黒沢清監督、夫婦の愛と真正面から向き合った「岸辺の旅」への思いを明かす
2015年10月4日 11:30

[映画.com ニュース] ベテランといえども、新たな領域に踏み込むには不安や迷いが生じる。黒沢清監督が、夫婦の愛と真正面から向き合った「岸辺の旅」もそんなスタートだった。しかし、深津絵里と浅野忠信という“理想の夫婦”を得たことで、死んだ夫と旅をする妻という設定にリアルな質感がもたらされた。カンヌ映画祭「ある視点」部門で監督賞に輝いた独創的なラブストーリーに、注ぎ込んだ思いを聞いた。(取材・文/鈴木元)
3年ぶりに帰ってきて「俺、死んだよ」と告げる夫。驚きながらも受け入れる妻。夫は空白の3年間を過ごした場所を再訪する旅へ妻を誘う。しかし湯本香樹実さんの原作小説は、あくまで夫・優介を肉体あるものとしてとらえ、妻・瑞希と残された時間の中で愛の深さを再確認していく過程が描かれる。プロデューサーから薦められて読んだ黒沢監督は、「画期的で映画的」と評し映画化への思いを募らせた。
「死んだ人が戻って来ること自体はよくある設定だと思うんです。ただ、ほとんどの場合は生きていた時の過去がどうだったかを検証していく話になる。死んでから何をやっていたのかを確かめようという、死んだ者にとっては少し過去ですが、生きている瑞希にとっては全く聞いたこともない部分で、未来というか現在形のことなんです。だから、死者と生者の関係を描きつつ、昔を取り戻そうという話ではなく、先へ先へと進んでいこうとする物語に最も魅かれました」
脚本を執筆中に配役を想定することはないそうだが、2人の年齢設定や人物像、役者としての経験が醸し出す雰囲気などを鑑みれば、深津絵里と浅野忠信のコンビになるのは必然だったと振り返る。
「年齢的に40歳くらいでもう若くはない。でも、まだある種の恋愛関係といってもおかしくないくらいの初々しさ、若々しさが十分に残っている俳優というと、おのずと2人に絞られていきました。あまりテレビドラマでは見られない、非常に映画的な人というのも大きかったですね」
その思惑はピタリとはまる。静ひつな映像の中で、一緒にいる時間を大切にしながら互いの存在のいとおしさを確かめていく夫婦の営み。“喪の仕事”であるはずなのに、どこか穏やかな気持ちで満たされていく。演出する側としても、十分な手応えを感じたようだ。
「2人のやり取りは見ていて安心できましたし、そりゃあ楽しかったですね。脚本通りのセリフなのに、本当に生々しく言ったりするんですよ。深津さんは全く初めてでしたが、本当にうまい方です。浅野さんも、自分がこの映画の中でどうすべきかを直感的につかむ。すごいです」
世界でのお披露目となったカンヌの「ある視点」では上映後にロビーでも拍手を送られる喝采を受け、監督賞を獲得。日本の公開に向けた効果にも期待している。
「本心でカンヌですと、ある視点が一番いいですね。優しく温かく祝福してくれますしね。実際に華やかですし、賞など頂くと宣伝も含めればカンヌというだけで影響力がありますから」
既に西島秀俊、竹内結子、東出昌大、香川照之ら主役級が顔をそろえる来夏公開予定のミステリー「クリーピー」の撮影を終えたばかり。還暦を迎えても、ますます意気軒高である。
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