時の父親と同じ年齢になった娘の視点からつづり、当時は知らなかった父親の新たな一面を見いだしていく姿を描いたヒューマンドラマ。 11歳の夏休み、思春期のソフィは、離れて暮らす31歳の父親カラムとともにトルコのひなびたリゾート地にやってきた。まぶしい太陽の下、カラムが入手したビデオカメラを互いに向け合い、2人は親密な時間を過ごす。20年後、当時のカラムと同じ年齢になったソフィは、その時に撮影した懐かしい映像を振り返り、大好きだった父との記憶をよみがえらてゆく。 テレビドラマ「ノーマル・ピープル」でブレイクしたポール・メスカルが愛情深くも繊細な父親カラムを演じ、第95回アカデミー主演男優賞にノミネート。ソフィ役はオーディションで選ばれた新人フランキー・コリオ。監督・脚本はこれが長編デビューとなる、スコットランド出身の新星シャーロット・ウェルズ。
ギリシャ・クレタ島のリゾート地を舞台に、10代の少女たちの友情や恋愛やセックスが絡み合う夏休みをいきいきと描いた青春ドラマ。 タラ、スカイ、エムの親友3人組は卒業旅行の締めくくりとして、パーティが盛んなクレタ島のリゾート地マリアへやって来る。3人の中で自分だけがバージンのタラはこの地で初体験を果たすべく焦りを募らせるが、スカイとエムはお節介な混乱を招いてばかり。バーやナイトクラブが立ち並ぶ雑踏を、酒に酔ってひとりさまようタラ。やがて彼女はホテルの隣室の青年たちと出会い、思い出に残る夏の日々への期待を抱くが……。 主人公タラ役に、ドラマ「ヴァンパイア・アカデミー」のミア・マッケンナ=ブルース。「SCRAPPER スクラッパー」などの作品で撮影監督として活躍してきたモリー・マニング・ウォーカーが長編初監督・脚本を手がけ、2023年・第76回カンヌ国際映画祭「ある視点」部門グランプリをはじめ世界各地の映画祭で高く評価された。
「苦役列車」「まなみ100%」の脚本や「れいこいるか」などの監督作で知られるいまおかしんじ監督が、突然体が入れ替わってしまった男女を主人公に、セックスもジェンダーも超えた恋の形をユーモラスにつづった奇想天外なラブストーリー。 39歳の小説家・辺見たかしと24歳の美容師・横澤サトミは、街で衝突して一緒に階段から転げ落ちたことをきっかけに、体が入れ替わってしまう。お互いになりきってそれぞれの生活を送り始める2人だったが、たかしの妻・由莉奈には別の男の影があり、レズビアンのサトミは同棲中の真紀から男の恋人ができたことを理由に別れを告げられる。たかしとサトミはお互いの人生を好転させるため、周囲の人々を巻き込みながら奮闘を続けるが……。 小説家たかしを小出恵介、たかしと体が入れ替わってしまう美容師サトミをグラビアアイドルの風吹ケイ、たかしの妻・由莉奈を新藤まなみ、たかしとサトミを見守るゲイのバー店主を田中幸太朗が演じた。
文豪・谷崎潤一郎が同性愛や不倫に溺れる男女の破滅的な情愛を赤裸々につづった長編小説「卍」を、現代に舞台を置き換えて登場人物の性別を逆にするなど大胆なアレンジを加えて映画化。 画家になる夢を諦めきれず、サラリーマンを辞めて美術学校に通う園田。家庭では弁護士の妻・弥生が生計を支えていた。そんな中、園田は学校で見かけた美しい青年・光を目で追うようになり、デッサンのモデルとして自宅に招く。園田と光は自然に体を重ね、その後も逢瀬を繰り返していく。弥生からの誘いを断って光との情事に溺れる園田だったが、光には香織という婚約者がいることが発覚し……。 「クロガラス0」の中﨑絵梨奈が弥生役を体当たりで演じ、「ヘタな二人の恋の話」の鈴木志遠、「モダンかアナーキー」の門間航が共演。監督・脚本は「家政夫のミタゾノ」「孤独のグルメ」などテレビドラマの演出を中心に手がけてきた宝来忠昭。
奔放な美少女に翻弄される男の姿をつづった谷崎潤一郎の長編小説「痴人の愛」を、現代に舞台を置き換えて主人公ふたりの性別を逆転させるなど大胆なアレンジを加えて映画化。 教師のなおみは、捨て猫のように道端に座り込んでいた青年ゆずるを放っておくことができず、広い家に引っ越して一緒に暮らし始める。ゆずるとの間に体の関係はなく、なおみは彼の成長を見守るだけのはずだった。しかし、ゆずるの自由奔放な行動に振り回されるうちに、その蠱惑的な魅力の虜になっていき……。 2022年の映画「鍵」でも谷崎作品のヒロインを務めた桝田幸希が主人公なおみ、「ロストサマー」「ブルーイマジン」の林裕太がゆずるを演じ、「青春ジャック 止められるか、俺たちを2」の碧木愛莉、「きのう生まれたわけじゃない」の守屋文雄が共演。「家政夫のミタゾノ」などテレビドラマの演出を中心に手がけてきた宝来忠昭が監督・脚本を担当。