“偽名”脚本家の伝記を映画化は前代未聞!「トランボ」を専門家が解説
2016年7月26日 17:10
[映画.com ニュース] ハリウッドから弾圧を受けながらも本名を隠して「ローマの休日」の脚本や「黒い牡牛」の原作を手がけ、オスカーを2度受賞した脚本家、故ダルトン・トランボさんを描く「トランボ ハリウッドに最も嫌われた男」(公開中)のトークイベントが7月25日、東京・代官山蔦屋書店で開催された。イベントでは、トランボさんや映画の時代背景に詳しい映画評論家・上島春彦氏、書籍「トランボ ハリウッドに最も嫌われた男」の翻訳に携わった編集者・三宅暁氏が映画の舞台裏を解説しながら、見どころを語った。
本作はブルース・クック氏によるトランボさんの伝記をもとにしているが、上島氏は「脚本家の伝記を映画にしちゃうなんて前代未聞。原作本は本人にインタビューしている唯一の本で、トランボの人となりが1番出ている」と本作の独自性を挙げる。三宅氏は撮影現場の裏話として「(トランボの妻クレオを演じた)ダイアン・レインや役者が困ると、まずこの本を手に取ったらしい。現場では、料理本(COOKBOOK)とクックの名をかけて“クック・ブック”と言われていたそう」と明かした。
トランボとクレオを中心に、長女ニコラ(エル・ファニング)との関係を描いたドラマ面も本作の特徴だが、両氏は「トランボは実はかなり情熱的な恋愛をして結婚した。本作は、家族映画としても見ることができる」(三宅氏)、「トランボは生涯で1回しか結婚していない。これは当時のアメリカにあってはすごく珍しい」(上島氏)と語る。三宅氏は、家庭人だったトランボを「アメリカの理想の父親像」と評した。
上島氏は「アメリカは、オリジナル作品を尊重しない。短編小説の国だから、題材は山ほどある。(映画化の可否を判断するために)小説を探してきて短い物語にまとめる“リーダー”という係があって、元々トランボもそうだった」と豆知識を明かす。三宅氏は他の脚本家による脚本の手直しをすることも多かったトランボを「リフォーム請負人」と評し、劇中でも描かれる執筆の速さがトランボの大きな武器だったと考察した。
映画では、共産主義者を排除しようとするHUAC(下院非米活動委員会)とトランボの対決がスリリングに描かれる。トランボはHUACによる赤狩りの対象となり、議会侮辱罪で投獄されるが、上島氏はトランボと正反対の立場を取った人物としてエリア・カザン監督の名を出し「カザンはアカデミー賞名誉賞を授与された。普通はスタンディングオベーションになるのが通例だが、3分の1くらいしか立たなかった。ハリウッドの映画人は、賞に値する人物だと思っていなかったんです」と映画で描かれた一連の出来事が、後々にまで尾を引いていたと語った。