キム・ギドク、映画製作の原動力は「人間が暴力を用いる理由を知りたいという心理」
2016年1月15日 17:00
[映画.com ニュース]韓国の鬼才キム・ギドクの最新作「殺されたミンジュ」が、1月16日から公開される。これまでの作品でも社会問題と暴力との関係を描いてきたキム監督は、今作は「国家が個人に、国民に与える痛み」とテーマを語り、人間が暴力を用いる理由を追究することが自身の映画製作の原動力になっていると明かした。
ある殺人事件に関与した7人の容疑者のうちの1人が武装した謎の7人の集団に誘拐されたのち拷問され、事実の告白を強要される。その後、謎の集団は事件に関わった容疑者たちを次々と誘拐し、拷問を続けていく。さまざまな社会批判を交えて暴力の連鎖を描きだす。
殺された少女の名であり、また邦題の“ミンジュ”は民主主義を意味する。「国家が個人に、国民に与える痛み」というテーマを選んだ理由は、「国家の個人との関係を突き詰めると、国家=個人、個人=国家とも言えますが、これが明確に二つに分かれた時に問題が生じると考えたのです。そういったところから出発した映画です」と語る。原題は「ONE ON ONE」。「私たちが生きているこの社会、国家の中で、私たちは一対一の同じ価値をもった人格として尊重され、存在していられるのかどうか。ある意味、そうではないと思うのです」と逆説的にこのタイトルを選んだ。
登場人物の設定は「民主主義を棄損する7人の容疑者を罰する7人のテロリスト」だと説明し、さらに、「100分という限られた時間の中で物語を伝えるために、韓国の歴史のトラウマを7つのチャプターを通して描いています。衣装や空間で表現し、韓国に駐屯している米軍、または暴力団、特殊部隊を象徴しています」と7という数に込めたこだわりを明かす。
劇中では、集団に誘拐された容疑者たちのせりふとして「自分は指示に従っただけだ」というフレーズが多用される。「韓国には上からの指示ということで、自分自身の責任を省みることなく、転嫁する構造があると思うのです。発言権を持てず、言われるままに何かをする、だから責任意識も存在しない垂直的な関係です。特に、上からの指示が絶対という体系が現れているのが軍隊です。戦場で銃を向けるのは一介の兵士ですが、基をたどると最終的な命令権を持つ大統領にたどり着くはずです」
社会的な暴力や人の痛みを真っ向から描くことは、覚悟と並々ならぬ精神力が必要だろう。「私はこれまでの人生で、親、軍隊、警察からなど多くの暴力を経験してきました。ですから、誰よりも暴力を阻止したいという思いが強いのにもかかわらず、暴力を認めざるを得ないということがとても皮肉だと思うのです。でもこの時代を生き、社会の様々な情勢をみると、暴力は決してなくならないという思いに至るのです。危険かもしれませんが、ある意味人間のエネルギーのひとつであるのではないか、と思うに至りました。今まで散々暴力にさらされてきた私のような人間がこのように暴力を捉えるようになるということは、とても皮肉なことだと思うのです」
「世界中で起こっている様々暴力のニュースを見ると、ものすごく恐怖を感じますし、根本的に、映画が暴力をなくすことの解決策にはなりえないでしょうが、逆に映画を通じて人間はなぜ暴力を使うのか、ということを問いかけたい気持ちが生まれるんです。『嘆きのピエタ』と本今作では、全く違う関係性で暴力を描いています。ピエタは資本の価値による暴力を描き、今作は国家の政治的な意味での暴力。自分なりの暴力に対する解釈、問いかけの過程で、なぜ人間が暴力を使うのか、知りたいという心理が私に映画を作らせているのです」
「殺されたミンジュ」は、1月16日から全国で公開。
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