石井裕也監督が明かす、「ぼくたちの家族」への思い
2014年5月19日 14:50
「川の底からこんにちは」(2009)ほかで早くから海外で高い評価を受け、昨年の「舟を編む」で第86回アカデミー賞外国語映画賞の日本代表作品選出に加え、日本アカデミー賞を筆頭に国内の映画賞を席巻した俊英の最新作。「(『舟を編む』の快挙によって)自分は何も変わっていないのに、周りからの見え方が変わるという新しい悩みはありますね。過度な期待の中で、考えながらやっていかなければいけないというプレッシャーは感じますが、それは嫌いじゃないです」と語る石井監督が放つ、家族という「理屈では説明できないもの」を見つめた作品だ。
“家族を描く”映画といえば、それなりの年齢を経た監督が、結婚し子どもを持った世代に向けて撮った作品をイメージしがちだが、今作の撮影時、石井監督はまだ20代(現在30歳)。「まだ若い感性の自分のうちに、改めてちゃんと“家族”を撮りたいと思いました。そもそも20代でこれだけの俳優に出ていただいて、この規模の作品で家族を描くのは新しい試みでしょう。前例もなければ、今後もない気がします」と強く語る。そして、作品自体に明確なメッセージは持たせず、「家族を直視すること」に徹したという。
だからこそ「芝居の映画になるというか、演技合戦になるのは分かっていました」と振り返る。余命1週間を宣告され、いわば物語と家族の中心となる存在の母親役を原田美枝子、一家の大黒柱でありながら、役に立たない姿をさらす夫役を長塚京三、そして、ぼう然としながらも、なんとか状況を打開しようと奔走する兄弟を妻夫木と池松壮亮が演じる。「どういう人に(どの役を)お願いするかが、最も大きな勝負だった」と、これまではプロデューサーにほぼ一任してきたキャスティングについても大きく関わった。
「1年以上かけてぼくらが準備してきたものを、俳優は一瞬の芝居で凌駕(りょうが)するんです。その瞬間を待っているんです。今回は特にそうした瞬間がありました」と、4人の主演俳優と共演陣が、見る者それぞれがそれぞれの立場で“自分たちの家族”の物語として共感できる、リアリティあふれるドラマを生んだ。
悲劇と喜劇、悲しみや辛さとほのかな笑いが渾然一体を成し、「ぼくたちの家族」は、いわゆる単純明快な“分かりやすい映画”とは真逆に位置する。だが、「(悲しみと笑いは)表裏一体」であり、「(現実は)そういうものだと思うんです。そういうものこそが、心に突き刺さっていくとがり方を持っていると思います」と石井監督は言う。
兄弟が高台へと階段を駆け上がり、頂上で開けた景色が飛び込んでくるという象徴的なシーンでさえ、「ドカーンと開けているようでいて、開けきってはいない。ブレイクスルーなんですけど、最後まではブレイクスルーできないという絶妙な場所」を持ってくる。「それがまた分かりづらさにつながっているんだと思いますが」と笑うが、だからこそ、母の急病でどんどん閉じられていく世界を、それでもなんとかこじ開けようとする象徴として、見る者の胸に響く。
どんな映画なのか「言葉で語るのが難しい」と告白する監督は、「乱暴なんですが、見ていただければ伝わると思いますので、お許し願えないでしょうか」と言葉を結んだが、ひとつひとつ選びながら謙虚に語る石井監督の言葉の端々に、作品に対する確固たる自信がうかがえたのは確かだ。
「ぼくたちの家族」は、5月24日から全国公開。
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