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「杉原千畝」C・グラック監督、唐沢寿明とともに“日本のシンドラー”に迫る

2015年12月4日 12:00

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チェリン・グラック監督
チェリン・グラック監督

[映画.com ニュース]第2次世界大戦時、危険に身をさらしながらもユダヤ難民にビザを発給した外交官・杉原千畝氏。「サイドウェイズ」「太平洋の奇跡 フォックスと呼ばれた男」を手がけてきたチェリン・グラック監督が、“日本のシンドラー”と言われる杉原氏に迫った新作「杉原千畝 スギハラチウネ」、そして自らの映画論を語った。

米国人ながら日本で生まれ育ったグラック監督は、日本とユダヤ人の関係を日露戦争時まで遡って語り始めた。日露戦争時、日本政府はユダヤ人銀行家による巨額の投資で軍事力を手に入れ、勝利を収めた。その後、さまざまな思惑が渦巻く中、ヨーロッパで迫害されていたユダヤ人を満洲に呼び寄せる河豚計画が提唱された。「河豚みたいに上手に料理すればおいしいけれど、ちょっとでもミスをしたら危ない」という意味を含んだ河豚計画。ユダヤの血を引くグラック監督は、同計画について記されたアメリカ人ラビ、マービン・トケイヤー氏の同名研究書に関心を抱いていたという。

「『河豚計画』を読んでいた時から、杉原さんの話も聞いていました。(グラック監督は)祖父の代からユダヤ人の血を継いでいるし、父親から戦争中の話もずっと聞いていたので、ユダヤへの思いは強いというか。そんな時にこの企画がきて、喜んで飛びついた感じなんですよね。ストーリーそのものが好きですし、なんとかそれを返したいと思ったんです」

映画化にあたり「杉原千畝という人間ひとりというより、当時の政治的事情などの絡み合い、インタラクションの話をしたいと思いました」と歴史の流れをとらえた。「一人の人物に集中してしまうと面白くなくなる。周りの人がいて初めて人間は一人前になるんだから。杉原千畝はこの映画の中では歴史の誘導者で、彼に影響された人がいれば影響を与えた人もいます。『No man is an island(人は孤島ではなく、一人では生きていけない)』という言葉がありますが、人間は人生の道を歩んでいく中でいろいろな人と触れ合い、影響されている。杉原さんもそうだと思いますが、誰もが偉大なことをやると最初から思っているわけではないと思うんです。無意味か偉大かは関係なく、自分ができる限りのことを尽くしたと言える人になってもらいたい」と思いを込めた。

「杉原千畝 スギハラチウネ」の一場面
「杉原千畝 スギハラチウネ」の一場面
(C)2015「杉原千畝 スギハラチウネ」製作委員会

本作への参加は、「太平洋の奇跡 フォックスと呼ばれた男」(2011)で知り合った唐沢寿明の一声がきっかけとなった。「一緒に何かやろう」と意気投合していた折、唐沢が主演に決定し「『オレがやるんだったらチェリンでやろう』と言ってくれたんです。だから喜んでやらせていただきました」と振り返る。撮影はポーランドで行われ、「日本人の方には日本人として演じてもらいたい。僕にはわからない日本人の感情、考え方があって、そういう意味があったのかということを教えてもらったり、感じさせてもらった」と唐沢、小雪が“日本”の空気を漂わせている。

日本勢に加えボリス・シッツ、アグニェシュカ・グロホフスカらポーランドの役者も結集。「(みんな)歩んできた道で出会った人。一緒に力を合わせればいろいろなことができる、映画はそういうものだと思います」と熱を込める。意見が食い違うことがあっても、「セットで一回やってみて『そっちに持っていこう』と調整していく。僕が助監督をしていたリドリー・スコットも『監督の仕事の60%はキャスティング』と言っていましたが、役者に任せるしかないんです。自分と違う思いを持った役者を説得できなかったら監督とは言えないし、そもそも役者が正しいかもしれない。演じてもらっている以上、大切にしないといけないと思うんです」と向き合い方を明かす。

そんなグラック監督にとって「映画は人生みたいなもの」だ。「映画作りは人生と同じように場面場面で違うし、出会う人や出来事によって今日考えていたことが明日は変わるかもしれない。あるガイドラインは保たなければダメだけれど、感覚が変わることがなく積み木のように作っていくのが嫌いなんです。これというガイドラインができあがっていても、モノでも人生でも最後にならないとできあがったと言えないと思う」とその瞬間を感じ取り作品に落とし込んでいく。

柔軟な発想で動くグラック監督の現場では、その場でセリフが組み立て直されることも少なくなかった。「僕らアメリカ人はアドリブが好き。ひとりひとりキャラクターをきっちり決めたとしても、嫌な人が優しい人に出会って変わることがある。役者同士の考え方が違ってキャラクター像がぶつかった時、どちらに譲るかではなく、『なぜこういう風に考えているのか』という両者の言い分を聞かないとダメ。現場に入って一緒に作っていくものなんです。監督が言っても、役者がそういう方向性で演じるのが嫌だったら顔に出てしまうから、うまく誘導してあげないといけないし、自分が誘導されることもある。監督も一人ではできないんです」

杉原千畝 スギハラチウネ」は、12月5日から全国で公開。

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