「天地明察」宮崎あおいが説く“待つ”行為のもつ意義
2012年9月15日 08:00
[映画.com ニュース] 宮崎あおいにとって、“待つ”という行為は一切の苦痛を伴わないものだという。「“待つ”ことは好きです。待ち時間も大好きですし、ずっと待っていたいくらい(笑)」。初めて滝田洋二郎監督とタッグを組んだ「天地明察」で演じた村瀬えんは、岡田准一扮する安井算哲(後の渋川春海)の帰り待ち続ける役どころ。えんという人物に何を思い、どう演じたのか、宮崎が語った。
第7回本屋大賞、第31回吉川英治文学賞を受賞し、第143回直木賞候補になった冲方丁氏の同名小説が原作。800年にわたり使用されてきた暦の誤りを見抜き、日本独自の暦を作り上げた主人公・算哲が、数々の挫折と別れを繰り返しながら改暦の大事業に挑む姿を、第81回アカデミー賞で「おくりびと」が外国語映画賞に輝いて以来、初メガホンとなる滝田監督が映画化した。宮崎扮するえんは、算術家で村瀬塾を営む兄・村瀬義益(佐藤隆太)を通じて算哲と出会い、やがて妻となる美しく気丈な娘だ。
原作のえんは、夫を陰から支える健気さとともに気性の荒さも際立っていたが、映画では芯の強さと女性らしい優しい気遣いを併せもつ大和撫子という新たな像を作り上げた。宮崎は、「滝田監督から原作を読まなくても大丈夫とうかがっていたので、自分のなかでえんを作り上げるのに使ったのは台本だけでした。台本を読む限りでは、気の強さというか女性としての自己主張のある人だなっていう印象を抱きました」と述懐。具体的にどう演じるかはあまり考えなかったというが、「ちょっと男っぽい部分は私とかぶるんです。ただ、ここまではっきりと人にものを伝えたりすることはありませんが(笑)。いずれにしても、こういう気持ちの良い女性は格好いいですね」と自らとの共通点を見出しながら、えんの魅力を語る。
「劔岳 点の記」(2009)では浅野忠信演じる柴崎芳太郎の妻・葉津よを演じているが、測量と天体観測という違いこそあれ、過酷な任務に向かう夫を優しく包み込み、見守る姿は今作にも相通ずるものがある。ともに“待つ”ことに変わりはないが、えんは本来受身であるはずの行為を前向きに楽しんでいる節がある。その理由は、えんが“待つ”ことを心に決めたからではないか。宮崎は、えんの心の移ろい、決意を「算哲さんに魅力があると思えたからこそ待っていられたんだと思います。でなければ、待つ必要なんてないですものね」と理解したうえで演じきった。
主演の岡田とは、劇団ひとりの処女小説を映画化した「陰日向に咲く」以来、約4年ぶりの共演となった。徳川家に仕える碁打ち衆の家に生まれながら、算術と星をこよなく愛する算哲は、岡田の役者としての新たな一面をうかがい知ることができる役どころといえる。また、激しい気性と凶暴ともいうべき行動力をもつ水戸藩主・水戸光圀を演じた中井貴一、会津藩主で算哲に改暦事業を命じる稀代の名君・保科正之に扮した松本幸四郎をはじめ、市川猿之助、笹野高史、岸部一徳、市川染五郎ら豪華な面々に臆することなく、岡田は“座長”として先頭に立ち、撮影中もけん引していった。
その姿勢は、撮影後半の2週間というスケジュールで滝田組に合流した宮崎への気遣いにも表れた。「できあがった現場に入っていくというのは、普通に現場に参加するよりも緊張を伴うものです。皆さんのチームワークもできあがっているなかに後から入るわけですから。その不安みたいなものを感じさせないというか、現場での居心地の良さを与えてくれたのは、岡田君の存在だと思います。たくさんしゃべるわけではないんですけど」。その波及効果は、撮影隊全員からもにじみ出ていたそうで「監督やスタッフさんの『やっと来たね』みたいな思いに救われました。途中参加なのに、とても濃厚で豊かな時間を過ごすことができて、本当にありがたかったですね」と笑みを浮かべた。
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