大里洋吉氏「10人の泥棒たち」へ注ぐ熱い眼差し 日本映画界に警鐘も
2013年6月5日 07:00
[映画.com ニュース] 韓国映画史上No.1の観客動員を記録した大ヒット作「10人の泥棒たち」(http://10dorobo.jp/)が、6月22日から全国で2週間限定公開される。配給を手がけるライブ・ビューイング・ジャパンの大里洋吉会長が、今作の見どころを情熱たっぷりに語った。
同作は、昨年7月に韓国で封切られ、公開3日目で動員100万人を突破。70日目には「グエムル 漢江の怪物」のもつ動員記録1300万人を塗り替えたほか、アジア全域はもとより全米でも高い評価を得た意欲作だ。日本では、コンサートや舞台の映画館生中継を主事業とするライブ・ビューイング・ジャパンが劇場映画を初めて配給する英断をくだし、全上映回の全席指定チケットを全国一斉で発売する興行を展開する。
映画は韓国版「オーシャンズ11」ともいえる作品だが、香港、マカオ、釜山などアジア全域を舞台に、どんでん返しが連続する展開や華麗な盗みのテクニックはもちろん、個性あふれる泥棒たち10人の謎めいた背景描写が秀逸だ。キャッチコピーは、「1つの宝石をめぐる完璧な強奪計画を10人の野心と3つの愛が狂わせる」。大里氏が韓国訪問時、周囲の人々に勧められたこともあり劇場で観賞し、作品の持つ力が心の琴線を突き動かした。これは、大里氏が「シュリ」の日本配給(シネカノンとアミューズの共同)を決意した状況と酷似している。
「すごく似ていますね。『シュリ』も韓国に出張していたときに、『面白い映画が当たり始めている』と聞いて韓国語のできるスタッフと見に行ったんです。泣けるシーンもあったし、とにかくレベルの高さに驚いた。それで『買いたい!』と思ったんです。今回もみんなが口をそろえて『10人の泥棒たち』が面白いというので見てみたら、その通りだった。劇場を出てすぐにショーボックス(韓国の配給会社)に電話したんです。そうしたら、日本の配給権利はまだ空いていると返事があったんです」
「シュリ」は、1999年10月に行われた第12回東京国際映画祭で、主演のハン・ソッキュの舞台挨拶つき試写会が渋谷公会堂で上映されたことが奏功。韓国に潜入した北朝鮮工作員と、韓国諜報部員の悲恋を描いた作品世界が口コミで大きな評判を呼び、翌2000年に劇場公開されると興行収入18億5000万円の大ヒットを飾った。
「当時、60館くらいでスタートして、最終的には120館くらいまで拡大していったんですよ。今回はスタートが48館。東京都内が8館で、関西が7館。決して小さなアート系の映画ではないですよね。作品が面白いっていうことが口コミで広がってくれれば、際限なく広がりますよね。それを期待しているのですが、日本の映画人口は残念ながら減っている。たとえいい作品であっても、そのうち見に行こうと思っているうちに興行が終わっちゃう。映画業界の人たちの努力も足りないですね。ただ、この作品がうまくいけば、いいヒントになっていろいろな試行錯誤が始まって、楽しいですよね(笑)。とにかく今回は役者がみんな魅力的だし、お芝居が素晴らしい。映画って、それに尽きるんじゃないかな」
また、今作の魅力を余すところなく理解してもらうために製作した日本語吹き替え版には、豪華な声優陣が顔をそろえた。山寺宏一、朴ロ美、平田広明、平野綾らオールスター級の面々がずらり。大里氏が韓国で観賞した際、現地スタッフが日本語で同時通訳したことで、キム・ユンソク、イ・ジョンジェ、チョン・ジヒョン、サイモン・ヤムらの演技に集中できたことに起因する。「東京で完全ではない字幕を目で追いかけているうちに、肝心の魅力的な演技や仕掛けがわからなくなって、ガッカリしたんです。それで、吹き替え版を作ろうという話になって。結果的に良かったですよね。138分という尺の長さも感じさせないでしょう?」と、どこまでも観客と同じ目線を注ぐことを忘れない。
前述の「シュリ」だけでなく、「JSA」「猟奇的な彼女」を日本に紹介したのも大里氏。いわば韓国映画ブームの立役者といって過言ではない。それだけに、現在の日本の映画業界については歯がゆさを感じており「日本では、映画という文化的に非常にレベルの高い創作物に対して、パッションと義務と責務を負って作っている人がいませんよね、我々も含めて。それは、ものすごく悲しいくらいに文化度が低いということ」と警鐘を鳴らす。
企画そのものが日本国内のマーケットを意識したものに偏っていることを挙げ、「全世界で受け入れられることを目的にした映画づくりがなされていないという意味での文化度の低さでは、群を抜いていると思う」と指摘する。だからこそ、「何としてももう一度、世界中の人々が楽しめるような映画をつくる努力をしなければならない。特に、アジアという大きなマーケットが台頭してきているのに、この追い風に乗ってコンテンツを提供しようとしないなんて、考えられませんよ。全世界を相手にビジネスができるチャンスを自ら怠っていると思うんです。世界が注目するような企画をつくらないとダメなんです」と熱い思いを語った。
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