幻のカンボジア映画史を発掘 ダビ・チュウ監督に聞く
2012年10月26日 16:03

[映画.com ニュース] ポル・ポト政権以前の1960年代、東南アジア全域で盛隆を極めていたカンボジアの映画史を当時の映画人の証言によりたどっていくドキュメンタリー「ゴールデン・スランバーズ」が第25回東京国際映画祭アジアの風部門で上映された。ダビ・チュウ監督に話を聞いた。
1973年にフランスに移住したカンボジア人の両親を持つが、自身はフランスで生まれ、フランス人のように育ったという。75年にクメールルージュが政権を取る前に死去した祖父が映画プロデューサーだったことを知り、黄金期のカンボジア映画に興味を持ったものの、当時映画にかかわっていた人間の大半は死去、フィルムのほとんどがクメールルージュにより没収、焼却されていた。「そういう事実があるのだったら、残っている人間がドキュメンタリーを作らなければと突き動かされたのです」。
「ドキュメンタリーとフィクションという垣根を作りたくなかったのです」。現存する当時の映画人やカンボジアのシネフィルたちの証言、ポスターや映画の楽曲などからカンボジア映画史をたどるだけでなく、逆回しやVFXなどを用いた遊び心のあるシーン、撮影を行った2009年のカンボジアの町並みや人々の生活様式も映し出される。豊かな映像表現に引き込まれるが、肝心の黄金期のカンボジア映画の映像はいくら待ってもなかなか出てこない。そこにチュウ監督のたくらみがあった。

本作製作にあたり1年をかけてリサーチをしたところ、YouTubeのシェアなど60~75年に製作された400本のうち30本がVHSからデジタル変換されて残っていることがわかった。だが、チュウ監督はこの残された映像素材を本作に用いることはしないと決断した。
「カンボジアの状況に忠実でありたかったのです。40年間上映されていないので誰も見ることができませんし、実際にクメールルージュが破壊したので映画がないという現実から始めようと思ったのです。2つ目の理由は、今はインターネットで古い映像は誰もが簡単に見ることができて、そして忘れて、ファストフードのように消費されている。私は映画の中でそれをしたくなかったのです。当時の映像を使わないことによって、観客の欲望とフラストレーションをかき立てよう、今は見られない映像の価値を高めたかったのです」
幼い頃から映画好きだったというチュウ監督は、高校時代から独学で短編を撮り始め、その後自身のプロダクションを設立しプロデュース業にも携わる。影響を受けた監督は小津安二郎を筆頭に、ホウ・シャオシェン、ホン・サンス、アピチャッポン・ウィーラセタクン、黒沢清ら多数。「黒沢監督はホラーも多く撮っていますよね、『トウキョウソナタ』でゴーストは扱っていませんが、ゴースト映画だと思うのです。目に見えない何かの存在を感じるという意味で、マスターオブミザンセーヌですね」、「河瀬直美監督の『沙羅双樹』は、映画史に燦然と輝く傑作だと思います」と日本映画にも造けいが深く、話は尽きない。
本作は、カンボジアを舞台にしたドキュメンタリーの巨匠で昨年は大江健三郎の「飼育」を映画化したリティー・パニュがプロデューサーを担当した。パニュからはドキュメンタリーの手法などを学んだという。チュウ監督の次回作はプノンペンの現代の若者を描いたフィクションを予定しているそうで、新しい世代が作ったカンボジア映画が日本でも公開されることを期待してやまない。
第25回東京国際映画祭では、カンボジア映画黄金期に製作され、現存する貴重な作品「天女伝説プー・チュク・ソー」「怪奇ヘビ男」(ティ・リム・クゥン監督)が10月28日に上映される。
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