森山未來が「苦役列車」で体現してみせた、行間を読み解く“五感力”
2012年7月13日 21:00

[映画.com ニュース] 俳優・森山未來の活躍が目覚しい。映画、舞台、ドラマと活動の幅は多岐にわたり、ひとつのジャンルにくくることができない存在だ。今年は「ALWAYS 三丁目の夕日’64」を皮切りに、「セイジ 陸の魚」「苦役列車」「北のカナリアたち」と、映画出演作は4本におよぶ。「苦役列車」で山下敦弘監督と3年ぶりにタッグを組んだ森山に、話を聞いた。(取材・文/編集部、写真/キム・アルム)
山下監督がメガホンをとったau LISMOの携帯ドラマ「土俵際のマリア」で、古賀ワタルを演じた森山。その際、「やっぱり映画本編でやりたいよね。次は本編で会おうね」という話になったという。今作で“再会”を果たすまでに、ドラマ版「モテキ」で役者同士として“遭遇”することはあったが、それぞれ濃密な3年間を過ごし、満を持しての再タッグが実現した。
森山は、演じる北町貫多との同化をはかるため、入念な役づくりに取り掛かる。昨年11月25日のクランクイン数日前からは、都内の宿で寝泊りする生活に突入。それは、クランクアップを迎える約1カ月後まで続いた。「本当に三畳一間に小さな床の間がついているだけだったので、頓着がなくなっていくんですね。掃除も断っていたので、万年床みたいになっていましたね(笑)。本と簡単な着替えだけ持って行ったんですが、あそこにずっといると不安になってくるんです。読む本も横溝正史だったりするので、それを読みながらの生活はきつかったですね。おのずと飲み屋街へ繰り出すようになるわけですが、逆に飲まずに寝ると変な夢を見るんですよ。何かにせっつかれているような怖い夢。飲まないと眠れない貫多の気持ちは理解できましたね(笑)」。
映画の舞台となるのは、1987年。日当5500円の港湾での日雇い労働にすがる貫多は、自業自得ともいえる素行の悪さ、凶悪な性犯罪者だった父をもつ引け目から友人も恋人もいなかった。誰も相手にせず、誰からも相手にされなかった貫多の心情たるや、いかばかりか。森山が、貫多を演じるうえで留意したのは感覚器官についてだ。
「声ひとつとっても、コミュニケーションを取るに当たって通しやすい声の高さやテンポがあるじゃないですか。そういうものは崩さなきゃいけないのかなと感じました。ハキハキとしゃべって、豪快に笑う。(心の)中でこねくり回してしゃべる感覚ではないんだなと」。
こう話した後、森山は筆者の目を2分弱にわたり見据え、話し続けた。「暗さを表現するとき、視線を合わさずに話すのではなく、誰かと話すときにこうしてじっと目をそらさないんじゃないかなと感じたり。ストレートにものを言いながら、目で何かを望む。さげすむでもないんです。上目遣いでもないし、下からでもない。『ずっとオレから離れるな』みたいな。そういうことをざっくりとイメージしながら現場に入りました」。そしてまた、現場では山下監督と二人三脚で貫多像を作り上げていったため、「インとアップの状態というのは、かなり変化していましたね。現場でしか見えてこないものがありますから」と話す表情からは、今作の撮影が俳優・森山にとって、どれほど充実していたかがうかがえる。
目、鼻、耳、口といった感覚器官を含め、“五感”を駆使して貫多という役と対峙(たいじ)した森山だが、本人にとっては何も特別なことではないのかもしれない。あらゆる役と全力で向き合い、全身で表現してきたからこそ、見る者へ伝えたい思いは確実に届く。希有な俳優だからこそ、作り手が放っておくはずもなく、今後も引っ張りだこの状態が続くはずだ。それだけに、より多くの作品に出演し、映画俳優の道を極めていく姿を見届けたいと思わずにはいられない。
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